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番外1130 女王からの言伝

「私は――そうだな。今は魔人であった時のような激情がない。一つの時代が終わり、生者が前に進む時であるのならば、私はここで過去を振り返り、犠牲にしてきた者達に祈りを捧げる事こそがすべきことなのだろう」


 その言葉に、アルヴェリンデの周囲に浮かぶ罪業が揺らいだ。

 魔人化が解除されているから、か。

 今まで語った言葉も魔人であった時の言葉であったように思うし、今のアルヴェリンデはそれらに対する自己の評価や見方も変わってきているようにも思う。


「分かった。俺も……今後の経緯を見せてもらう」

「それで良い」


 アルヴェリンデは静かに頷く。

 挨拶、というよりは今後の事について意見を聞くために同行している面々もアルヴェリンデの独房にやってきて、言葉を交わしていく。


「パトリシアにも――迷惑をかけたな。シルヴァトリアにも犠牲は出ているし、七家の者達の時間も浪費させてしまった」


 アルヴェリンデは母さんと顔を合わせるとそう言った。

 ザディアスとの企ても、どこから始まったものなのかは分からないが。それでもアルヴェリンデにとっては共犯である事は変わらないというわけだ。母さんは、その言葉に目を閉じて頷く。


「その言葉は、本心からのものと受け取っておくわ。その想いも大事な事。ただ……私からも、伝えておきたい事がある」


 母さんがそう言うと、アルヴェリンデは真剣な表情で応じる。


「確かに七家の人達は少し足踏みもしたけれど、その時間だってきっと意味の無かったものではない、と思うの。寄り添って守った絆や、新しく生まれた絆もあるもの。犠牲になった人達だって……想いは誰かが受け取って、きっと今に繋がっているわ。私達が、そうであるように」


 記憶を失っても夫婦として寄り添っていたオルグラン家。シャルロッテや……それに、母さん自身もか。父さんやロゼッタとの出会い、俺やグレイスとの暮らしもそう、なのだろう。


 それは母さんと俺達だけの事ではなくて。グレイスや、みんなも思うところがあるのだろう、静かに頷いたり目を閉じたりして、感じ入っている様子であった。


「……分かった。私の過去の行いや、今すべき事は変わらないが、その言葉は覚えておく」

「そして……だからこそ私達は敗れたのだろうな。個々人はともかく種族全体を見た時、多くの魔人達はそうする事が出来なかった」


 アルヴェリンデは静かに頷き、ベリスティオもその言葉に遠くを見るような目になる。

 魔人達全体を見るなら、種族的な特性のせいで絆を育む事や誰かからの想いを受け継ぐ事もしにくい、というのはあるな。


「その点、テスディロス殿達は珍しいですな」


 と、オズグリーヴが言うとヴァルロスも「確かにな」と少し笑って応じる。そう言われたテスディロス達はアルヴェリンデに向かい合う。


「俺は――ヴァルロス殿との知己を得る切欠を作って頂いた事を感謝しています」

「それがテオドール公との今にも繋がっておりますしな」


 そう言って頷き合うテスディロスとウィンベルグである。

 ヴァルロスの掲げた目標に目の前が開けたように感じた、と言っていたからな。そうしてヴァルロスの側近として力を尽くし……約束をした俺とも協力をしてくれたわけだし。アルヴェリンデはそんな二人の言葉に目を閉じて頷いていた。


 そうやってアルヴェリンデと言葉を交わしたところで、ガルディニスについての話も聞いてみる。


「あれは魔人としての立場で見るなら、氏族長としてというより、摩耗した自我を保つために自覚的にああした行動をしていた部分が大きいように思う」

「昔から野心的な所はあったが……話を聞いている限りでは、自己を客観視した上でそう意図して振る舞っている、という印象がある」


 アルヴェリンデの言葉にベリスティオが応じた。アルヴェリンデは頷いて言葉を続ける。


「ベリオンドーラとの戦いで氏族に打撃を受けた後は自分の氏族に拘らず、他の氏族も取り込んでいたし、吸血鬼や信徒等、魔人以外の者にも派閥を広げていたようだが……」

「その分……会合場所については色々知っていそうではあるかな」


 ヴァルロスと合流した後も派閥を広げていたようだし。ベリオンドーラ以後からそういった活動をしていたとなると、その分あちこちに顔が利くというのはあるだろう。

 ヴァルロスの話によると、俺との戦いもガルディニスが望んで独断で出て行ったところがあるらしい。最低限方針というか、予定されていた作戦の一部を受けて行動してくれたところはあるが、俺との戦いを経て影響力を増大する目論見もあっただろうというのがヴァルロスの見立てだ。


 ガルディニスの部下達のヴァルロスへの反乱など……まあ、俺達の知らないところで色々あったようだな。


 翻ってアルヴェリンデは瘴珠をタームウィルズ内に持ち込みはしたが、それも作戦の一環だったようだし、個人の思惑はあれど集まった魔人達のために行動していたというのは間違いない。俺との交戦は避けるような節もあったから、そう考えるとやはり、他の魔人と比べても行動原理が違うか。


 それ故に……何を望んでいるのかが見えないな。魔人化が解けて何を思うのか。

 しっかりと休憩を挟んでからガルディニスの独房へ向かうとしよう。




 上階にある待機所に戻り、お茶を飲んで肩の力を抜きつつ休ませてもらっていると、ベル女王から連絡が入った。俺達だけでなく、ヴァルロスにも言伝があるとの事で。形式的にはレイスへの連絡なので冥精達を通しての言伝という事になるそうな。


『――というわけだ。ヴァルロスにはそう伝えておいてほしい』

「承知しました」


 と、ベル女王の言葉に看守役の冥精が応じ、ヴァルロスにベル女王の言葉を伝えていた。ヴァルロスはその言葉に耳を傾けると、落ち着いた様子で「分かった」と応じる。


『そなた達の同席も希望している。少し冥府での予定が増えてしまうかも知れないが』

「僕としては――そうですね。それで滞在日数が変わってくるというわけでもなさそうですし問題はないかなと。同席を望んでいるというのなら、それは嬉しい事ですね」


 そう答えると、ベル女王は柔らかく笑って頷く。ヴァルロスへの用件ではあるが俺としても、気になるところではあるしな。先方が同席を許してくれると言うのならば、俺も挨拶をさせて貰おう。


『では、そのように伝えておこう。妾も同席するかも知れぬが』

「はい。下層での諸々が終わった後にお会いしましょう」

『うむ』


 そうして、ベル女王との通信を一旦切り上げる。

 一先ずの予定は変わらない。下層での面会、負の念解消任務等々の用件が済んだ後に同席させてもらうという事で予定が組まれる形だ。


「さて。そうなるとまずはガルディニスとの面会に集中しないとね」

『これまでの話と氏族達の行方を照らし合わせてみても、ガルディニスに聞かないと分からない部分がいくつか残ってきているようだものね』


 俺の言葉に、フォレスタニアの通信室でクラウディアが頷く。

 そうだな。アルヴェリンデも万一の事を考えて、残してきた者達の居所は伏せてきたから。ガルディニスの場合は推して知るべしというか、こちらもきっちり自陣営の情報を伏せてきている。


 アルヴェリンデは力に劣る者達を残してきたというが、ガルディニスもまた本拠地というか、撤退先を預かる者を残してきている可能性はかなり高い。


 ウォルドムもアルヴェリンデも、俺に望む事があったから話をする事を選んだ。同様にガルディニスが俺に何を望んでいるかは不明だが……まあ、それはこれからしっかり聞き出せるように気合を入れて行く場面ではあるな。

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