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番外1143 和解を目指して

「――イスタニア王国貴族とシルン伯爵家は……やや遠いながらも血縁があるのです。親戚筋として言うには大分遠くなってしまいますが、父上――先代シルン男爵がタームウィルズを訪れた折、イスタニア王国の貴族と知己を得る機会があり、そこから話が膨らんで私の留学に繋がったわけですね」


 フォレスタニアにやってきたエリオットが、シルン伯爵家とイスタニア王国の関係について教えてくれる。


 イスタニア王国は、シルヴァトリア王国から見て南西の海に浮かぶ小国だ。南西と言っても緯度としては高い方で……北極圏が近いシルヴァトリア王国やエインフェイス王国の北部程ではないにしても、冬の寒さが厳しいイメージがある。

 シルヴァトリア南方のジルボルト侯爵領も、冬場はかなり寒い。今の時期は冬の真っ只中なので、イスタニアも北国らしい装いなのではないだろうか。


「イスタニアは……今の時期は大分寒そうですね。加護のお陰で、寒さはそこまで気にしなくても良さそうですが」

「そうですね。あの国の冬は中々厳しいものがあります」


 と、エリオットが頷く。それから続けて口を開く。


「記憶が戻ってからは討魔騎士団として動いていましたし、その後は領地の事で動いていましたから、書状は送っていましたがイスタニアに赴く機会がある、というのは私としても嬉しいですね。留学中の知己に挨拶をしに行く事もできますし、その伝手で話をしやすくもできるのではないかな、と」


 そう言ってエリオットは穏やかな笑みを見せる。


「なるほど。それは助かります」


 面識がある人物が同行して渡りをつけてくれるというだけでも、話をしやすくなる。特に……エリオットは人柄が良く、信用してもらいやすいと思うので有難い話だ。


 イスタニアはシルヴァトリアから近いという事もあって、その影響から魔法関係についても結構発達した国であるらしい。エリオットは魔力が高かったので、その辺も含めて留学先としては良い国であったそうな。


「では――同行中はシリウス号とオルトランド伯爵領の間で中継ができるようにしておきましょう」

「ああ。それは助かります」


 オルトランドはエリオットの伯爵としての家名だ。元々ステファニアが王族として預かっていた場所で、シルヴァトリアに臨む重要な地域でもある。シルヴァトリアとの関係は良好だから懸念は少ないが、エリオットとしても出先でも領地と連絡がつくというのは安心だろう。


 それから……留守中のカミラについての話になる。領地でエリオットの帰りを待つより、フォレスタニアでみんなと過ごしてもらう方が安心かも知れない、との事で。


「僕としても歓迎ですよ。フォレスタニアならその点、みんなもいるので賑やかですし、ロゼッタさんとルシールさんも往診に来てくれますからね」


 エリオットも交えて循環錬気で整調しているという事もあり、カミラの体調は良い。フォレスタニアに来る機会も多かったので、慣れない環境でストレスを感じる、というようなこともないだろう。


「私もカミラ義姉上が逗留なさるというのは嬉しいです……!」

「ふふ。ありがとうございます、アシュレイ様。それでは……エリオットが出かけている間はよろしくお願いしますね」


 俺の言葉にアシュレイが微笑み、カミラもその言葉に穏やかに応じる。みんなもそんなやり取りに表情を綻ばせて……そうしてエリオット不在中の話もまとまった。


「ガルディニスの隠れ家については――全く方向が逆、という話だったね」


 アルバートはティーカップを傾け、一息ついてから尋ねてくる。


「そうだね。南方になるし、封印の解放可能な時期がもう少し先になるから……一先ずの対応策として、監視の目を置きに行く必要があるかな」


 ガルディニスに限らず、独房の面々は会合場所や隠れ家、封印のある場所等々……正確な場所を教えてくれたので、こちらとしてもそれぞれの場所に向かう分にはそれほど苦労はしない。


 南方なのは……やはりガルディニスだからな。デュオベリス教団が活動していたのも南方が中心なので、自分の行動しやすい範囲に隠れ家を作ったのだろう。


 但し……この隠れ家に関してはバハルザード王国の勢力圏からは完全に外れる位置にある。

 砂漠地帯から更に南方へ進む事になる。赤道に近い付近の山岳地帯という事で……。まあ、場所としては分かりやすいが、この辺は水源になりそうな場所なので石化の罠が発動してしまうと、色々予期せぬ影響が大きそうだ。


 ガルディニスによれば、それと知って非正規の手段で暴こうとしなければ問題ないと言っていたから、野生動物や魔物の活動、自然災害等によって偶発的に罠が誤作動してしまうような危険はないだろうとの事だ。魔法的な封鎖もしてあるので悪意がなくとも侵入できるという抜け道があるわけでもないらしいが。

 契約魔法を応用した方式なのも……そういう事態を想定して誤爆を避けるためではあるのだろう。力技での突破がしにくいので厄介に感じてしまうが、ガルディニスの魔法技術の高さも相まって、誤爆しにくい、という点は安心ではあるかな。


 この辺の事情も改めてグレイス達やエリオット、アルバートも交え、星球儀や模型を使って地理、政情関係と共に説明していく。


「ただ……この一帯に関してはバハルザード王国と交易はしていても、そんなに結びつきが強いわけじゃないらしい。同盟の支援や影響力は期待しにくいところがあるかな」


 ガルディニスの遺産に関する情報は広めたくないし、件の山岳地帯に関してはファリード王の話によるとどうやら……現地の国や氏族の影響力から外れているらしい。


「余人が立ち寄るような場所を隠れ家にするわけもないですからな」


 オズグリーヴが納得したように頷く。この辺は隠れ里を作っていたオズグリーヴとしては理解できる部分ではあるのだろう。


「隠れ家に関しては隠密行動で監視の目を配置し、時期がきたら回収という形で問題なさそうね」

「そうだね。監視だけは早めに対応しておこう」


 ローズマリーの見解に同意する。


「魔人達の各氏族の会合場所については結構広範囲に広がっているけれど、同盟各国で対応できない場所はなさそうだね」


 まあ、基本的にシリウス号で移動して隠密フィールドを纏ったまま設置して回るという方法を考えているので、行動の許可をもらう、という形になるが。


「魔人達への和解と共存については同盟各国も賛同しているし、会合場所への干渉に関しても賛成と言っていたわ」


 ステファニアが言う。この辺については魔人達との戦いの記録を調べてもらう上で連絡を取ったが、各国の面々も賛同してくれている。

 為政者としてドライな視点で見たとしても、血を流さずに将来に渡って魔人の問題を解決できるのならそれに越した事はないからな。


 というわけで独房組それぞれの情報を纏めた上で、アルバートとも話し合い、どんな魔道具が必要になるのか、どの手順で進めていくのか等の計画を練っていく。


 まずはガルディニスの隠れ家への監視役を配置。次にウォルドムとの約束。その後に各地へのモニュメントの配置をして儀式をしていくという事になるか。

 ガルディニスの遺品回収は時期が来たらということで、進捗次第で前後する事になるかも知れない。


「僕としてはまず、監視役が結界を展開できる魔道具を作れば良い、ということになるかな」

「順番としてはそうなるかな」


 俺の返答にアルバートは笑顔で頷くと、しみじみとした調子で言葉を続ける。


「テオ君の仕事を手伝える事を嬉しく思っているよ。今後の平穏のためでもあるから気合も入るっていうものだよね」


 そんなアルバートの言葉に、工房の面々も笑顔で頷いていた。うん。俺としても……そういう期待にはきちんと応えたいな。ヴァルロス達や独房の面々とも約束をしているし、これらについても気合を入れていきたいところである。

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