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番外1141 ナハルビアの民達は

『すごい昇念石ですね……』


 水晶板の向こうでエルハーム姫が言う。エルハーム姫もフォルセトと同じく、面会の事で連絡を受けてフォレスタニアに姿を見せているのだ。


「これ程の結晶が形成されるのは稀な事ではあるな。それだけ互いに込めた想いが強いものであったのだろう」


 ベル女王が静かに頷く。ヴァルロスにとっては何かあるたびに思い返していた出来事なのだろうし、オルハンとエスラにしてみれば三十数年越しの想いだ。

 ナハルビア城で暮らしていた者達も冥府を去ってしまい、オルハン達は上層で暮らしていたとはいえその者達の気持ちも受け取ってきた。それを……ようやくヴァルロスに伝えられたというのなら、そうもなる、か。

 オルハンとエスラはエルハーム姫の姿に、懐かしそうに目を細める。


「シェリティの娘か。エスラの若い頃にも少し似ている」

「ああ――こうして顔を合わせる事ができるとは」


 二人から見ると孫娘、という事になるからな。エルハーム姫の姿を見て、すぐに気が付いたようだ。


『はい、お爺様、お婆様。お初にお目にかかります。エルハームと申します』


 エルハーム姫は丁寧にオルハンとエスラにお辞儀をして、お互いに柔らかい笑顔を向けあっていた。

 ファリード王とシェリティ王妃も、連絡を受けているのですぐに顔を見せるだろうと、エルハーム姫が伝える。前回の墓参りには俺達と一緒にはできなかったが、今回は是非にでも、という返答があったようだ。


「ファリード王には……感謝してもし切れぬな。ナハルビアの者達がバハルザードに迎えられて、先々の事がどうなるかと我らも冥府で不安に思っていたが、幾度も立場を守るために動いてくれた」


 ファリード王は折に触れて暗君であった先王から庇い立てし、できるだけナハルビアの民に便宜を図っていたらしい。

 ファリード王はナハルビアの国体を維持しようと動いていたが……当時はまだファリード王もシェリティも子供で先王に逆らい切れない部分もあった。


 ナハルビアの民を繋ぎ止めるために当時王女という立場だったシェリティとの婚姻関係を結ばされたという話を聞くが……ファリード王とシェリティ王妃はお互いを信頼しているし、マスマドルを預かる太守のファティマもナハルビアの出身だが、ファリード王に忠誠を誓っている印象だ。


 先王や悪徳宰相のカハールを打倒する際の戦力として、ナハルビアの者達もファリード王に協力しているからな。結局周囲の意向がどうであれ、ファリード王自身はナハルビアの者達に誠意を尽くしたのだろうというのは分かる。

 と、そんな話をしているとファリード王とシェリティ王妃も姿を見せた。水晶板の中継映像ではあるが、ファリード王は恭しく二人に礼をし、シェリティも驚きの表情の後でファリード王に倣って礼をする。


『お初にお目にかかります、義父上、義母上。ファリード=バハルザードと申します』

『父上……母上……ご無沙汰しております。シェリティです』

「ああ。ファリード王。シェリティ。こうして言葉を交わせる日が来るとは」

「立派になりましたね。二人とも……元気そうで良かった」


 対面と再会を喜び合う二組の王と王妃を見て、ヴァルロスも静かに目を閉じる。オルハンが先程までのヴァルロスとの経緯を説明すると、ファリード王とシェリティ王妃も真剣な表情でそれに耳を傾けていた。

 それから、オルハンとエスラはファリード王に、ナハルビアの民の事で礼を口にする。


『自分にとって……最善とは言えない部分もありましたが』

「国体の事ならば気にする事はない。冥府にいても情報は入ってくるが……世間に流布している情報とは少し違うのだろう?」

『ファリード様は反対して下さいましたが……婚姻する事で民も助かるだろう、と私達から説得したのです』


 シェリティの言葉に、オルハンは静かに頷く。ファリード王とシェリティ王妃が婚姻する事で繋がりを作り、ナハルビアの民を統治しやすくする、というのが先王の目論見だったのだろうが。そうした目論見を飲み込んだ上でファリード王とシェリティ王妃達は信頼関係を構築した、という事だ。


「ナハルビアの民も今はファリード王の統治下で、平穏に暮らしている。今の形は良いものだと受け取っているし、感謝の言葉を伝えたいと思っていた」

「娘と孫の事も、よろしくお願いしますね」


 オルハンとエスラの言葉にファリード王は真剣な表情で頷く。そうして真剣な話も一段落し、シェリティ王妃とエスラはお互いの近況を話したり、フォルセトと挨拶を交わしたりして、和やかな雰囲気になっていた。

 エルハーム姫とロシャーナク……それに通信室のみんなもそんなやり取りに目を細めて、嬉しそうに微笑んでいる。


「やはり、お話に来て良かったです」


 と、ロシャーナクは笑顔をヴァルロスに向ける。


「そう、だな。俺も、今の在り方は間違いではないと……そう思えた」


 ヴァルロスも少しだけ目を細めて答え、ベリスティオや他の魔人達、レイス達もその言葉に各々思うところがあるのか、目を閉じたり遠くを見るような目になったりと、感じ入っている様子であった。


 ともあれ、冥府での用事は諸々終わっているからな。このまま少しのんびりさせてもらおう。




 そんなわけでロシャーナク、オルハンとエスラに現世のファリード王やシェリティ王妃も交えて、色々と話をさせてもらった。


 昇念石については俺もヴァルロスも、冥府で活用して欲しいとベル女王に委ねている。俺達が持っていても使い道に困る部分もあるしな。

 ベル女王としては、中層や下層にとって良い方向で使えるように、検討した上で使い道を伝えると約束してくれた。蜂の巣を倒して出た昇念石はともかく、ヴァルロスの昇念石については有意義な使われ方をして欲しいというのは、この場に立ち会った者としての人情というものだろう。


「まあ、昇華されたとはいえ、自分の気持ちがそれで変わるわけではないとは思うが」

「そうだな。使い方にしても、冥府の在り方を考えればそうおかしな事にはなるまい」


 と、オルハンとヴァルロスが言う。まあ、当人より周囲の方が大事にしているというのは……気持ちを尊重している、と考えればそう不自然なものでもないとは思うが。


 ともあれ、昇念石についても話が纏まり、そうして俺達は茶を飲みながら現世に戻ってからの事について話をする。


「独房の面々との約束を果たすところから進めていく事になるかな。幾つか優先しなければならない事もあるけれど、会合場所と思われる場所に慰霊神殿にちなんだ碑を設置して、儀式の力が作用する下地を作る、と。儀式を行う日程等々に関しては、また連絡するよ」

「分かった。それまでに少しでも想いが届くように神格を高める努力をしておこう」


 ベリスティオが頷く。


「話を聞いている限り、今残っている魔人達の多くは戦闘能力に劣る者達のようだからな。接近しても遭遇は向こうから避けるだろうが……まあ、油断はするべきではないな」


 俺の言葉を受けてヴァルロスが言う。確かに……まだ和解どころか面識すらないからな。


『和解を目標にしてもその為の過程で見通しが甘いようでは意味がない、という事ね』


 ステファニアが真剣な面持ちで言う。そういう事だな。

 碑――モニュメントの設置は察知されないように慎重に進めるべきだろう。

 そうやって、会合場所やガルディニスの遺物に関する話をしたりと、その場にいる面々と改めて話し合い、今後の方針を定めていくのであった。

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