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番外1115 ベリスティオの足跡

 ハルバロニスの中央にある青い塔に向かい、そこで飲み物を飲みながら少し腰を落ち着けて話をさせてもらう。

 冷えた果実水を出してもらったのだが……これも美味しいな。ハルバロニスの外で仕事をして戻って来た時に味わったら格別なのだろうという気もする。

 そんな感想を伝えると長老達は嬉しそうに笑って頷いていた。実際ハルバロニスで働いている面々には評判の良い飲み物だそうな。

 と、そこに文官達が書物を持ってくる。


「資料を当たって昔のハルバロニスについて調べてみました。例えば料理に関しては多少変わっているところも見られましたが……食材自体は昔から変わらないので、きっと儀式にも使えるのではないかと。分かった事については報告書として纏めておきました」

「そこまで調べて貰えるとは……ありがとうございます。温室で栽培している稲や果実も、きちんと触媒として機能しそうですね」


 長老達が用意してくれた報告書に目を通し、資料を見せてもらいながら頷く。足りないものがあれば準備もしてくれるというので、諸々安心である。

 そんな調子で長老達を交えて少し雑談をしていると、ハルバロニス内部や外のジャングル見学に行っていた年少組もバロールに案内されて戻ってくる。


「おかえり」

「ただいま戻りました」

「あちこち見てきたであります!」

「みんな親切だし綺麗な場所も多くて、楽しかった」


 リヴェイラとユイが上機嫌に笑う。見学や住民達との交流も中々充実したものだったようだ。歴史や過去の記憶を辿るのもいいが、今暮らしている住民達の様子を知っておくのも重要な事だからな。


 そうして年少組が戻ってきたところで更に長老達と意見交換をさせてもらった。


「――私達からはこんな所でしょうか」

「では、少し各所の施設やハルバロニスの内部を見せて貰っても良いでしょうか」

「勿論です。オズグリーヴ殿の記憶を辿る、という事でしたな」

「そうですな。何分、私がここにいたのは遥か昔の事なので、その時の知識や記憶が役立つかは分かりませんが」


 オズグリーヴは苦笑しつつも立ち上がる。


「先ずは――そうですな。位置関係の把握からでしょうか。建物も町並みも変わっておりますからな」

「塔の屋上から見てみるというのは如何でしょうか」

「それが良さそうですな」


 フォルセトの提案にオズグリーヴは同意を示す。というわけで、まずは記憶と現在の状況を比較するために塔の屋上へと向かう、という事になった。


 大部屋を出て通路を通り、塔の屋上へと出る。ハルバロニスの町並み全域を見通せる場所だ。


「ハルバロニスの入口については変わっていないようですな。となると――位置関係はそこを基準にするとして……私の能力で当時の町並みを重ねてみる、というのは如何でしょうか?」

「私達は異存ありませんぞ」

「では――」


 長老達の許可ももらえたのでオズグリーヴの封印術を解く。軍煙の能力を使って、塔からの視界に当時の記憶を再現した町並みを重ねて記憶を辿る一助にしよう、というわけだ。

 オズグリーヴの煙が黒から白い色に変わる。これはまあ、黒だと何事かと思われるので見た目の威圧感を減らしたものだな。


 オズグリーヴは目を閉じて、記憶を思い出しているようだった。

 俺達の足下に煙が広がり――ハルバロニスの入口を基準にして町並みが過去のものに上書きされていく。


「おお。これが――」


 と、長老達も足元――屋上に再現されていく過去の町並みに興味深そうな印象だ。

 建築様式は同じだが、建物の位置は結構変わっていたりするな。大きな道や水田のある区画は今と概ね一致しているが。


「ふむ。昔はあの辺にベリスティオ殿の生家がありましてな」


 町の外れにある大きな屋敷を指差してオズグリーヴが言う。


「ハルバロニスにおいては名家の生まれだったようですね」

「求心力があるからこそ盟主と呼ばれたわけですからな。月から追放された中に同格の者は何人かいましたが、ベリスティオに賛同し、時を同じくして出奔した者も幾人かいた、という話です」


 長老の言葉にオズグリーヴが頷く。


「最古参の魔人達ですな。ザラディやガルディニスも該当します」


 長老達の中にもそうした名家の者はいるそうだが、追放された者達に身分も何もないだろうと、今日ではその辺は重視されていないという事らしい。或いは、盟主に賛同した者達が出てしまった事への反省でそうなったか。


「……ふむ。あの場所に行ってみましょうか。ベリスティオ殿に賛同した面々が集まる事もありましたからな」


 オズグリーヴが言う。では、オズグリーヴについて行ってみるとしよう。




 塔から出てベリスティオの屋敷の跡地へと向かうと、そこは更地になっていた。建物の基礎のようなものだけが薄らと残っている。


「過去の文献によるとベリスティオ殿が出奔してからは忌避されてしまいましてな。屋敷を管理する者もおらず、荒れ果てていたので取り壊された、と記録にはそれだけ残っております」


 長老達が教えてくれる。


「今も更地になっているのは、その辺が語り継がれたから、というわけですか」

「ですが、今は状況も変わっていますから。慰霊碑や記念碑のようなものがあるのが望ましいのかも知れませんね」

「それは……良い案ですな」


 俺の言葉にフォルセトが目を閉じて言うと長老達も同意する。先程までは上機嫌だった年少組も真剣な表情で頷いている。

 オズグリーヴも穏やかな表情で応じ……それからまた表情を真剣なものに戻すと、町の外周から更に外――町を堀のように囲う地底湖に向かって歩き出す。ベリスティオの屋敷跡地の脇から地底湖に向かって下りられる崖に沿った小道が続いていて……どうやらそちらに向かっているようだ。


「我らは――罪人としての檻から解き放たれ、外に出て行く事を目的としていたのです。ベリスティオ殿の周りに集まり、外に出て行く事を論じたのですな。外で生きていくために必要なものは何か。魔法技術を活かして国を興す事を唱えた者もおりました」

「そうしたベリスティオ殿の考え方を、ヴァルロス殿も受け継いだのだろうな」


 先導するオズグリーヴの言葉にテスディロスが言う。実際そう、なんだろうな。ハルバロニスに留まるよりも、外に出る事を選んだのだから。


「そうなのでしょうな」

 オズグリーヴはそう言いながら岸壁を調べていたが、やがて頷く。


「合言葉は……そう、確か『戒めの檻を破るために』でしたかな」


 古代語でオズグリーヴが合言葉を口にすると、触れた石から岸壁に魔力の光が走る。そうして――岸壁の一部がそのままズレて、地下への扉が現れた。


「このような場所が……」

「隠されてはいますし頑丈ではありますが、この先は単なる鍛練場。危険はないはずですぞ。魔法研究はしっかりとした設備の他に資材、資源が必要で、隠していてもどうしても察知されやすい。我らの考え方がハルバロニスにおいては受け入れられないものである、という事も分かっていましたからな」


 だから行動を起こすまで注目を浴びないように、志を同じくする者達が鍛練する場をベリスティオが作ったのだとオズグリーヴは言う。鍛練を重ねて力を付ける事で、魔人への道が拓けると……それを知っていたが故に。


 鍛練所に繋がる小道は当時のベリスティオの屋敷の陰になって人目につかなかっただろう。ベリスティオの屋敷に気心の合う者達が集まっているだけと対外的に言い張れるし、仮に見つかってもただの鍛練所であると主張する事も可能、か。


 危険はない、とオズグリーヴは言ったが、ベリスティオに縁のある品は残されているかも知れないな。では、内部を少し調査してみるとしよう。

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