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番外1112 封印の終わり

 ペネロープ達が持ってきてくれた資料を見ての相談も終わり、儀式については諸々専門家からのアドバイスも貰った。

 後は実際の儀式手順などを考え、それに基づいた準備を進めるだけだ。儀式の手順が確立したら冥府下層を訪問し、ガルディニス達、独房の面々とも話をしてくる、と。


 冥府下層の訪問については、負の念解消任務に付き合うというのは変わらないので食料品などの準備をしっかりとしておかなければならない。


 ガルディニス達はヴァルロスやベリスティオの話から受ける印象では落ち着いているし、敵意も殊更なさそうな雰囲気ではあるが、冥府下層はそもそもが牢獄なのだ。

 他の罪人も収監されているわけだし、あまり油断していて良い場所でもないからな。訪問のための準備は並行してきっちりやっていこう。


 さて。そんなわけで儀式における安全性も確かめるために迷宮核内部でシミュレーションも行っていく。魔人化が解除された後のベリスティオの魔力波長は冥府で共闘した時にウィズが記憶してくれているからな。

 それに合わせて今現在考えている儀式の手順、触媒、場所などを想定し、効果の程よりも安全性に焦点を当てて検証していく。


『やっぱり、こういう儀式は相手側やこっちの想いが重要になってくるから、迷宮核では効果の増幅率はちょっと計算しきれないところがあるね』


 と、こちらの状況を迷宮核の外で待っているみんなに伝える。

 儀式を行うべき場所、こちらの用意した触媒。そこでベリスティオの気持ちがどう動くか。俺がどの程度共鳴できるか等々……当人の気持ち次第で変動する部分が大きく、儀式の効果という点で計算するには不確定要素が多すぎる。


「人の気持ちは数字では表せない、という事でしょうか」

『そうだね。儀式にしたって効率化ばかりを考えるような性質のものじゃないし……それで良いんじゃないかって思っている』


 グレイスの言葉に通信機で返すとみんなも笑みを浮かべた。


「だから安全性、と言っていたのね」

「ん。納得」


 イルムヒルトの言葉にシーラもカドケウスにサムズアップを向けてくる。うむ。


 一先ずは選んだ触媒や儀式場などに危険性が無ければそれでいい。

 触媒や場所の選定にしてもベリスティオは「そうやって考えてくれたものであれば、どれであってもきっと効果があるだろう」と静かに笑っていたからな。


 大事なのは意味をきちんと持たせている事と、意味に込めた想いなのだろうと、そう思う。


 ともあれ話し合いをした結果見えてきたものもあるからな。各所に連絡し、儀式と下層訪問の準備を進めていくとしよう。




 ――転移の光が収まると、そこは清浄な気で満ちた場所だった。

 ピラミッド状の建築物と、それを貫くように生える霊樹。いずれも見上げるほどに巨大で、スケール感がおかしい。

 月光神殿だ。前にやって来た時と同じ――いや、破壊の痕は迷宮の自動修復でほとんど元通りになっている、かな? 俺とヴァルロスの戦いや、ラストガーディアンのブレスで霊樹の巨木もダメージを受けたようだが、迷宮が区画の機能の一部と認識しているのか、それとも霊樹自体の再生能力がすごいのか、こちらも元通りに近い形に再生してきているように思う。


 いずれも迷宮にとっては後付けなので修復も緩やかなものではあるが。

 と、以前との違いを観察しながら前に進んでいくと、巨木の枝葉が揺れて、そこから姿を現したものがいる。翼を持つ銀の蛇――月光神殿のガーディアン、カルディアだ。


 カルディアは俺の姿を認めると、パタパタと手を振るように尻尾を振ってきた。こちらが少し笑って手を振り返すと、こくんと頷く。

 歓迎のために姿を見せてくれたわけだ。カルディアはそのまま飛んできて、近くまでやってくる。


「カルディアも大分復調してきたかな?」


 そう言うと、カルディアはこくんと頷く。

 月光神殿のガーディアンといっても、今は封印の任務もないからな。時々フォレスタニアにも姿を見せてくれるが、カルディアは見るたびにヴァルロスとの戦闘で受けたダメージから回復してきているのが見て取れる。


 ヴァルロスとの戦闘に敗れた時は普通の蛇サイズまで縮んでいたが、今は全長にすると5メートルはあるだろうか。身体をくねらせて小さく折りたたみ、こっちの目線の高さに顔を合わせているが、もう大蛇と呼んで差し支えない大きさになってきた。ガーディアンとしても十分な魔力を宿して、今ならば本来の役目としての戦闘なども問題なくこなせそうな印象だ。


 カルディアは小さく喉を鳴らすように声を上げる。

 翻訳の魔道具によると……最近また脱皮していた、との事で。脱皮の度に体格も大きくなって回復するようではある。


「なるほどね。回復も順調なようで良かった」


 カルディアは俺の言葉に頷くと、また声を上げた。見せたいものがあると言って、背中に乗る様に促してくる。


「ん。それじゃあ」


 そう言ってカルディアの背に乗せてもらう。

 用があって月光神殿を訪れたのは確かだが、急ぎというわけではないしな。カルディアが見せたいものがあるというのなら、確認するのが良いだろう。


 カルディアは――月光神殿の内部を目指しているようだ。そうして通路を抜けて、大きな部屋に出る。ベリスティオの器――肉体が安置されている部屋だ。

 ここは前の戦いでも破壊は及ばなかった。霊樹の根が伸びて来ており、霊樹に水を供給する水路も作られている。床に魔法陣。部屋の中央に、水晶の柱。


『ああ。これは――』


 中継でこちらの状況を見ていたクラウディアが声を漏らした。

 カルディアが俺に見せたいもの、というのはすぐに分かった。多分、あの水晶柱の中――ベリスティオの肉体だ。前に見た時は、ベリスティオの身体は水晶柱の中で眠る様に安置されていたが……今は、違っている。


 石化、しているのか。カルディアに視線を向けると、自分ではないというように首を横に振る。

 そう言えば、カルディアには石化能力があったんだったな。


「ああ。うん。カルディアが原因じゃない事は分かっているよ。脱皮の後で気が付いたっていう事かな?」


 そう尋ねると、カルディアはこくんと頷いた。恐らく、時期的には俺が冥府でマスティエルと戦ってから、かな。

 ベリスティオが冥府に向かう事を選んだから、肉体の方にも影響が出たのだろう。塵になって消える魔人達の終わりに似ているが……器は封印されているから、散らずに形は残って、さながら石化したようになった、という事だろうか。


 ただ、身体からは穏やかで清浄な魔力波長を感じる。何というか……月の民の墓所で感じたような魔力波長だ。


 そう……そうだな。魂を基点にした呪いであるから。解呪されれば器もまた呪いから解き放たれるのだろう。


「月光神殿の封印の役割は――本当に終わり、かな。今は……神殿と大樹がベリスティオにとっての墓所、かも知れないな」


 俺がそう言うと、通信室にいるみんなや隣にいるカルディアも、感慨深いものがあるのか、静かに目を閉じたりして感じ入っている様子であった。

 少しの間、水晶柱の前で黙祷を捧げる。ベリスティオとの記憶が幾つか脳裏を過ぎって……それから顔を上げると場の魔力が母さんの墓参りをした後のように高まっていた。

 きっと、冥府のベリスティオにも届いているのだろう。それからカルディアは、自分が墓守になると声を上げる。


「そっか。それじゃあ、カルディアにも冥府での事を話して聞かせないとね」


 カルディアはしばらく脱皮で顔を出していなかったからな。神殿の外に移動しつつ、冥府でベリスティオ達と共闘した事を話すと、カルディアは青い瞳で俺を見ながらこくこくと首を縦に振って、真剣に話に耳を傾けているようだ。


 今日、月光神殿にやって来た理由もそれに関わってくるものだからな。どちらにしてもガーディアンであるカルディアには話を通す必要があった。


「それで――儀式を行う事を視野に入れていてね。月光神殿はベリスティオとも縁があるからね。触媒になるものを探しに来たんだ」


 そう伝えるとカルディアは納得した、というように頷いた。月光神殿についてはまあ、気軽に立ち入るような場所でもないし、区画内部にはあまり明るくない。少しばかり触媒の候補になりそうなものを探してみるとしよう。

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