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番外1111 月神殿の教義は

「私達は冷水を浴びたり、月光の下で瞑想をしたりしますね」

「小さな滝に打たれて印を組み、精神統一をしたりするのです。都の近くの小山に修行場があってですね」


 資料を広げて様々な儀式や修業法の実例を見ていく。

 その中でペネロープが言うと、ユラもうんうんと首を縦に振って、実際に指で印を結んで見せてくれた。マルレーンもペネロープの言っている修業をした事があるのかこくこくと首肯しているが。

 月神殿の神官や巫女達は大きな儀式や大事な祈りの前には必ずこうした精神集中の時間を設けたりするのだとか。ヒタカの巫女達もそれは同様であるらしい。


 というかグレイス達の湯あみ着も、月神殿の巫女達が水行の折に使うものが元になっているのだったな。


「水行か。その辺も考えておくべきかな。ベリスティオの力を借りる儀式を行うなら、祭司役を担う事になると思うし」

「儀式の際の補佐はお任せ下さい」

「そうですね。私もお手伝いします」


 と、シャルロッテとフォルセトがそんな風に言ってくれる。


「ん。助かるよ。後は……修業の内容だけじゃなく、儀式の場所やその時に使う触媒、か」


 資料を見ていくと……例えば水の精霊なら清らかな水、或いは川辺や湖のほとり、精霊自身と縁のある場所を儀式場として選ぶわけだ。


「我ならばテフラ山を臨める場所で良いだろうし……フローリアならば樹の家や苗木、という事になるか」


 と、テフラが言ってフローリアもにこにことした笑みを見せる。マール達、四大精霊王だけでなくテフラやフローリア、ティエーラ達も顕現して話を聞いたりしている。


「私の場合は――そうですね。一般には知られてはいませんから、そういった儀式とはあまり縁がありませんね」

「私に関する儀式はあるけれど、魔王国でも秘匿されているわね。王国の繁栄や存続への感謝の気持ちを力として借りて浄化を行っているけれど」


 ティエーラとコルティエーラ、それにジオグランタも、サロンにやってきてのんびりと寛いでいる様子である。精霊達も大分賑やかな事になっているな。


「ティエーラ達は、特定の種族に肩入れしないようにしているし……まあ、人が自然に認識するには規模が大きいからね」

「うん。そう」


 と、宝珠を抱えるコルティエーラが俺の言葉にこくんと頷く。

 触媒については……単純な魔法儀式なら術式の効力を上げる品となるが、こうした精霊や神霊との交信の場合……対象に捧げる物、供物といった品々が視野に入ってくる、らしい。


「例えば、シュアス様に祈る儀式であれば……果実等を捧げる事がありますね」

「ん。クラウディアの好物?」

「まあ、そうね。捧げてくれる気持ちが力になる、というのかしら。それに捧げ物が夢に出てきたりする事もあるわね」


 シーラの言葉に笑って応じるクラウディアである。なるほどな。実際に食べるわけではないが、夢に出てくるというのは中々に面白い。


「そうなると……ベリスティオが魔人になる前の好物が適しているかな?」

『……そういう事になるか』


 俺の言葉にベリスティオは苦笑いを浮かべる。


『そう、だな。ハルバロニスや周囲の森で採取できる食物は、どれも嫌いではなかった、と記憶している。食に執着していたわけではないが、こんな身の上だ。味わえば懐かしく感じる、かも知れないな』

『冥府にいる以上は余計にそうだろうな』


 ベリスティオが目を閉じて笑うと、ヴァルロスも目を細めてそんな風に言った。

 そうか。では……その辺もフォルセト達と相談して手配しておこう。

 集めた資料を見る限りでは儀式の際に用いる品としては他にも香であるとか色々あるようだ。これはまあ、普段と違う場を構築する、という意味で有効なものだそうな。


 この辺もハルバロニスで使われているもの等を調達してくると良いのかも知れない。


『香か。物によっては色々な効果があるそうだが』

『ガルディニスは、そうした品を使っていたらしいな』


 と、ベリスティオとヴァルロスが言う。


「ああ。俺としては儀式にそぐう非日常の空気感を作る為、無害なものでしかないよ」

『なるほどな』

「月神殿ではそうした品は禁じていますからね」


 ペネロープが少し真剣な表情で言う。

 宗教や信仰においては高位の存在と同調するために、例えば薬や薬草の力を借りて忘我の状態に持っていくといった事を行う事もあるが……月神殿では女神シュアスの啓示によってそういった行いは明確に禁じられている。

 身一つで自らを高め、心を清めるべし、といった教義となっているのだ。


「そういう作用を持つ薬草や抽出物は、心身に良くない影響があるものがあるって知識として知っていたのよね。だから自分が女神扱いされている事を知って……啓示によって禁じたわ」


 と、クラウディアは記憶を辿りながら言う。なるほどな。今日では月神殿の影響もあって、他の四大精霊殿でもそうした行いは忌避されていたりするから、これはクラウディアが良い道筋を作ってくれたと言えるだろう。


 実際クラウディアや四大精霊王に嫌われれば、神官や巫女は祈りや儀式による加護や祝福も起こせないからな。

 それと見せかけるようなペテンの例もない事もないが、本職には環境魔力の動きから見分けがついてしまうので、月神殿、四大精霊殿の関係者や女神や精霊の御使いなどを騙る輩は割と簡単に摘発される。


 だから聖職者を志すならば基本的に神殿や精霊殿への所属を求められるし、見習いという形で神殿に通ったり出家したりするのが常道だ。


 稀に我流、独学で信仰心を発揮して加護や祝福を起こせる者も現れるようだが……まあそうした者は所在が把握されれば神殿にスカウトされるなど、上手くやっているようだ。


 元々祝福を起こせるぐらい方向性や考え方が合っている、という事だしな。良好な関係を築くのはそう難しい事でもない、か。


 そういう背景もあって真っ当な宗派での聖職者の不祥事や、宗教を騙った詐欺というのは景久の記憶している地球のそれに比べるとかなり少ない。


 真っ当でないものに目を向ければ、デュオベリス教団を始めとした邪教集団というのもいるのだが。魔人崇拝だけでなく、邪精霊や悪魔を崇拝する事例もある。

 ガルディニスもそうだしショウエンも、魔人や邪精霊本人が人間の振りをして教徒や弟子を率いていた形だ。


 人間……特に魔術師が魔法を悪用して祝福や加護に見せかけて邪教を立ち上げる事例もあるから油断ならないというか。


 まあ、邪教の事はさて置くとして……道筋も見えてきたか。

 神格と祝福、加護についての関係は先程みんなと話した通りだ。原理が分かっていればより大きな力を引き出す方法にも検討がつく。

 ベリスティオと俺の、共通の望みを神格と共鳴させ――祝福、加護として現世に効果を及ぼす、という事になる。


 が、ベリスティオの神格はまだ弱いので現世に影響を与える力を高めるためにそれを補う必要がある。

 精神統一して祭司や巫女の力を高め、儀式に必要となる触媒や場をしっかりと選定する必要がある。


 ベリスティオ自身の思い入れがある場所か。それともベリスティオと縁のある慰霊の神殿、冥府に縁が深くなった天弓神殿といった場所か。その辺も今後検討する必要のある事項ではあるか。


「ハルバロニスの人達とも連絡を取って、色々調達してもらう事になるかな」

「他にも必要になりそうなものが出てきたら、同盟各国にも協力を求める事になるかも知れないね」


 俺の言葉を受けてアルバートが言うと、フォルセトが頷く。


「ハルバロニスの皆には私から伝えておきましょう」


 よし。では、諸々決まりだな。更に儀式の効果を高める工夫もあった方が良いだろう。もう少しみんなと資料を見ながら検討して、それから決まった事を各所に通達していく、といったところか。

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