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番外1134 共に肩を並べて

 重そうな門に門番の冥精が手を触れると、レリーフに沿って光が走り、ゆっくりと奥に向かって開いていく。

 資格のある者でないと開かない扉というのも、結構なセキュリティではあるかな。禁忌の地への道を塞いでいた偽装の自然石等も、見た目は違うが仕組みとしては同系統なのだろうけれど。


「この施設自体、迷宮と同系統と考えると、やはりこういった門にも七賢者や月の民縁の技術が使われているのか?」

『そうさな。七賢者は現世を放置するのをよしとせずに冥府を去ってしまったが、その技術を冥府に残していく事もしてくれた。今でも冥府の重要施設や細かな部分にそれらの魔法技術が使われているな』


 リネットが門を見ながら口にすると、水晶板を通してベル女王が答えてくれる。実際は精霊界である冥府に合わせた応用もなされているそうではあるが……転移門や負の念の集積システムもその最たるものだろう。


 ともあれ、門が開いたその先はやや狭い廻廊が真っ直ぐに続いているようだ。


「中々厳重なようですな」

「そうですな。侵入者の悪用と、疑獣の暴走に対する備えではありますが……悪用は勿論、疑獣の暴走が起こった事は今までにありませんから、皆様が利用する分には安心して頂いて問題はないかと思っております」


 構造を見てオズグリーヴがそう言うと、冥精が答えた。

 逃げ道のない通路を用意するというのは……隘路で敵の行動できる余地を奪った上で、多数で迎え撃つためだろう。

 この門に続く地下道に進む前に広々とした空間があったから、冥府側としてはあの場所に兵力を結集させる事が可能だ。


 侵入者――下層の場合なら脱獄犯を想定して確実に察知して捕縛するための構造なのだろうし、疑獣が暴走して外に出てこようとした場合に迎撃する事も想定しているというわけだ。


 迷宮と同じならば、安全マージンを十分にとった設計なのだろう。

 制御術式周りもそうだが、実績として迷宮が機能不全に陥っても迷宮魔物は外に出ようとしなかった。

 ラストガーディアンの暴走に伴い、クラウディアと迷宮村が難儀を被る事にはなったが……それでも外部への攻撃は起こらなかったからな。


 冥府でマスティエルが策謀を巡らせていた時も同様だ。マスティエルも、この区画にはあまり深入りしなかったようだし。完成されたシステムである事やセキュリティの高さ等から、自分の管轄外の物にあまり手出しをすると計画にボロが出る、と考えるのは分からなくもない。


 門番達に礼を言って、そのまま奥へと進む。通路の突き当たりにやはり似たような扉があり……その前で冥精達が俺達の到着を待ってくれていたようだ。護衛の冥精達が、門番と施設管理役の冥精だと紹介してくれる。


「お待ちしておりました」

「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」


 と、まずは挨拶と自己紹介を交わす。扉を開けばそこは管理施設との事で、そのまま内部に案内してもらう。

 管理施設は石造りの構造で、上層で見た建築様式に近いところがあるな。その辺は独房区画もそうなのだけれど。


「生者の皆さんは必須になる設備があると聞いております。今はゴーレム化している、との事でしたな。まずは、それらを設置できる場所に案内致しましょう」


 管理官の鬼が通路を進んでいく。俺達もそれについていくと、広々とした部屋に案内された。


「有事や大規模な負の念の解消に備えての冥精達の待機所です。今は平常時なので使われておりませんが、如何でしょうか? 些か皆様の人数に比して広すぎるようにも感じられますが……この場所以外ですと逆に手狭になってしまいそうですからな」


 なるほど。俺達に必要な設備を置いても十分に広々としているので本来の機能も損なわれない、ということか。


「お気遣い嬉しく思います。ここに設営させて貰えれば助かります」


 そう言うと、管理官は笑って頷いた。ではまずは、厨房やトイレといった必要な設備を設営させてもらおう。ここには今後も足を運ぶ機会はあるからな。




 諸々の必要な設備を配置し、正常に使える事を確認する。


「問題ないようです。少し休憩を挟んで準備を整えたら向かいましょうか」


 そう言うと、管理者と同行している面々が頷く。


「やっぱり冥府だと生者は不便だねぇ。普通はある設備がどこにもないわけだし」

「まあ、本来生者が立ち入ることを想定していないから仕方ないとは思うけどね」


 リネットの言葉に苦笑する。


「しかし……もうすぐだな。うむ。待ちわびていた」


 と、ゼヴィオンは魔力を漲らせて気合を入れている様子である。そんなゼヴィオンの様子に笑うルセリアージュであるが。


「私もテオと肩を並べて戦えるのは楽しみにしていたわ」


 母さんもにこにこ笑って言う。


「あー。マスティエルの時は武器がなくて後方支援だったからね」


 今は冥精達が作ってくれた杖があるしな。


『私も動けるようになったら、ご一緒したいです』

『それは――素敵ですね』

『私もリサ様に憧れて魔法の勉強を頑張ったから……うん。その時が楽しみだわ』


 グレイスが言うとアシュレイも明るい笑顔を見せる。ステファニアもうんうんと頷いていた。


「ふふ。私も楽しみにしているわ。やっぱり、顕現できるようになってからが安心かしら」


 と、母さんもそんなグレイス達に笑って応じる。

 そんな話をしつつみんなの準備も整い、まずは管理区域に案内してもらう。冥府の事情や任務に向かう顔触れに応じて調整も利くとの事だからな。


 そうして案内を受けつつ通路を進んでいくと――円筒型の大きな部屋に出た。中央……部屋を貫くように大きな石の柱が立っており、その表面に魔力の光が走っているのが見て取れる。


「制御用の石碑ですな。これに触れて疑獣達の発生と活動を制御する、というわけです」


 なるほど。迷宮入口に似ているが、転移設備ではなく制御装置というわけだ。


「まずは――そうだな。疑獣に慣れてから深い区画に向かうのが良さそうだ」

「確かにな。この顔触れなら滅多な事はないとは思うが、甘く見るのは油断というものだからな」


 俺の言葉にベリスティオが頷く。

 迷宮魔物とは違うようだから、その辺の性質の違いを頭に入れておけば判断も正しくできるようになるだろう。


「それじゃあ――そうだな。疑獣と戦った事のない面々が積極的に前に出て感触を掴んで、それからの事はまた考えるっていうのはどうかな。強力な疑獣と問題なく戦えるかどうかは……実際に相手をしたヴァルロス達から見れば大凡のところは掴めると思うし」

「分かった。では、そうだな。控えめに援護するような形で動くとしよう」

「ふむ。魔人ではなくなったから、そういった連係の修練も重要になってくるな」


 ヴァルロスが言うとゼヴィオンも納得した、というように頷く。個人戦闘は言わずもがなではあるが、連係しての集団戦闘にもモチベーションが高いあたり、ゼヴィオンは強くなることへの意欲は変わらずといった印象だ。


「ユイ殿はどうなさいますか? 前に出るのであれば、リヴェイラ様は我らがお守りしましょう」


 と、護衛役の冥精達がそんな風に申し出ると、リヴェイラも頷く。


「今回は――冥精としての術を使って後方から支援する所存であります」

「ん。分かった。私も実戦方式で、訓練させてもらうね」


 そう言って頷き合うリヴェイラとユイである。リヴェイラもまた、冥精達との連係は覚えた方が良いというのもあるし、ユイも大っぴらには力を振るえないからな。冥府ならその辺、情報が漏れる心配も少なくて訓練に向いているというのはある。


 そんなわけで役割分担も概ね決まった。まずは様子見からという感じではあるが、後で大物の相手もするだろうから、油断せずきっちりと進めていくとしよう。

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