番外1144 作戦の舞台裏
さてさて。すべき事も纏まり、計画も立てたので早速翌日から独房の面々との約束を果たすために動いていく事となった。
今回の冥府滞在は短めだったので執務に関してはそれほど時間もかからず処理を終えている。
というわけで日々の執務も終わっているので、工房にみんなで集まって魔道具作りからだ。
ガルディニスの隠れ家付近に監視の目を置くのは良いのだが……例えば潜入を試みた者がいた場合に、時間稼ぎができた方が色々と安心だろう。
だから、一時的な結界を展開できること。それからノーズとサウズのように、召喚術の応用で現地に飛べることあたりが魔道具に求められる機能になるだろうか。
今回の場合は飛んでいく先も現世だし、戻る場所もフォレスタニアやタームウィルズだから、ノーズとサウズのように専門の能力を持たせなくとも良い。
ペアリングしなくても魔道具の補助だけで飛んで用件を済ませた後に戻って来られるから、魔道具作りとしてもそれほど難しいものにはならないだろう。
ガルディニスの拠点に影響を与えないように、地形に沿った結界の展開の仕方を考えて術式を紙に書きつけるなどしていく。それから、意識を逸らす隠蔽術を組み込んだり、転移目標にできるように術式を組めば、必要な能力はほぼ搭載できるはずだ。
「これで……大丈夫だと思う。後は魔道具本体をハイダーに預かってもらうだけで諸々機能させられるはずだ」
「なるほど。ノーズやサウズにとっての分析器と同じ方式でしょうか」
「外付けの拡張方式だね。魔道具自体も分析器と同じように自然石に見せかけてハイダーの能力で現地の風景に溶け込ませるとか、そんな運用を考えてる」
首を傾げるグレイスとそんなやり取りを交わしつつ魔道具の性能、デザイン等を決めていく。隠れ家監視の次は、儀式用の碑の設置に関してだな。これに関してはモニュメントのデザインから考えていく必要がある。
「これに関しては……こうやって形を整えた石に、ベリスティオの家紋を刻むような感じで大丈夫かな」
マルレーンからランタンを借りて幻影で完成予想図を映し出す。簡単に表現するなら六角形の柱を斜めに切り、断面部に家紋を刻む、というようなデザインだな。
素材は……野外に設置する事を考えると御影石で作るのが良いだろうか。大理石は劣化しやすいので野外設置には向かなかったりするし。
ただ……これに関しては素材そのものを慰霊の神殿で祝福しておく必要がある。シャルロッテとフォルセトは「お任せ下さい」と張り切っている様子であった。
「ん。立派な石碑感がある」
シーラが幻影を見て頷くと、みんなも興味津々といった様子で幻影を覗き込んでくる。
幻影では表面を磨いて光沢を出した質感になっているな。角も少し丸みを帯びさせて、あまり厳つい印象にはしないように気を付けた。まあ、和解と共存のための碑だからな。
「儀式の時まで偽装できれば良いからね。ここは少し悩ましいところで……隠しておきたいけれど、見て碑だと分からないと意味がないというか……」
こういった物はそこに寓意を込める事が重要なので「見た目は何でもいい」とはならない。本来碑は何かを伝えるためにあるもので、隠蔽したいものではないからだ。
「とりあえず、出番が来るまでは隠蔽術とメダルゴーレムの変形機構で外側を覆ってやれば大丈夫かな」
「工房としては、その偽装部分を作る感じだね」
と、笑顔で応じるアルバートに俺も頷く。メダルゴーレムを利用しているので工房の負担は減らされているが、効果はしっかりとした感じで進められるだろう。
エルハーム姫もベリスティオの剣の修復に取り掛かっているというか、かなり集中して力を注いでいるし、工房の負担を減らすに越した事はないからな。
「ふふ。テオドール達の魔道具作りは賑やかで楽しいものだな」
「こうして案を練って実行に移していた、というわけだな。魔界の時も同じように計画を進行させていたのかと思うと、確かに見ていて楽しいものがある」
パルテニアラが言うと、メギアストラ女王も笑みを浮かべた。メギアストラ女王は魔界迷宮についての報告がてらルーンガルドに来ていたのだが、工房の作業についても見てみたいと希望したので、こうして遊びに来た、というわけだ。
パルテニアラやジオグランタ、ティエーラとコルティエーラ、メギアストラ女王、アウリアといった面々が腰を落ち着けて工房の作業を見学しながら談笑中というわけだ。
アウリアに関してはまあ、純粋に遊びに来たという感じだ。冬場で仕事も少なめだから片付いた、と本人は言っているが。
冷静になると錚々たる顔触れではあるが、みんな楽しんでくれているようで何よりだな。
魔界迷宮については……様々な種族の者達が迷宮探索をすべく王都を訪問してきている、との事だ。魔石や魔物素材も産出し、中々良い具合に推移しているとの事である。
迷宮が出来てから内部に入った探索者がどの区画に向かった等の統計を取れるシステムを組んでみたが……まあ、メギアストラ女王がプリントアウトしてきてくれたそれを見る限りでは、探索者達は結構慎重に動いているようだ。
進んで欲しくない区画の手前に攻略の難しい場所を用意したり、危険度の高い区画や大部屋はそれと分かるように扉に装飾を施し、迷宮に潜る前にそうした場所についての注意喚起をしたりしているからな。
まあ、そうした事もあって、こちらがある程度想定した通りに迷宮探索の進行度合いをコントロールできているようだ。
「話題を呼んで人が集まっているが、迷宮にはまだまだ不慣れという事なのだろう。統計から見るに、慎重に探索してくれているように感じられるのは良い傾向だな」
メギアストラ女王はそんな風に報告がてら感想を伝えにきてくれたわけだ。
「やはり危険もありますからね。今は各々手探りでいるでしょうし、どこでどんなものが確保できるかの情報も分からないので、深部の素材を確保するために危険を承知で無理をするような段階でもないかなと」
そう答えるとメギアストラ女王も納得したように頷いていた。
これがゲームだったら……というかBFOだったら深部へ深部へと積極的に潜っていくプレイヤーが多いのだが。未知の素材やアイテムは、プレイヤー間で相当な値の取引がされたりするからな。
まあ、実際にそんな事をやっていたら命が幾つあっても足りないという事だ。
BFOでは満月の迷宮の最奥は閉ざされていてその先は未実装なので攻略する意味はない、とアナウンスされているのにも関わらず、高レベルの魔物と戦うためだけに踏み込んでいく輩も多かった。
いや……俺も喜んでチャレンジしていた口なので、人の事はとやかく言えないのだが。
そんな調子で、魔界迷宮の方は順調な印象がある。種族ごとに想定した区画探索もして貰っているようで、ギガス族やインセクタス族等々、それぞれの種族からの評判も良いとの事だ。
「ふうむ。皆の体調についてはどうなのかな?」
「ふふ。私達に関して言うなら、みんな体調も良いですよ」
「テオドールに循環錬気で反応を見てもらった時も、往診の結果も良いものだったわね」
「おお、それは何よりよな」
顔を見合わせて頷き合うグレイスやステファニアの反応にメギアストラ女王は表情を綻ばせ、パルテニアラも満足そうに頷いていた。
「喜ばしい事じゃな。儂としても子供達の顔を見るのを楽しみにしておるぞ」
そんなアウリアの言葉に、工房に遊びに来ている面々は表情を綻ばせるのであった。