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番外1147 南の大地

 艦橋とフォレスタニアの通信室で中継して話をしながらシリウス号が進んでいく。

 制御はアルファと計器に任せてあるが、今のところ問題なく推移している。迷彩フィールドは既に展開済みなので、このまま現地が見えてくるまで進んで行けるだろう。


 現地を統治しているのはネシュフェル王国という名らしい。砂漠地帯の終わった後の平原……つまりサバンナ周辺から熱帯雨林に至るまでの一帯を統治している、という話だ。


 ファリード王にとっては南方の隣国……ではあるが、バハルザード王国以南の砂漠地帯が特に過酷な環境だそうで。一応の交易路はあるものの魔力溜まりの間を縫うような経路であるため、バハルザードとの国交や貿易は細々としたものだと言う。


 流砂を作り出す魔物やら巨大蠍やら砂を泳ぐ鮫やら……砂漠らしい魔物の生息地帯という事で、かなり危険度が高いようだ。魔物そのものだけでなく自然環境が既に過酷だしな。


 シリウス号が今通過しているのは丁度そうした砂漠地帯の直上であるが――。


「んー。まあ、空は比較的平和かな。魔力溜まりは地脈を通じて地下から広がっているものだから……」

「砂中の魔物が幅を利かせているという事は、空の魔物は環境魔力にありつけないでしょうからな」


 オズグリーヴが顎髭に手をやって言う。一方で高山や断崖に魔力が流れ出しているタイプの魔力溜まりもあり、そういった土地では飛行型の魔物が主流になったりするな。


 そんな話をすると、みんなも安心した、というような反応を見せていた。まあ、魔力溜まりは厄介だが、長い時間をかけて形成されたものだし、あまり迂闊に手を加えられないというのはある。

 シリウス号の航行に影響がないならそれで良いだろう。それと……もし今後、ネシュフェルと国交を深めたり、貿易の規模を大きくしようとするなら、高高度を維持しての空路というのはかなり有効かも知れないな。


 まあ、ネシュフェルの為政者や政情もよく分からないので、そういう話に発展するかどうかは全くの未知数である。今から向かう場所もネシュフェルの近隣ではあっても王国そのものではない、という情報だしな。


 そうして不毛の砂漠地帯の、更に向こうにまばらに草木の生えた地帯が見えてくる。サバンナだ。


「おお。何やらあの辺から景色が変わるようじゃな」

「そうだね。少しだけ速度と高度を落として見てみようか」


 ルベレンシアが興味を示したので操船席の水晶球に触れて、サバンナの様子を見ていく事にした。ルーンガルドではこういった地域は初めて見るので、俺としても興味があるというか。実情を見ておけばネシュフェルと関係なくても多少の情報収集になるだろうしな。


 砂漠地帯を抜けて上空まで来てみたが――。背の低い木々が所々に散らばって生えていて、いかにもサバンナといった雰囲気だ。

 空から見ているので遠景まで見通せるが……あちらこちらで動物か魔物かは判別がつかないものの、種族毎に生き物が群れを成しているのが見て取れる。


「ふむ。拡大して見てみますか」

「おお……。あれは変わった顔をしておるのう……! 炎熱城砦の兵士にも似ておるか」


 ウィンベルグが水晶板を操作すると、ルベレンシアは嬉しそうにそれを覗き込む。ルベレンシアが見ているのは、象に似た生き物の群れだな。体表が装甲のように変化しているが、鼻や全体的なシルエットは象に似ている。


 それから、キリンに似ているが首が伸び縮みする生物や、長い牙を持つライオンに似た生き物もいて……中々に興味深い生態系だな。牙ライオンは日中だからあまり活動的ではなく、木陰に集団で寝転がっていて狩りをする様子は見られない。


『確かに変わった生き物が多いわね。魔物かしら?』


 通信室に顔を出していたアドリアーナ姫が首を傾げる。


「魔物か動物かは……直接魔力反応を見ないと判別がつかない所がありますが……迷宮核が情報収集している、かも知れませんね」


 魔力溜まりからはもう外れているから、通常の動物か魔物かは判別しにくいが、生命反応も結構大きかったりする。環境魔力にそこまで依存しない魔物、というのもいるから直接魔力反応を見てみないと、上空からでは何とも言えないというか。


 そうやってサバンナ地帯を観察しながら進んでいき、色んな生物を見た後で、頃合いを見ながら段々と元通りに高度と速度を上げていく。


「む。あれか?」


 テスディロスが遠くに霞む景色を見ながら声を上げた。


「そうだね。あの場所だ」


 赤道に近い土地でありながら山頂付近に氷河がある程に標高の高い山、ということらしい。

 そんな場所なので、星球儀でもその位置は見て取れる。まだ遠く霞んでいるが……高度を上げた関係で、視界にも入ってきたようだ。


「ふむ。山頂付近は前に我がいた山に似ているか」


 ルベレンシアが言う。山頂付近は雪が被っているからな。ルベレンシアが竜だった頃は雪山を根城にしていたから懐かしさを感じるのだろうか。


 とりあえず、目的地は見えてきた。ネシュフェルでの情報収集は後回しにしつつ、先にあの山に向かい、すべき事をしていかないとな。


「かなり大きな山ですな」

「そうだね。ガルディニスの話だと……山頂から方角を合わせて尾根を目印に進むと良いと言っていたけれど」


 ガルディニスの話というか誘導は結構明確で分かりやすいものだった。現地に行けば恐らく一致する場所も見えてくるだろう。後は魔力反応で細かな場所を特定していけばいい。


 というわけで、速度と高度を調節しながらまずは山頂を目指して進んでいく。冥府のヴァルロス達も興味深そうに艦橋からの中継映像を見ているようだ。


「良し……。まずはここから、かな」


 やがてシリウス号は山頂の直上まで移動し、そこに陣取る。


「地形の特徴からして――こっちを向けば、ガルディニスの目指した方向か。磁石の向きもあっている」


 山頂を中心にシリウス号の船首を西側の尾根へと向ける。東側にネシュフェルがあるので、なるべく人里から離れた方向を選んだらしい。

 そんなわけで、尾根伝いに進んでガルディニスの教えてくれた情報に一致する地形を探していく。

 陽当たりの良くない谷間の隙間を隠れ家として改造したと、語っていたけれど……さて。


「――あれかな。第二峰の切り立った山頂」


 連なる山岳の、最も高いところを第一峰山頂、二番目に高いところを第二峰山頂とし、それらを目印にガルディニスは進んだという。

 ガルディニスも俺達も、空を飛んでいるので同じ視点で場所を探す事ができる。ガルディニスの言葉によれば、訪れる季節の日の出の位置も、目指すべき方向の目印になる、と言っていたな。


 星球儀と魔法の明かりを宙に浮かべ、魔法の明かりを太陽と見立てる。

 ウィズと共に計算し、ガルディニスが隠れ家を訪問していたであろう概ねの季節と太陽、ルーンガルドの位置関係を合わせ、朝日の昇る位置を合わせていく。


『なるほどな。これならガルディニスの言っていた場所を特定できるか』


 ヴァルロスがそれを見て感心したように頷く。


「そうだね。ガルディニスが訪問していた季節にこの付近で日の出を見たとするなら……あの辺の尾根から日の出が見える事になるかな。そこから辿っていくと……こっちの方向だ」

「おお……面白いな」


 と、ルベレンシアが声を漏らす。みんなも興味津々といった様子だ。

 進むべき方向に船首を巡らせ、迷彩フィールドを展開したままでゆっくりと進んでいけば――やがてそれらしき谷間が見えてくる。


「あれ……かな。シリウス号を停泊させて、細かく見ていこうか」


 そう言うと艦橋や通信室、中継で状況を見ているみんなが、神妙な面持ちで頷くのであった。

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