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番外1119 冥府下層への訪問

 フォレスタニア城に工房のみんなも集まり、剣の修復作業に関して話し合いの時間を持つ事にした。


「模型の出来はどうでしょうか?」


 と、俺が尋ねるとオズグリーヴは土魔法で作ったベリスティオの剣の模型をしばらく見ていたが、やがて満足そうに頷く。オズグリーヴが煙で再現したベリスティオの剣を土魔法で模型にし、エルハーム姫に預ける、というわけだ。


「懐かしさを感じますな。本当は祭具や触媒も、事前に本人から確認が取れれば確実ではあったのでしょうが」

「事前に知らせてしまうと、最初の儀式の効果が少し落ちてしまう可能性もありますからね」


 当人が儀式に込められた意義や意味を受け取る事で感情を動かし、共鳴して効果を増幅するので、最初から分かっていると感情の揺れも抑えられてしまう。

 同じ儀式を複数回できるように儀式の手順を構築しているが、2度目以降は最初の儀式での記憶や思い入れがある分で増幅されて安定した効果を発揮する、というわけだな。


「では――早速この模型を参考に、修復を進めていきたいと思います」


 と、エルハーム姫は模型を受け取って頷くとそんな風に言った。


「そうですね。剣の作りそのものはそこまで特別な事はしていない、ようですので」

「頂いた解析結果からするとそう、ですね」


 ビオラが受け取った分析資料を見ながら頷く。ビオラはエルハーム姫の補助に回ってくれるそうだ。

 迷宮核で剣の残骸を解析して、製法まで分析してみたが……まあ、製法そのものは特別な事はしていないようだ。


「ただ、鍔元に嵌っていた割れた魔石や剣の各部分に刻まれた術式の痕跡などから言うと、施された構造強化等の魔法は相当高水準なものであったと思います。例えば今、ヴェルドガルや他の国で騎士にこの剣が送られたとしたら、家宝扱いされても何ら不思議はないでしょうね」

「ん。名剣の部類」

「そうだね」


 そんなシーラの反応に頷く。特別な品ではないが、実用的な武器としてハイスタンダード。月の民の魔法技術が惜しみなく注がれていると考えればそうなるな。


「古代の名剣――素晴らしいものです……!」


 コマチとしては浪漫を感じるものなのか、そう言って拳を握ったりしているが。


「ベリスティオ殿を慕っていた武官達は、その剣を佩いた姿に尊敬や憧れの念を抱いていたところがありますな」


 オズグリーヴが当時の記憶を思い出しながら教えてくれた。


「テオ君の話じゃ技量も相当なものだったみたいだし、そうなるのも分かる気がするね」


 オズグリーヴの言葉に笑って応じるアルバートである。


「割れた魔石や刀身に刻まれた術式も、痕跡が残っているなら再現は可能そうね」

「ええ。月の技術体系の系譜だし、解析結果から見るに術式も高水準ではあっても特別ではないようだわ」


 ステファニアの見解にクラウディアも同意する。というわけで、修復の目途は立ったと考えて良さそうだ。


「製法に特別な事がないのなら後は私の腕次第、という事ですね。これからしばらくの間、修復作業に集中していきたいと思います」


 エルハーム姫は随分と気合を入れているようだ。身に着けた技術をそのまま活用できるという事で、職人魂に火が着いている印象があるな。


「それじゃあ、剣に施されていた術式については僕の担当だね」


 アルバートもそんな気合の入り方に触発されたのか、真剣な表情で言う。マルレーンやオフィーリアはアルバートの様子ににこにこと楽しそうだが。




 さてさて。剣の修復に関しては問題無さそうだ。霊樹の果実と指輪に関しては大事に箱に入れて状態を良好なものに保ちつつ、フォレスタニア城の宝物庫で預からせてもらっている。

 食糧品等々、冥府下層訪問の準備も整ったからな。後は連絡した日程で訪問、という事になるだろう。


 予定日まではいつも通りだ。執務と視察をこなし、日々の仕事を終えたらみんなとのんびりさせてもらう。


「食べ物の問題は続きますが、今回は冥精の皆さんも護衛してくれるようですし、事情も分かっている分、何も分からなかった前回よりは安心感がありますね」


 フォレスタニア城の居間でお茶を飲みながらアシュレイが笑顔を見せる。


「下層は監獄ですが、冥府に秩序も戻っていますからね」


 エレナもアシュレイの言葉に同意する。


「そうだね。そうやって応援して貰えている事は嬉しく思ってるし、感謝してる。俺としてもみんなと一緒にいたいから、早めに戻ってくるよ」

「ふふ。私達は体調も子供達も安定しているし、心配はいらないわ。テオドール君の思うとおりにね」

「そうね。テオドールにはテオドールにしかできない事があるわ。約束のために動いているのは、わたくし達としてもその……そう、応援しているわ」


 イルムヒルトが微笑み、ローズマリーも同意しつつそう言って、最後の方で言葉というか、表現を選んだような印象がある。羽扇の向こうでやや頬を赤らめているから、真面目に答えた折に素で受け答えしようとしてしまって軌道修正した感があるな。そんなローズマリーの様子にマルレーンもにこにことしているが。


「ですから、留守中の事はお任せ下さい。感謝というのなら、私達もです」


 グレイスがにっこりと笑って、みんなも俺を見て頷いてくれた。


「ん……。ありがとう」


 そうやってみんなから後押ししてもらえるのは嬉しいな。そんな風に受け答えするとシーラがうんうんと頷いてからソファの背後に回り、腕を回して抱擁してきた。

 みんなもそんなやり取りに少し笑って……みんなと抱擁しあったりと、出発前にスキンシップをしたりするのであった。




 そうして一日一日が過ぎていき、冥府に再訪問する予定日がやってくる。


「それじゃあ、行ってくる」

「はい。お気をつけて、テオ」

「通信機の水晶板の前で待っているわね」


 と、グレイスとステファニア。そんな調子でみんなと出発前に笑顔で言葉を交わす。

 長期滞在というわけではないが、まあ、場所が場所だからというのはあるかな。交流のために会う面々はともかく、独房組とはまだ話もしていないし。

 ユイも冥府ならばラストガーディアンの秘密を守りつつ実戦訓練ができるという事で、今回も同行する事になった。


 オズグリーヴ、テスディロスとウィンベルグ、そしてオルディアも同行するので戦力的には相当なものではある。デュラハンとガシャドクロも一緒だし、食料品を背嚢に入れて、水作製の魔道具やお互いの相対的な位置が分かる魔道具も全員所持しているという状態だ。これならはぐれても対処しやすいし、合流が遅れても持ちこたえやすい。


 天弓神殿とノース、サウズを使っての召喚、送還術式での移動というのは変わらない。ティエーラも転移で見送りできるように顕現してきてくれたようだ。


「では、参りましょうか」

「はい、であります!」


 ティエーラの言葉にリヴェイラが元気よく頷く。迷宮のシステム補助による転移魔法によって光に包まれ、それが収まるとそこは天弓神殿であった。

 ティエーラに行ってくると伝えれば、いってらっしゃいと微笑んで応じてくれる。

 マジックサークルを展開。送還術式によって俺達は冥府へと飛んだのであった。




 冥府に到着すると、ベル女王達――冥府の知り合いが俺達を歓迎してくれた。母さんも最近は早めに顕現できるように冥精としての力を高める修業や瞑想をする時間を増やしているそうだが、今日は俺達の訪問に合わせて顔を見せてくれた。


「下層で負の念の解消をするのも冥精としての修業になるらしいわ。テオと一緒に戦えるのも楽しみね」


 と、母さんは上機嫌そうで、ベル女王達や現世のみんなもそんな母さんの様子に肩を震わせてたり、笑顔になったりしていた。

 母さんの手には石突に髑髏をあしらった杖の完成品があったりして。下層訪問に合わせてブラックドックや天使達も頑張ってくれたらしい。杖から感じる魔力もかなりのもので冥精達も気合を入れて作製してくれたようだな。

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