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番外1139 中層で待つ者は

 巣の崩壊と同時に蜂達の動きが大きく乱れた。群体であるから、全体が一つの生き物のように動けるのは強みだが、逆にこういう弱点もある、という事だろう。巣の崩壊は司令塔が破壊されたようなものだろうか。


 地面に落ちた巣が砕けたところから浄化されて中空に光の粒となって消えて行く。蜂達もそれに引き摺られるように――そのまま光となって散るもの、動きがおかしくなるものがいた。どうやら破損個所に連動しているのか、そのまま巣を守るように戦闘を続行する蜂も残っているようだ。


「このまま押し切る!」

「おおっ!」


 俺の声に応じて気合の入った声が返ってきて、みんなも蜂達に向かって突っ込んで行く。先程までは全体が連係して個々の動きの隙を別の蜂がカバーしてきたが、巣の崩壊に伴ってその能力も失われているのか、対応にも精彩を欠いている印象がある。


「おおおっ!」


 裂帛の気合と共に母さんやユイ、ゼヴィオン、ルセリアージュと共に切り込んでいく。

 魔力光推進――。加速しながらマジックサークルを展開し、すれ違いざまに術を叩きつける。


「ソリッドハンマー!」


 魔力光推進の勢いに乗せて展開した大岩を振り抜けば、先程は打擲に耐えた蜂も身体の一部を吹き飛ばされて光となって散る。

 母さんは光の刃を腰の接合部目掛けて振り抜き、蜂を両断する。

 ゼヴィオンが炎の大剣を叩き込み、ルセリアージュが舞剣で串刺しにして回り――ユイはユイで鬼門を開いて長大に変じた薙刀の一撃を直接巣に向かって打ち下ろしていた。


 やがて自己の維持可能な損耗率を超えたのか、ある瞬間に蜂達と巣が一斉に光となって弾け飛んだ。清浄な魔力が広がったかと思うと、一点に向かって集束していき、澄んだ色の宝石となって転がる。

 凝り固まった人の念が浄化されて、昇念石に変じたらしい。


 では――このまま残りの疑獣を排除していこう。




 そうして戦闘も終わり、周囲の疑獣達も前衛後衛を入れ替えて更に戦闘を重ねた後で――俺達は管理区へと戻る事となった。

 大物との戦闘もあったし、索敵も可能という事もあってかなりの数の敵を掃討したからな。

 今後も冥府には足を運ぶ機会もあるから出撃から帰還まで一通りを通してみようというわけである。深層は中央の石碑から現在の座標や戻るべき方角が分かるような作りになっているので、それを確認して活用して戻る、というところまでをセットで行ったわけだ。


「連係や互いの隙を補う戦い方というのは……やはり良いな。同じ戦闘でも、魔人であった頃とはやはり違うと感じる」


 管理区まで戻ってきて入口の隔壁を閉じたところで、ゼヴィオンは宙を仰いで目を閉じ、そんな風に漏らしていた。戦闘好き、という点は変わらないが、戦闘内容への興味は少し変わっているという事なのか。

 それとも新しい戦い方に感動している部分があるのか。ともあれ、ゼヴィオンにとっては満足度の高いものであったようだ。


「ま、気持ちは分からないでもないがね」

「解呪されてもゼヴィオンはゼヴィオン、とは思うわね」


 リネットが笑って肩を竦めるとルセリアージュも肩を震わせる。リネット達も友人関係というか、互いに肩の力を抜いている事が窺えて結構な事だ。


「リヴェイラ嬢の索敵と隠行の術も、かなり有効だったな」

「確かに。ザルバッシュを連れて行った時は一度の戦闘でかなり敵を呼び込んでしまったが」

「不安もありましたがきちんと通じて良かったであります」


 ベリスティオがそう言うとヴァルロスも静かに頷き、リヴェイラがその言葉に嬉しそうに笑みを見せていた。

 ザルバッシュがヴァルロス達に同行した時に何があったのかは……概ね理解したというか。

 今回は不意の合流を除けば、戦闘域外から感知されて疑獣が集まってくるというのも防げていたからな。戦闘の開始と終了をコントロールできていたのでリヴェイラの術は見事なものだったと言えよう。


「ふふ。私もテオと一緒に冒険できて、楽しかったわ」

『リサは、子供達が大きくなったら一緒に冒険者としての旅もしてみたいって言っていたものね』


 母さんの言葉に往診を終えたロゼッタがそんな風に言うと、グレイス達も微笑む。


「確かに、冒険者としての旅っていうのはまた違うね」


 旅行先で母さんがゴブリンやらと戦った記憶もあるけれど、まあ不測の事態は別だしな。その点、負の念解消区画は迷宮探索に近いところがあるだろうか。


 そうして二重隔壁の扉を開いて縦穴を登って戻ると、管理官をしている冥精が明るい笑顔で俺達を迎えてくれた。


「おお。皆様無事に戻ってきたようで何よりです……!」

「ただいま戻りました」


 こちらも笑顔で応じると、冥精も頷く。


「相当な規模での負の念の解消が見られましたな。何と言いますか、制御柱で見ているだけでも小気味よいものがありました」

「ありがとうございます。大物と遭遇しましたので昇念石も確保できましたよ」


 そう言って預かっていた昇念石を見せると「これはまた随分と大きな石が形成されたものです」と、感心したような声をあげる冥精である。

 この昇念石については前衛後衛の入れ替えの関係で預かっていたが、俺達が持っていてもあまり意味がないものなので後でベル女王に渡して冥府のために活用してもらえれば、というところだ。


 そんな風に話をしていると、冥府からの中継映像がフォレスタニアの通信室に届いて、ベル女王が顔を出した。俺達の無事と戦果とを喜んでくれて、挨拶を交わした後でベル女王が言う。


『反応を見ると充実したというか……手応えが感じられたようで何よりだ。そなた達が戻ってくるのを楽しみに待っているぞ』

「わかりました。また後程お会いしましょう」

『うむ』


 独房組との面会、負の念解消任務の動向の他にもう一件用事ができたが、そちらについては何というか……悪い話ではないようだし、俺達は同席する側だからな。

 ともあれ下層を抜けての移動がまだ残っている。中層、上層に戻るまでは油断しないように気を付けていくとしよう。




 そうして、少し休憩を挟んでから、ここまで来た時と同じように護衛の冥精達に先導されて、俺達は冥府下層から中枢へ戻る事となったのであった。

 帰りも空飛ぶ絨毯に乗って迷彩フィールドを展開しているので、そこは気楽なものだ。下層の亡者達に見つかって騒ぎになる心配もないし、絨毯に乗っているので休みながら移動できる。


 地下通路を進み、幾つかの空洞を抜けて――やがて下層拠点が見えてくる。迷彩フィールドを解くと、外で待機していたギルムナバルが俺達の姿を認めて満足そうに頷く。


「戻って来た、か。ルセリアージュ様も……お怪我はない。喜ばしい、ことだ」


 と、満足げに頷くギルムナバルは相変わらずマイペースな印象であるが。

 ともあれ、ここまで来れば一安心だろうか。下層拠点は冥精達の管理する場所で、罪人もいないしな。


 ギルムナバルや上層からここまで案内してくれた冥精達と挨拶をし、それから中層へ戻る事となった。

 ベル女王達は中層中央の塔で俺達の到着を待っているとの事だ。変装用の魔道具はもう暫く維持する必要はあるが……このままみんなと共に中層へ移動していくとしよう。


 そうして……中層へと戻ってヘスペリア達と顔を合わせ、戻ってきた事を伝えたりしながら、俺達は塔へと向かったのであった。


「ふむ。あたしらにも同席して欲しいと」

「うん。今の状況や今後の事を知れたら嬉しいからって、そう言ってたよ」


 ヘスペリアがにこにことした笑みを見せながらリネットの言葉に答えていた。なるほどな。まあ……魔人化が解除された状態や魔人達の今後について知りたいと思うのも分かる気がするな。

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