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番外1137 高揚と共に

「疑獣達の性質については、基本的なところを理解して貰えたと思う。深層の疑獣について話をするなら、密度も先程より上だし、高い探知能力を持つ個体もいるが……まあ、いずれにしても毒だとかそういう肉体的な攻撃方法はないようだな」

「ただ、敵側に察知されると連鎖的な乱戦になる可能性もある。俺達はそういった戦いに慣れているから構わないが、その辺は備えが必要になるだろうな」


 体力と魔力の回復、トイレ休憩等を挟みつつ深層突入前の作戦会議だ。マジックポーションは冥精、レイスにも効果があるので万全な体勢で深層に臨む事ができるだろう。

 疑獣についてある程度理解していないと作戦を立てても的外れになりかねないしな。毒のような攻撃手段を持たない、というのも納得ではあるか。相手は冥精かレイスなのだし。


 それに深層は負の念の消化が間に合わない時等に使われるものだったりするからな。敵が大挙して押し寄せてくる、という事もあるだろう。


 そんな調子でベリスティオとヴァルロス、冥精達から深層について教えてもらう。


「退路を確保できている分には効率がいい、のかな」

「本来なら部隊を編制して制圧しながら進むらしいし、退却もしやすい構造にはなっているようだがね」


 俺の言葉にリネットが答えてくれる。なるほどな。


「疑獣が多すぎて索敵が役に立たない場合は、意識を逸らす効果のある術をベル陛下から教えられているであります」


 リヴェイラが言う。種類によっては効果が薄いし、こちらを認識されてしまった後では効果がないらしいが、それでも十分な距離があれば多少派手に動いても大丈夫だそうで。四方八方から連鎖的に敵に襲われる、という事はなさそうだ。


「ふむ、やはりリヴェイラ殿が集中できる環境は重要ですな。私も味方の防衛に加わりましょう」


 オズグリーヴが言うと、デュラハンとガシャドクロも頷く。

 それならリヴェイラの守りも安心だろう。防御陣地も展開できるようにディフェンスフィールドの魔道具も持ってきているし、オズグリーヴの煙と併せればかなりの堅牢さになる。

 デュラハンと護衛の冥精達が迎撃。大物に対してはガシャドクロも防衛班として動いてくれるとの事で、かなりの対応力もある。魔力も温存しているしな。


 そうして役割分担を改めて決めたところで、いよいよ深層へと向かう事となった。

 制御室の直下から繋がる縦穴があり、そこを降りて通路を進んで行けば区画の深層へ移動できる。


「皆様の実力は承知しておりますが、十分にお気をつけ下さい。お伝えした通り、深層からの撤退そのものはしやすくなっておりますので、有効に活用して頂けたら幸いです」

「ありがとうございます」


 縦穴通路に進む前に、制御官の冥精と言葉を交わす。フォレスタニアのみんなや上層の面々も『お気をつけて』と、真剣な表情だ。


「ああ。行ってくる」


 非常時の負の念解消が目的なので本来ならば訓練目的では使われていないからな。撤退をしやすい構造なのは有難いが、その分だけ気合を入れて行きたいところだ。


 そうして――みんなで縦穴を降りていく。

 下は部隊編成をしやすいように広間になっていた。装飾が少なく、実用一辺倒といった雰囲気だ。縦穴部分や大部屋に結界も展開できるようだし、疑獣の暴走に対処しやすいように考えられているのが分かる。


「深層はここからが結構大がかりでな」


 ヴァルロスが言うと、リネットがにやりと笑う。同行している護衛の冥精も大きく頷き、手を翳してマジックサークルを展開すれば――掌を向けられた壁一面が左右に分かれるように開いていった。おお、という歓声がみんなからあがる。


 開いた先もここと同じぐらいの広さの空間だが……自然の洞窟という雰囲気だ。


「なるほど。部隊展開と隔離、偽装を兼ねての二重扉構造なのか」

「そういう事になるわね。向こうの部屋に進んで後方の壁を閉じれば、更に奥の壁を開く事ができるわ」


 ルセリアージュも俺の言葉を受けて説明してくれた。

 そしてそこからはもう深層であり、何時戦闘が起こってもおかしくはない、というわけだ。


 洞窟内部へと進み――そうして冥精がマジックサークルを展開すると後方の壁が閉ざされる。

 改めて隊列を組み、万端準備を整えたところでそれを伝えると冥精達も応じる様に頷き、再度マジックサークルを展開した。奥の壁が開いていき――濃い魔力を含んだ風が流れ込んでくる。


 これはまた……重い雰囲気というか。負の念を獣の攻撃性の方向で解放している疑獣は悪意で行動しているわけではない。そこに聖邪の区別はなく、邪悪な雰囲気というわけではない。

 深層から感じる魔力に関して言うなら……強力な獣型の魔物が近くに潜んでいそう、というのが経験上から言うと一番しっくりくる雰囲気だろうか。ともあれ、平常用区画で感じた魔力とは比較にならないぐらい重圧のある魔力に満ちている、というのは間違いない。


 ただ……同行している顔触れが顔触れだからな。それで臆するような者達ではないというか、寧ろ気合が入ってしまうというか。


「深層は油断ならない……が、やや浮かれているな。冷静な行動を心がけるなら良くない傾向だが……まあ止むを得まい」


 ゼヴィオンに関してはこの時を待ちわびていた、という印象だからな。今も充実した魔力を漲らせて、レイスの剣から微かに火の粉が散っているという力の入りようだ。


「……気持ちは分かるわ。私も気分が高揚しているもの」


 ルセリアージュも全開というわけではないものの、黄金の舞剣を4本程周囲に浮かせて笑みを見せる。


「戦いに高揚を感じるのは、らしいといえるが……魔人である時とは少し理由が違う、か」

「強者との戦いではなく、共に肩を並べて戦える事に高揚を感じる、というわけだ」


 ヴァルロスが目を閉じて笑い、ベリスティオもゼヴィオン達の反応に機嫌が良さそうにしている。


「ふふ。テオの戦ってきた結果としての今、かしらね」


 母さんもそう言って微笑む。


 そう、だな。俺も……みんなの高揚にあてられたかも知れない。心情に引っ張られるように魔力が充実しているのが分かる。余剰魔力の火花を散らすとウロボロスやネメア、カペラが楽しそうに唸り声を上げ、ウィズも頷くように目蓋を閉じていた。


 リヴェイラは――隔壁が開く前からやや緊張した面持ちで索敵の術を使っていたが、そんな周囲の反応にユイと笑顔で頷き合うと、良い具合に気合の入った表情になって口を開く。


「反応多数……どの方向に進んでも、すぐに疑獣に遭遇するであります……!」


 リヴェイラの迷彩も、認識を逸らすものなので距離次第で反応されてしまうそうだ。潜入任務なら俺の迷彩フィールドを併用するのも良いが、今回は戦いそのものが手段として目的に繋がっているからな。


「そうだね。四方から攻撃されないように疑獣を排除して安全圏を作っていくのが良いかな、この場合は」

「くっく。端から虱潰しか。ま、戦いに来たわけだからねぇ」


 俺の作戦にリネットがにやりと笑う。

 よし。気合を入れて行こう。


 そうして――俺達はリヴェイラを中心に据え、隊列を組んだまま深層へと進む。

 ゼヴィオンとルセリアージュが前衛を。ヴァルロスとベリスティオが殿を受け持っている。俺と母さんも――前衛に陣取らせてもらっている。


 少し進んでいくと疑獣の一団から俺達が認識できる範囲に入ったのか、闇の向こうで魔力がざわめきだすような気配があった。

 環境魔力と疑獣個々の魔力反応が似ているから判別は付きにくいが……相当な数が潜んでいそうだ。さて。では、戦闘開始と行こうか。

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