番外1114 ハルバロニスへの帰郷
「んー。シオンちゃん達の故郷かぁ」
「楽しみだね」
「ふふ。綺麗で良いところですよ」
カルセドネとシトリアが頷き合い、シオンも楽しそうに肩を震わせる。そんな様子をフォルセトが微笑ましそうに眺める。
ハルバロニスに向かい、ベリスティオやヴァルロスと関係した品を探してくる、と言う事になった。
ヴァルロスに関しては――ベリスティオのように魂に干渉できる能力があるわけではないが、やはり神格を持っているし、今は同じ目的のために動いているからな。儀式の際にヴァルロスの力も借りられれば心強い。
というわけでフォルセト、シオン達と共にハルバロニスへ行って触媒になりそうなものを受け取ると共に、祭具の候補も探して来ようという事で予定を立てている。
フォルセトとシオン達は帰郷兼案内。カルセドネとシトリア、ユイとリヴェイラは見聞を広めるために同行する、というわけだ。
「留守は任せてね!」
「ん。よろしくね。まあ今回はハルバロニスに行ってくるだけだから、すぐに帰ってくるけれど」
「行ってくるであります!」
にこにこと笑うセラフィナにそんな風にリヴェイラと共に受け答えすると、ヴィンクル、カルディア、アピラシアといった面々も揃ってこくんと頷いていた。
カルディアも大分復調してきたという事もあり、フォレスタニアに遊びに来ているのだ。
フォレスタニアの守りは自分達が、と、気炎を上げているヴィンクル達である。長期間留守にするわけではないが、頼もしい事である。
今回は、オズグリーヴと共にテスディロス、ウィンベルグ、オルディアも同行するから余計に気合が入っているというのはありそうだな。
オズグリーヴについてはかつてベリスティオと共にハルバロニスで暮らしていたから、やはり案内役としての同行となる。
「時代を経ているので実際に行ってみないと分かりませんが、何か気付く事もあるかも知れませんな。お力になれたら幸いです」
と、穏やかな表情で同行を申し出てくれた。
ハルバロニスの長老達は時折タームウィルズやフォレスタニアに足を運ぶ事もあるが、オズグリーヴとしてはハルバロニスの長老以外の面々の顔も、きちんと見ておきたいらしい。テスディロス達は魔人のルーツとなる土地ならばしっかり見ておきたい、との事だ。
「それじゃあ、行ってくる」
「はい。お気をつけて」
「ん。いってらっしゃい」
そう言ってみんなとも軽い抱擁を交わし、俺達はフォレスタニアを出発したのであった。
転移港からハルバロニスへと飛ぶ。転移の光に包まれ目を開くとそこはもうハルバロニスだ。
ハルバロニスの転移門設備は街の入口から逆方向の外縁部に配置されている。これは警備上の問題だな。転移門は契約魔法で悪用できないようになっているが、それでも有事を想定するなら街の中央の塔や外に避難できるように、と考えられた配置になっている。
転移門の配置された部屋を出る通路を抜けると、そこは少し広い部屋になっていて長老達と警備の武官が俺達の到着を待っていた。
「これはテオドール様、皆様も。此度の訪問、歓迎いたしますぞ」
「こんにちは。今日はお世話になります」
「ただいま戻りました」
と、フォルセトと共に挨拶を交わす。シオン達やユイ、リヴェイラも笑顔で迎えて、明るく穏やかな雰囲気だ。それから長老達は少し真剣な雰囲気でオズグリーヴ達に一礼する。
「そして……オズグリーヴ殿。よくぞおいでくださいました」
「私は皆の想いを裏切って外に出て行った身。なれどこうして訪問に際して歓迎の言葉を頂き、嬉しく思っております」
「私共も、尊き姫君やオーレリア女王陛下に赦しの言葉を頂き、そして正式に和解をした身です。ましてやオズグリーヴ殿やテスディロス殿、ウィンベルグ殿、オルディア殿は境界公と共に魔人達との和解に尽力しておられる。我らにとって尊敬すべきお方に相違ありませぬ」
その言葉に長老達、武官といった面々は居住まいを但し、敬礼を以って自分達の気持ちを示してくる。
オズグリーヴはその言葉に目を閉じ、テスディロス達も敬礼を以って応じていた。
隣でそんなやり取りを見ていたフォルセトと、シーカーによる中継映像を見ていたクラウディアは、それぞれ安心したようだ。
そうして歓迎の挨拶も無事一段落したところで転移門設備を抜ける。
「下層の拠点に似ているであります……!」
「ふふ。確かにね。水中じゃない事を除けば、クシュガナにも似てるかも」
感動したような声を上げるリヴェイラに、ユイが小さく肩を震わせて答える。
「すごいね……」
「稲作の設備とそっくり」
と、声を上げるカルセドネとシトリア。そんな反応にシオン達はにこにことしているが。
天井から生えた光る水晶からは柔らかな光が降り注いでいて、地底の町といってもハルバロニスに暗い雰囲気はない。地下水脈も相変わらず澄んだ水を湛えていて、稲を育てている風景も綺麗だな。
「懐かしいものです。記憶とは町並みも変わっておりますが……」
感慨深そうにオズグリーヴが言って、テスディロス達も興味深そうに視線を巡らせていた。
年少組は興味深そうを通り越してあちこち見回して、そわそわしているようだが。
「ああ。許可は貰ってあるから、見て回ってきても大丈夫だよ。念のためバロールを連れていけば安心かな。合流する時も困らないし」
そう言うと、カルセドネとシトリア、ユイとリヴェイラの表情が明るいものになった。以前と違って、気軽に町の外に出入りもできるようになっているし。
「それじゃあ、僕達が案内しますね」
「綺麗な場所、結構あるんだよ!」
「お気に入りの場所……案内する……」
シオンとマルセスカ、シグリッタが言う。年少組はそうしてバロールを連れて、嬉しそうにハルバロニスの町中に駆けていく。
「ふっふ、子供達は楽しそうで何よりですな」
ハルバロニスの長老達が子供達の背を見送って表情を綻ばせる。
オズグリーヴ達は、町中よりもベリスティオやヴァルロスの足跡を見たいという事で俺達と行動を共にする形だ。
「では――私達も少し町中を見てから、中央の塔に向かいましょうか」
というフォルセトの言葉に頷き、みんなでハルバロニスの町中を移動する。いきなり用件というのもなんだしな。まずはハルバロニスの様子を見て、その後で中央の塔で少し話をしてからだな。
住民もこちらに笑顔で手を振ってきたりと、歓迎してくれているようだ。
広場の所まで行くと先程駆けて行ったシオン達がハルバロニスの子供達と笑顔で話をしていたりして。
同行している面々を子供達に紹介し、挨拶をしている様子だ。バロールもシオンの肩の上にとまって、目を閉じてぺこりとお辞儀をして、子供達も笑顔になったりしていた。
こちらが通りかかったのに気付くと子供達と一緒に大きく手を振ってくる。うむ。
こちらも年少組や子供達に手を振り返しつつ、ハルバロニスの町中を見ていく。作物を育てている区画にはバハルザードの文官か魔術師も見学に来ているようだ。ハルバロニスの面々から説明を受けて熱心に相槌を打っている姿が見受けられた。
「バハルザードとの交流も進んでいるようですね」
「そうですな。上手くすれば砂漠地帯の食糧事情も良くなりますし、ファリード王には細やかにお気遣いをして頂いております。ともあれ、我らの技術がこうした形で役立てられるのは素晴らしいことですな」
俺の言葉に長老達は笑顔でそんな風に教えてくれた。バハルザードとの関係も良好なようで何よりだな。