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番外1145 隠れ家を探すために

「――双子、か。ステフは中々大変そうよね」

「ふふ。でも私としては嬉しく思っていますよ」


 魔道具に関する諸々も決まり、工房でのんびりとした空気の中で談笑する。やはりみんなの興味は子供達の事のようで、そうした話題の中でジオグランタがそう言うと、柔らかく笑って応じるステファニアである。


 そう。ステファニアに関しては子供達の生命反応が強く大きくなってくると、双子である事が判明して……。大変そうというのはそうなのだが、当人は判明した時も今も同じように、嬉しそうにしていた。


「そうしてステファニアが落ち着いているから、わたくし達も落ち着いていられるというのはあるわね」

「それは――確かにありますね。体調はみんな良いですし、その辺りでの気掛かりがないと言いますか。それに、周りの皆さんも応援してくれていますし」


 ローズマリーの言葉にグレイスがそう答えると、マルレーンもにこにことした笑みを見せる。


「確かに、環境面では心強いかもね」

「ふふ、そうね。サンドラ院長も気合を入れていたし」


 俺の言葉にイルムヒルトがにこにことした笑みを見せる。

 子育てに関してはまあ、みんなで協力しようというように話をしているし、イルムヒルトの言うとおり孤児院のサンドラ院長以下、月神殿の巫女達も「子育ての事でお困りならいくらでも相談に乗りますよ……!」と気炎を上げていたからな。


 迷宮村のみんなも祝福してくれているし、ロゼッタやルシールもバックアップの体勢を万全にしてくれている。……そういう意味では環境面でかなり恵まれている、というのは確かだ。当人が精神的な面で安定している、というのも俺としては安心できる部分かな。


「子供達に会えるのが楽しみですね」


 アシュレイが言うとみんなも表情を綻ばせて頷き、そうしてティーカップを傾けつつのんびりとした時間を過ごさせてもらったのであった。




 さてさて。工房での魔道具の打ち合わせから数日。まず監視用の外付け魔道具が出来上がったとアルバートから連絡が入ったので、早速工房の中庭で、ハイダーに持たせての起動テストなどを行う事となった。


 試験する内容としては外付けの魔道具を装備した状態でハイダーの偽装と中継機能に問題が出ないか。遠隔での結界発動。魔道具を目標とした召喚術での転移と言った機能の確認だな。


 自然石に見せかけた魔道具を背負って、さながらヤドカリのような姿をしたハイダーである。


「中々趣のある姿ですね」


 と、エレナが微笑むとシャルロッテもうんうんと頷いていた。


「それじゃ、これから行ってみようか」


 と言いつつ岩肌をそのまま一部分切り出してきたような四角い実験装置を差すと、ハイダーはこくんと頷いてその上に登る。


 自然石と一口に言っても種類によって色々な質感、形がある。環境としてはガレ場に岩肌、草地に雪原等々……色々考えられるが、諸々の環境に同化して偽装できるかどうかの試験というわけだ。

 背負った魔道具ごと土魔法で形成した岩肌へと、周囲に潜るように同化していくハイダー。ハイダーの同化に巻き込まれるように魔道具も周囲と馴染んでいく。自然石の魔道具にこうした迷彩、隠蔽魔法等も組み込まれているからな。ハイダーの同化に偽装しながらついていく事ができる。


 そうやって同化した状態でも問題なく魔道具が機能するかも試していく。結界の構築と転移回りだ。


 工房の部屋に戻って、窓から合図を送ると岩の中から目だけ出したハイダーがこくんと小さく頷いて、工房の中庭に置かれた樽や木箱など……諸々に影響を与えることなく地形に合わせて光の壁――結界が展開される。


「いいね。それじゃ、次は内部への転移かな」


 召喚術の応用でハイダーのいる場所へと飛ぶ試験だ。


「同行できるか協力しよう」


 と、テスディロスが申し出てくれる。「ありがとう」と、その言葉に頷いてマジックサークルを展開。一瞬遅れて光に包まれる。

 ――これも……上手くいったようだ。光に包まれ、それが収まったかと思えば、中庭に展開された結界の内側に移動していた。

 結界に契約魔法を組み込んで中継機能や内部への転移等々、許可のあるものだけ出入りできるという仕様だな。


「ん、問題無さそう」


 工房の中からサムズアップをこちらに見せてくれるシーラである。うむ。


 そうして結界を解いてから更に環境同化の試験を続けていく。魔石の属性や容量の関係から水魔法までは組み込んでいないが、表面の質感を変える事で雪原に溶け込む事は可能だ。細かな石英の粒のような形、質感を整える事で雪の質感を再現する、というわけだ。


 そんな調子で諸々の環境に同化可能な事を確認する。土魔法や水魔法を駆使して色んな環境を用意し、一つ一つ同化して仕上がりを見ていく、というわけだ。


「コルリスの属性を付与した魔石が組み込んであるから、土や岩関係の制御はかなり精度が高いようね」


 ヴァレンティナがその仕上がり具合を見て満足そうに言うと、コルリスはこくんと頷いていた。


「魔道具に関しては大丈夫そうね」


 試験結果は上々だろう。それを見たクラウディアが頷く。


「そうだね。監視の目の設置だけは早めに行く事になるかな。問題が起きる前に足を運んでおきたいところではある」

「引き続き、俺達も同行したい」

「同じく」

「ああ。ありがとう」


 テスディロスとウィンベルグの言葉に頷く。今回はガルディニスの隠れ家への訪問なので他の魔人と出会う可能性は低いが、魔人絡みの一件である事には変わらないしな。

 テスディロス達だけでなくオズグリーヴとオルディアも引き続いての同行を希望している。


「食糧関係は、冥府訪問で用意した分がまだ残っているから、それをシリウス号に積みこめばいいとして……現地に飛ぶ分には準備期間を設けなくても問題ないか。ついでに、現地の情勢も見てくる、と」


 砂漠地帯を挟んで距離があるので互いへの影響力が薄いとはいえ……バハルザードの隣国である事には変わらないしな。政情に不安がないか調べてくればファリード王としても喜んでくれるのではないだろうか。


「人里までは……結構距離があるらしいですね」


 エレナが真剣な表情で言う。


「ガルディニスの話ではね。かなり標高の高い山で、立ち入る人は少ないらしい。現地で秘境を求めて情報を集めたらしいから」

「場所の選定に至るまでは人との接触もあった、という事ですな」


 と、オズグリーヴが思案しながら言った。


「そうだね。そこから考えると目撃情報は完全完璧に隠れ家の情報が秘匿されているっていうわけではないし……監視の目を置くだけとは言っても、油断しないで進めたいところだな」

「教団の残党がそのあたりの目撃情報から追ってくる、という事は有り得るか」


 パルテニアラが思案しながら言う。そう、だな。その辺りは確かに。

 特に南方はデュオベリス教団の活動域なのだし、下火になっているとはいえ、残党がいないとも限らない。教団が窮地であるからこそ教祖であったガルディニスの情報を求めて過去の足取りを追う……というのは可能性として絶対にない、とは言い切れまい。


 それに、現地の政情関係も少し情報不足だ。何かあればバハルザードにも伝わるだろうから、現地の政情が混乱している、という事はないだろうが、情報収集を行うにしても、現地の人達と接触を行うならばまずカドケウスに斥候として向かってもらうなど、慎重に進める必要があるだろう。


 ともあれ、隠れ家の監視に関しては準備もできた。現地での情報収集も含めてスピーディーに進めて行きたいところだな。

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