番外1132 面会を終えて
「それじゃあ、少し質問をさせてもらうが……氏族長としてというよりは魔人の一団の長としてなのかな。把握している会合場所について知っている事を教えてほしい」
そう尋ねるとガルディニスは笑って頷く。
「儂の事も調べてきているようじゃな。くく、それでこそ、といったところか」
そう言って愉快そうに笑うガルディニス。
ガルディニスは利害をしっかり計算して動く割に、手応えを求めているような雰囲気がある。
やはり戦いになる相手が少なくなってしまうからなのだろう。実力の近い相手に対しては興が乗ってしまう所がある。ゼヴィオンやルセリアージュにもそういう傾向があったし、魔人達は刺激に飢えている感があるのでそうした気持ちは理解できるが。
ともあれ、ガルディニスの知る会合場所については試されたり駆け引きをされたりするような事もなく、普通に教えて貰えた。
その中にはアルヴェリンデの把握している会合場所も一つ含まれているようだ。
これはガルディニスの情報網が広いのか、それとも他の氏族を取り込んでいるから、そこから得た情報なのか。
消息不明になったはぐれの魔人達がそれらの場所を知っているか、現在も使われているかはともかく、分けられた氏族達の会合場所については残らず把握できた、と思う。
「これらの会合場所については、氏族の減少に伴い、統合された場所もある。他に質問は?」
「いや、俺の目的は魔人達に儀式を通して周知して信じてもらう事で……一先ずは来歴と会合場所を把握する事を目的に動いている。欲しかった情報については集まっているけれど……他に何か把握しておくべき内容がある、と?」
そう尋ねるとガルディニスは少し思案をした後に言う。
「ふむ。遺物については話をしておくべきであろうな」
「遺物……?」
「言葉の通りよ。後方に残した本拠地の他に、儂個人の研究成果を残してきた場所があってな」
それは――放置しておくわけにもいかないか。
ガルディニスはデュオベリス教団信徒の信仰を利用した半魔人の構築といった術を保有しているし、闇の大魔法やその他様々な魔法にも精通しているし。
「その事を、他に知っている者は?」
「余人には知らせてはおらぬ。書物や魔道具等々の置かれている場所自体、隠蔽と保護のために罠を仕掛けてあるから、そうそう破られる事もあるまい。必要な物があればお主が持っていっても構わぬぞ」
「あまり反応に困るようなものを渡されても、とは思うんだが……」
「くく、後始末を頼む、というところか。術式を後世に残すか否かの取捨選択は任せよう。煮るなり焼くなり好きにするが良い」
俺の反応にガルディニスは肩を竦める。
まあ……破棄や封印をするにしても、回収作業は進めておかなくてはなるまい。例えば術式を記した書物等、もし流出したら世間的な位置付けはデュオベリス教団教祖の秘術書だとか、黒骸の魔導書などとなってしまうし。
「分かった。回収と処理までは約束する」
「よかろう。では、場所と罠の解除の仕方を伝えておこう」
ガルディニスは頷き、具体的な情報を教えてくれる。
「――中々……珍しい方法で隠蔽しているんだな」
「教祖と魔人としての顔があると、それなりに多忙で立ち寄る機会も少ないのでな。その点、教祖として同じ時期に修業等と称して行方を暗ます事ができるし、解除可能な時期が決まっている封印ならばその分強固にできる、というわけじゃな」
魔人の長としては――まあ、単独行動も珍しくはないか。
ともあれ、条件付けが施された隠蔽だけに正規以外の手順で侵入しようとすると、結構強烈な罠が作動する作りのようだ。
「広範囲に作用する石化の呪い、か。あんまり無茶をして破るわけにもいかないかな」
ガルディニスが仕掛けたものだけに、罠が高度でエゲつない。研究成果を他人に渡すぐらいなら隠れ家を侵入者ごと石化させてしまおうというものだ。
罠の本体は隠れ家の中にあるようだし、形式が契約魔法なので外から干渉したり、分解術式や時間停止の力技で粉砕しようとしても術が発動する可能性が高い。俺自身は良くても発動した時の後始末が大変そうだ。
幸いというか……封印が解除できる時期は近いので隠れ家の無事を確認し、監視や結界を配置しながら正規手順で回収するというのが良さそうだ。
ガルディニスとしては他の者達の面会に関して「慣れ合う気はないが、何かしらの情報交換が必要と思うのならば好きにすればよい」という事らしい。
そんなわけでベリスティオ達も独房に顔を見せに来る。ガルディニスは面倒そうにしていたが、ユイから自己紹介を受けると感心したように頷く。
「そなたの門弟か同門か……相当な技量を持つようじゃが、優秀な者がいるのは結構なことじゃな」
との事だ。ユイの体術については――まあ、迷宮核で構築した際の対話やその後の修業でも俺の影響を受けているのは間違いない。門弟や同門と見たガルディニスの見立てもある程度当たっているか。
そうして挨拶もそこそこに、ガルディニスは言う。
「まあ、他の者達との話も経てきているようであるから、情報の再確認ぐらいしか最早する事もないのであろうが」
「それでも、照合する事で見えてくるものもあるかも知れないからな」
「ふむ。よかろう」
ヴァルロスの言葉を受けて納得したように頷き、今までに得た情報を照合していく。魔人達から得た情報、各国の過去の情報を地理関係等と照らし合わせる事で各時代の氏族の動きや、はぐれ魔人の動きをシミュレーションする事もできそうだ。
そうやって情報交換をしてから、俺達はガルディニスの独房を後にした。
ガルディニスは「このような場所でもすべきことはある」とそんな風に言っていた。罪業に対しての想いは語らなかったが、魔人化が解けている、というのがやはり影響しているのかも知れない。
俺に会合場所の情報を渡すことにしたって、魔人の行く末が災厄に変わることを考えれば将来的なリスクを減らす、という事に繋がるように思えるしな。
『各々目的……というより話をする理由が違うのでしょうけれど、必要な情報が集まって良かったわ』
待機所に戻ってきたところでステファニアがそんな風に言う。
「そうだね。理由が違うっていうのは俺も同じ印象を受けたかな」
氏族の内訳、後年における会合場所とその時期。ウォルドムとの約束とガルディニスの遺物。それぞれの後方拠点にいる魔人達。独房組との面会で新たに得られた情報と引き受けた事柄を纏めると、そんなところだろうか。
『儀式での干渉を受けて和解に応じてくれたらその対応も考えていかなければならないわね』
「そうだね。色々と考えるべき事は多いから、その辺も相談して進めていこう」
魔人化が解除されただけでそれで解決、というわけではない。
当人や周囲の関係等々、諸々のアフターケアもしっかりしておく必要がある。ハルバロニスでは自主的な謹慎と隠遁から魔人が生まれたという歴史があるし、それを踏まえて色々考えたいところだ。
それに……魔人達の場合は普通の種族が生活のために身に着けている技能や知識にも乏しいという点もあるから、社会に適応するための訓練も必須になってくる。
その点――今のフォレスタニアに関してはテスディロス達もいるし、隠れ里の住人も身を寄せているという事もあって、環境としては恵まれている、と思う。
「んー。規模に応じてフォレスタニアから繋がる村のような区画を作る、っていうのも手かな」
「なるほどな」
俺の考えにヴァルロスが納得したというように顎に手をやって頷く。
庇護と訓練。そしてこれからの事を考える時間が必要になると思うからな。普通の領主なら開拓村として所領を広げる事もあるし。メルヴィン王やジョサイア王子とも相談して進めていこう。