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番外1136 観察と準備と

「正面左手の方向に、未知の反応複数であります……!」


 リヴェイラの声と共に、みんなが警戒態勢を取る。リヴェイラの探知網の術式は結構優秀だな。ドーム型の探知結界という事で範囲内に触れたものを感知できる、との事だ。

 五感ではなく精霊としての感覚に引っかかるとの事なので地形までは読み取れないらしいが、一度感知した種類の敵なら次からはリヴェイラの感覚依存での特定が可能なようだ。


「未知の反応か。それじゃあ、こっちから仕掛けていこう」


 そう言うとみんなも頷く。戦闘そのものが負の念の浄化に繋がる事と、疑獣との戦闘にもう少し慣れておきたい事などがこちらから仕掛けに行く理由だろうか。

 疑獣から素材の剥ぎ取りはできないものの、相手がもっと大物なら浄化の際に昇念石が形成される事もあるという話なので、深層に行けば戦闘の意味も更に増えてくるだろう。


 リヴェイラの察知できるぎりぎりの距離が敵のいる位置だ。

 そちらに向かって隊列を維持したまま移動。武器を構えて間合いを詰めていけば――それが視界に入ってくる。


 何というか。大型犬ほどの蜘蛛といった風情の疑獣だ。蜘蛛足が骨。身体は蜘蛛のものだが、何やら人語らしき言葉でぶつぶつと独り言を言っているが……。


「盗まれ、た。俺が、食べた、のに。あいつの、形見」


 全員がぶつぶつ言っているので判別しにくいが……何となく意味が通じていないというか、支離滅裂というか……。


「疑獣の呟きは意味がないというか、繋がりのある纏まった言葉ではないそうであります」


 と、リヴェイラが小声で教えてくれる。俺達が負の念の解消区画に訪れる予定を立てていたので、色々と勉強してくれているリヴェイラである。

 想念が混ざり合っていると言われているので、そういったものが疑獣の種類によっては表出する事があるとの事らしい。


 いずれにせよ疑獣以外の存在を察知した場合、攻撃的な反応を見せるというのは間違いない。他にも掌で羽ばたく蝶の疑獣にも遭遇しているが、こちらは生者に対して拘るという事も無かった。感知能力や殊更敵意を見せる対象もそれぞれ違うので、その辺種類ごとに分類して特性を把握していきたいところだ。


「それは――戦う上で安心できるかな。それじゃあ、戦闘開始と行こう」

「今度は私が前に出ても良いでしょうか?」


 オルディアが言う。


「そうだね。能力の効果のほども見ておいた方がいいだろうし」


 俺と共にみんなもその言葉に頷くと「では」と、その手に煌めく剣が形成された。

 オルディアの場合はその特性を反映していて、瘴気剣もオーロラのように薄く色づいて透き通ったものが形成される。


 大きく息を吸い、瘴気剣を大きく引いて構えると、まだこちらを察知していない蜘蛛達に向かって離れた距離から振り抜く。

 斬撃波ではなく煌めく瘴気の突風となって、蜘蛛の一団を飲み込んでいた。オルディアの封印能力が力を発揮して、吹き抜けた風に混ざる様に蜘蛛達の能力がオーロラのように輝く気流となって飛び出す。

 空いたオルディアの手の上に浮かんだ複数の宝石に気流が引き寄せられるように集まっていく。そのままオルディアは蜘蛛達の中に斬り込んでいった。


 蜘蛛達の動きが鈍い。一番近い蜘蛛を瘴気剣で切り裂き、二匹目も両断したところで、初撃から逃れた蜘蛛が臨戦態勢に移る。

 ぶつぶつと呟く言葉やその調子は戦闘に移行しても変わらないので、やはり感情や思考から来るものではなく、成り立ちから来るものの発露であるようだ。


 糸を形成すると、投げ縄のように振り回して放ってくる蜘蛛。

 流石に驚いたような表情のオルディアであったが、飛び道具は予想していたのか、糸に向かって宝石から白い閃光が放たれ、それを迎撃していた。

 放たれた閃光はそのまま空中で輝く魔力になって四散する。既に切り裂かれた蜘蛛から奪った力だったようだ。本来なら奪った能力が気流となって戻るはずだが、本体は滅んでいるので浄化された魔力が散るだけの結果になる。


「オルディアの戦い方は攻防一体だな。体術も素晴らしいものだ」


 と、ゼヴィオンが頷きながら魔力剣を形成する。オルディア自身もイグナード王やレギーナと戦闘訓練を積んでいるからな。体術も結構なレベルだ。

 封印という特性からしても初撃が奇襲であったのも能力を効果的なものにしている。初見の相手なので能力不明ではあったがオルディアはどうやら身体能力を狙って制限しているようで、能力を奪われた蜘蛛達は身動きが満足に取れないようだ。


 そこにみんなで突っ込んで行き、縦横無尽に蜘蛛達を蹂躙する。デュラハンが馬で蹴散らし、ゼヴィオンが焼き払う。蜘蛛が飛沫になって四散すると同時に清浄な魔力が広がるのであった。




 そうやって索敵と戦闘を繰り返し、やがて横穴を発見する。通路部分には疑獣は出ない、との事なので、今までにわかったことをみんなで整理しながら移動することにした。


『ん。疑獣の見た目も、能力と一致しているように思う』


 と、改造ティアーズの持つ水晶板の向こうでシーラが思案しながら言う。


「そうだね。蜘蛛が糸を放ってきたからね。蜘蛛の糸の使い方に関しては――ああいう使い方をする蜘蛛も実際にいるとは聞いた事があるけれど、その蜘蛛の因子があるからか、人由来の縄の使い方なのかは少し判別できないけれど」

「ほう。そんな蜘蛛がいるのか……」


 テスディロスが感心したように言う。


「疑獣の見た目もある程度参考にして問題ないだろうな。大物はやや複雑な能力を持つ者もいるが……この辺は疑獣を形成する機構と関係があるのかも知れない」


 と、ベリスティオが説明してくれる。そうだな。掌の蝶も魔力の鱗粉を飛び道具として放ってきたが。

 ベリスティオ達は既に疑獣達と戦闘しているから予備知識はあるが訓練という事もあって、方針が定まるまではなるべく口出ししないようにしてくれている。対応として正しい場合は答え合わせ、明らかな間違いで危険が予想される場合は補足説明をする、と打ち合わせている。


 ベリスティオ達が予想しなかった戦法を考え付いた場合は有効性を確認するまで様子見、という方針だ。


 そうやって話をしながら地下通路を抜けると――今度は水晶柱の林立する空間に出た。負の念解消区画は蟻の巣のように地下道と空洞で繋がる構造をしており、各空洞の中心部には今現在の位置を示す意匠を施した柱が立っているとの事だ。

 意匠の向きで方角が分かるとの事で、その辺の知識をきちんと頭に入れておけばどこからでも入口のある方向に向かって戻る事が出来る、というわけだ。


 ここもやはり視界が通りにくいが……まあ今の区画管理の状況だとそこまで強い疑獣は出てこない。きっちり各々がやるべき事をやって進んで行けば問題はあるまい。




 そうしてしばらく索敵と戦闘を繰り返し、疑獣にも慣れてきたところで意匠の刻まれた柱を活用して制御区画に戻ってきた。


 制御区画に向かう方面を探索していけばいずれは制御区画に戻って来られる、というわけだな。


「おお、お帰りなさいませ。大分効率良く疑獣に対応なさっていたようですな」


 と、管理官がにこやかに俺達を迎えてくれる。


『制御区画で戦闘状況が把握できるのですね』


 エレナが言うと、管理官が頷く。


「制御塔の反応を見る事で大凡の戦いの結果等を知る事が可能なのです。個別の戦闘時間も手早く済ませていましたし、次の戦闘までの間隔も短いように感じられました。冥精達の訓練を見てきましたが、相当なものですな」


 管理官がうんうんと頷いて太鼓判を押してくれる。

 ともあれ、疑獣の性質も見えてきたからな。深層に向かう準備も整ったと言えよう。

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