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番外1121 下層拠点の作戦会議

 下層拠点内部の一角に移動し、現世から持ってきた茶葉と水作製の魔道具でお茶を淹れつつ、話をする。


「まずは――そうだね。話をしていた予定通り、独房側に足を運ぼうと思っている」

「先にすべき事を済ませてしまおうというわけだな」

「そうした方が負の念解消区画での行動も心置きなくできると思うからね」

「それは確かに」


 方針を伝え、ベリスティオとそうした受け答えをすると納得したと言うように頷いて同意してくれる冥府の面々である。


「戦いで消耗してからガルディニスあたりと交渉で渡り合うというのは……考えるだけでも大変だものね」


 と、ルセリアージュも言って肩を震わせた。それもある、と言えばそうだな。……いや、ガルディニスだから云々というわけではなく。大事な交渉だから集中力を注ぐべきだと思うし、魔人化が解除されているからと気を抜くのも違うからな。

 その辺の事を伝えるとヴァルロスが納得した、というように目を閉じて口を開く。


「万全を期すというのなら……各々との面会で知り得た情報次第では、合間合間に休息や話し合いを挟む必要が出て来る、かも知れないな」

「ああ。それも視野に入れて準備をしてきている。食料品や野営の準備は、もし冥府で仲間達からはぐれた場合の対策でもあるんだけどね」


 保存食を含めた食糧もそれなりの日数の滞在、野営に耐えられるだけ持ってきている。負の念解消区画への備えでもあるし、食料については現地調達が難しいというかできないので、俺達が冥府を訪問した場合は付いて回る問題ではあるが。


「もしはぐれた場合の対応も決めておいた方が良さそうですな」

「それに関してですが――テオドール様達の情報は私達に共有されております。魔道具等々の対策が上手く機能しなかった場合でも、冥精を見かけたら話かけてもらえれば、拠点まで案内をする事はできるかと。生者である事と、変装についても情報共有をしておりますし」


 オズグリーヴが言うと鬼が答える。下層は蟻の巣のように地下道が枝分かれしており各々の区画に続いているそうだ。仮に囚人の脱走や反乱が起こっても対応できるように冥精達は構造把握もしているそうで、平常時であれば冥精に接触する事で拠点に戻って来られる、という事らしい。まあ、禁忌の地やそこに繋がる平原には流石に迷い込んだりはしないだろうからな。


『冥精の皆さんが助けて下さるのでしたら、安心ですね』


 フォレスタニア城からの中継映像でアシュレイが明るい表情を浮かべる。現在は冥界シーカーが俺達に同行している形だ。


「そうだね。事情を説明してから他の亡者達の目につかない場所で変装の魔道具を解除すれば生者である事も確認できるし、冥精のみんなにも安心してもらえると思う」


 そう伝えると、同行している面々は理解した、というように頷く。


「見取り図もお見せしたいところなのですが……下層には防犯上の観点からそういった類のものは置いておりません。今いる場所がどの区画かも、慣れていないと判別が難しいというのもありますが……」

「基本的にははぐれた場合は、魔道具と通信機、それから近くにいる冥精を頼る、という方向で大丈夫かなと」


 俺の答えに冥精達が頷く。


「ありがとうございます。それから独房のある場所なのですが……監獄区画を抜ける必要があります。囚人らとの接触はないようにしますが、その区画内では――そうですね。亡者に察知されるような場所で変装を解かないようにして頂けると助かります」


 亡者にとって生者は羨望や憎悪の対象になったりする場合がある、という話だったからな。怨恨を持って現世に留まってしまうアンデッドが生者を襲うのもその辺が理由であるらしい。

 囚人達はそうした負の感情を抱えている可能性も高いから、生者としての姿を見せるのはリスクが大きい。

 それに下層の監獄区画は過酷な環境、剣呑な見た目の場所もあるそうな。


「リサ様に関しては、接すれば冥精と似た波長で罪人ではないと分かりますから、その辺も問題ありません」

「ふふ。それは良かったわ」


 冥精達の言葉に、母さんが微笑む。


 そう言った諸々の注意点をみんなと共に再確認して、独房に収監されている者達の内、まず誰から話を聞いていくかも決めていく。


「やっぱりザラディから……かな」

「それに関しては俺達も同意だな。ザラディは魔人達の行く末を案じていたし、自己の目的を優先させるような性格でもない」

「顔触れを見ると、そういう事になるだろうな」


 ヴァルロスの言葉にベリスティオが苦笑する。

 ザラディ、ガルディニス、アルヴェリンデとウォルドムが今回面会する予定の最古参組であるが……。

 まあ、そうだな。ガルディニスは野心家でヴァルロスと行動を共にしても派閥を作って主導権を握ろうとしていたと言う話だし、アルヴェリンデは国の上層部に取り入って内部から崩壊させるのを楽しんでいたとされている。ウォルドムもまた独立心が強く、自分の国を求めて得意とする海中で眷属を増やしていた。


 その中にあってザラディはと言えば……ヴァルロスに同調して補佐する程には真面目な性格、というのが話から窺える。

 対峙した俺達としては予知能力によって迂闊な行動が見切られてしまう最も警戒すべき相手、という印象ではあったが……確かに、享楽的でも退廃的でもないように思うな。

 ザラディから情報を得られれば、それを元に他の独房の面々との話に臨む、というのは有効なはずだ。


「では――方針は決まり、か」

「そうだね。みんなも、十分に休憩や準備ができているなら動いていこうか」

「私は大丈夫だよ……!」

「同じく問題ありません」


 俺が尋ねるとみんなからそんな返答がある。では……下層拠点を出発するとしよう。




「では、ここからは私どもが案内致します」

「先頭と殿はお任せ下さい」


 下層拠点を出ると鬼と悪魔――下層の冥精達が案内役兼護衛として俺達の周囲についてくれた。下層の冥精達もやはり禁忌の地に一緒に突入して共闘した面々だな。


「ここからは上層の私達が同行しているとかえって目立ってしまいますからね。何かあった時に対応できるよう、皆様の下層滞在中はこの場所におりますので、お役に立てることがあれば遠慮なく連絡をください」


 ここまで護衛をしてきてくれた上層の天使達が伝えてくる。


「ありがとうございます。では、行ってきますね」


 さて。そんなわけで冥精達の先導で、同様に地下通路を進んでいく事となった。前に禁忌の地へ向かった時とは別の方向に続く通路だ。ただ、通路自体は他の地下道とあまり……というか殆ど変らないな。


「これは確かに……慣れていないと自分の居場所が分からなくなってしまいそうであります」


 リヴェイラも先程の冥精達の言葉を思い出したのか、そんな風に言う。

 監獄区画を通るという事でみんなも気合を入れ直している様子だ。隠蔽の魔法はかかっているものの、オズグリーヴ達の封印術は既に解除してあるので様々な状況に対応可能だろう。


「テオドール公とお話をしたいと言っているようですが……交渉が終われば私達も話ができそうですな」

「俺達も顔を見せて近況報告した方が良いだろう。安心や信用をしてもらえるかも知れないしな」


 オズグリーヴの言葉にテスディロスも頷く。

 そうだな。ザラディ辺りはきっとそうだろう。


「ガルディニス殿あたりは魔人化が解除されてどうなっているか、予想しにくいところがありますな」


 ウィンベルグが顎に手をやって思案しながら言うが。まあ……そうだな。ガルディニスは派閥も抱えていたし、持っている情報には期待しているところもあるのだが、話をしてどうなるか最も予想のつかない相手でもある。


 ガルディニスに限らず一癖も二癖もある顔触れだし、監獄区画も通る必要がある。……約束もあるからな。戦いに向かうというわけではないが気合を入れて臨むとしよう。

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