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番外1100 バイロンの今後

「こんにちは」

「おお、これはテオドール公。よくいらっしゃいました。アシュレイ様もお帰りなさいませ」


 と、シルン伯爵家に到着したところで屋敷の近くにシリウス号を停泊させ、まずは知り合いと顔を合わせに向かう。

 シリウス号から降りて行けば、ケンネルとジョアンナ、ミシェルといった面々が俺達を迎えに屋敷の中から出てきてくれた。


「ただいま帰りました」

「皆さんお揃いのようで、嬉しく思います」


 微笑んで応じるアシュレイと共に俺も挨拶を返すとケンネル達も楽しそうに俺達を迎えてくれる。


「それじゃ、留守を頼むね」


 と、甲板から顔を出している動物組や魔法生物組に言うと、こちらに向かって声を上げたり手を振ったりして応えてくれた。

 そうしてケンネル達に案内されて、シルン伯爵家の屋敷の中へと向かう。人数が多いので食堂に案内されて、お茶を淹れて貰って腰を落ち着ける。


「昨日、今日で何かありましたか?」

「雪が降りましたが、それほど積もってはいないので、街中では大きな問題等はありませんでした。冒険者の皆さんは流石に普段より大変そうですが、継続して連携と支援を行っております」


 アシュレイが尋ねるとジョアンナが答えてくれる。

 家令の仕事もしているケンネルに代わって、家臣としてアシュレイの補佐をする役割を担っているジョアンナであるが……大分仕事にも慣れてきているようだ。

 アシュレイも日々の執務で顔を合わせているから、お互いの仕事の仕方等も把握してきているという印象がある。


 ガートナー伯爵領もだが……シルン伯爵領は街道沿いに魔力溜まりの難所や魔力送信塔を抱えている。冬は魔物の活動も控えめになるが、それでも警備やこまめな討伐は必要になるので、冒険者と連係して仕事に当たっているわけだ。


「冒険者の皆さんからは防寒の魔法をかける魔道具が非常に好評ですよ。冬場の活動が苦でなくなることもそうですが、効果時間が一定なので深入りせずに撤退する頃合いも分かって良い、という事です」

「それは何よりです」


 ジョアンナの言葉にアシュレイは嬉しそうに笑う。

 水と光の複合術式にウォームリテンションという魔法がある。防寒用の魔法で体温を保持する、というものだな。人体に影響を与える治癒系の水魔法に、光魔法による祝福系の効果を組み合わせることで付与魔法としての性質を与えたものだ。魔道具ならば一定の効果時間なので撤収時間の目安にもなる、というわけだな。


 冬場の冒険者の活動用にそうした魔法を魔道具に組み込んだものを用意し、領地で支援用として活用しているのだ。必須となる魔物の討伐もそうだが、薬草の一部には冬場にしか採取できないものも存在している。


 冬場も活動しやすい仕事がある、という事で滞在する冒険者も増えているそうな。近場で冒険者の冬の仕事というと迷宮も好まれているが……浅い階層だと競争率も高いし、深い階層は難易度が高いという事で、外での活動を好む冒険者もいる。


 シルン伯爵領、ガートナー伯爵領の魔力溜まりについては……まあ、魔物は出るが街道沿いまで出て来るのは強力な魔物というわけでもないしな。


 アシュレイの術式を刻んだ魔道具を預けられた兵士達が連係と支援を行うという事で、その辺は冒険者にも好評であるようだ。ちょっとした怪我も魔道具で治せるのだし。


「私の方は――今は冬なので水田は活動が止まっていますが、温室のみんなも元気ですよ」


 と、ミシェルも近況を報告してくれる。それは何よりだ。

 引き続きノーブルリーフと作物生育に関する観察も続けているそうで、レポートも用意してくれているミシェルである。


 今回のレポートは……ノーブルリーフの受粉について書かれているな。

 生息地を広げるために種を飛ばす生態は知られていたが、花粉を吹き付けるように飛ばして仲間同士でやり取りしているのを確認する事ができたらしい。

 ミシェルの温室にいるノーブルリーフについてはリボンで目印をつけているというのもあるからな。個体の識別もしやすく、翻訳の魔道具である程度の意志疎通が可能という事もあって、毎シーズン同じ相手を選んでいるらしい、とレポートには書かれている。


 相手を選んで番になっているのは間違いないようだが、選ぶ基準は不明だそうな。

 能力的に気に入った相手と花粉を交換するのか、それとも他の要因があるのか。ノーブルリーフ達に聞いても「何となく気に入ったから」という答えになってしまうそうで。


 但し、相手を選べない環境であるとか花粉をやり取りできる範囲に気に入った相手がいない場合、虫任せの事もあるそうな。

 まあ……自然環境だとそうなるか。気に入った相手がいる方に種を飛ばしたりという事もあるそうで、自然環境下だと次の世代の事も考慮に入れて根付く場所を選んでいるわけだ。意外と複雑なようだ。


「中々興味深い内容だわ」

「何となく可愛らしい習性ね」


 ローズマリーがレポートの内容に感心したように言って、イルムヒルトが笑みを見せると、ミシェルは「恐れ入ります」と微笑んでいた。




 さてさて。レポートについては腰を据えて読みたい内容ではあるので、後でじっくりと読ませてもらうとして。

 シルン伯爵領の面々と挨拶をし、近況報告も受けたところで一旦席を外し、執務室の水晶板を使わせてもらう。元々フォレスタニアと連係しながら執務を行うためのものではあるが、通信室で中継すれば先程のバイロンに関する相談の続きができる。

 相談の経過についてはカドケウスを通して見ていたので、問題なく途中から参加もできるな。


『おお。戻ってきたか』


 と、水晶板モニター越しに顔を合わせると、各国の王達が相好を崩して迎えてくれる。


「はい。相談の経過については使い魔によって把握しております」

『うむ。そうだな……。聞いていたのなら話が早いが、修業先はドラフデニア王国が最適なのではないか、という話になっていてな』

『余としてもヴェルドガル王国東部の領主と繋がりがあるのは良い事なのでな。ベシュメルク王国を挟んでいるから、関係が近くなりすぎる、という事もなくて丁度良いのではないかな』


 レアンドル王が頷く。ドラフデニア王国がバイロンの修業先として最適、というのはまあ、そうした事情に加えて、冒険者王アンゼルフの国という事で魔物との戦いのノウハウも多い事であるとか、騎乗飛行での戦闘技術の習得にも向いている事が挙げられる。


「ドラフデニア王国の武術に関しては冒険者の多いヴェルドガル王国では好意的な意見が多いように思います」

『文化面でもそれほど差異がない、というのも良さそうではあるな。魔法的に制約をかけるにしても、特殊な条件が混ざる事がない』


 エルドレーネ女王が言うと、各国の王達も頷く。それは確かに。ヴェルドガルとドラフデニアはアンゼルフ王が縁を持っているので文化的な交流もあって、互いの習俗に理解があるしかけ離れた部分がない。


『魔法的な制約に加えて、必要とされる武術が剣でなければエインフェウスでも引き受けられたのだがな。まあ、闘気に関する技法を一手指南しに行くというのは有りか』


 と、イグナード王が割と真剣な調子で言った。


『ふっふ。ラザロ殿も指南したいと言っていたからな。御馳走攻めのような事になってしまいそうだが。ドラフデニアとしても、飛行時の技法について教えるつもりでいるからな』


 レアンドル王が肩を震わせる。


『重荷にならない程度にしておこう』

『うむ。修業ではあるが更生が主目的だからな』


 ラザロもだがイグナード王も、実力や向き不向きに合わせて指導するのは割と慣れているとの事で、その辺の匙加減は任せて欲しいとの事であった。その辺は信頼しても良さそうだな。


 ともあれ、バイロンに関してもスムーズに話が纏まりそうな事で何よりである。

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