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番外1099 飛行船内の会談

 墓参りも一段落だ。特に問題もなく、母さんに落ち着いて挨拶をして帰る事ができそうである。


「それじゃあ、母さん。そろそろ帰るよ。今から少し掃除して……それから父さんのところに挨拶に行って、シリウス号で移動する事になると思う」


 そう俺が墓前に伝えると、母さんはこくんと頷いたようだった。


「リサ様とテオドール様達に助けて頂かなかったら今の自分はここにいないであります。改めて、領地に受け入れて頂けたことに感謝するであります」


 と、リヴェイラは改めて母さんに礼を言う。墓前に、というよりは墓石の端に腰かける母さんに視線を向けて言っているな。リヴェイラにはやはり母さんが認識できているようで、母さんもそんなリヴェイラと……恐らく笑みを向けあっているようであった。


 まあ……冥府の事は秘密にしなければならないので領民も墓参りに来ていたこの場では、その辺の事をリヴェイラも口にしないようにしていたようではあるが、今は事情を知る面々しかいないからな。


「では、リサ様。また後程」


 みんなも母さんに一旦別れの挨拶を伝える。


「冥府に戻るまでって、どれぐらいかかるのかな?」

「冥精なら冥府内の移動にそれほど時間はかからないはず……であります。神格者も同様と聞いたであります」


 首を傾げるユイにリヴェイラが応じる。リヴェイラは……冥府の一件が解決した後、現世に来る前に、冥精として必要になる知識をベル女王に教えてもらったそうだ。


『今のリサ殿は冥精と神格者、双方の特徴を備えた過渡期のような状態だが……どちらにしても今のリサ殿なら大した時間はかからないだろう。念のために我が見送りをしてくれば皆も安心か』


 と、デュラハンが魔力文字を展開して教えてくれた。


「流石は冥府の案内役ね」

「デュラハンさんに関しては、リサ様と再び連絡が付いたら召喚すれば合流できそうですね」


 ステファニアとアシュレイが言うと、マルレーンもにこにこした笑みを見せてこくこく頷く。


「ん。それじゃあ決まりかな。二人ともまた後で」


 手を振る母さんとデュラハンに俺達も手を振り返して、その場を後にする。森の小道を通って戻り、まず母さんの家に戻って後片付けと掃除を行ったのであった。




「また夜にはバイロンの事で連絡をするかも知れません」

「分かった。テオ達なら大丈夫だとは思うが、帰り道は気を付けてな」

「ありがとうございます、父さん」


 掃除が終わった後はシリウス号で伯爵家に向かい、父さん達とも一旦別れの挨拶をする。

 バイロンに関しては早めに対応も決まった方が父さん達としても気持ちが楽になると思うしな。道中水晶板で相談もできるし、話を進めていこう。

 因みにバイロンは俺達が帰ったら頃合いを見て別邸に戻る、という事になっているそうな。


「今後の事については早めに話が進むようにするつもりでいるよ」

「ああ。感謝する」


 バイロンは俺の言葉に静かに笑って頷く。


「何ていうか……今の自分はまだ何もしてないしな。やらかした事が無かった事になるわけでもないから、気遣われるような奴でもない。だから……だからさ。これからの事を見てて欲しい。ダリルや父さんや……テオドールにも心配や迷惑をかけないように、しっかりするからさ」


 ふと、真剣な表情になってバイロンが言う。俺も表情を真剣なものにして応じ、それから少し笑い合った。うん。バイロンはきっと大丈夫だろうと、そんな気がする。


「兄上の事、良かったと思う。また何時でも遊びに来てくれると嬉しいな」

「帰りの道中、お気をつけて」

「ありがとう」


 ダリルやネシャートとも笑顔で言葉を交わす。それから、キャスリンとも向かい合う。


「今回の事は感謝しています。雪道なので気を付けて下さいませ」

「そうですね。フォレスタニアは雪がないのでその点安心ではあります」


 そう答えると、キャスリンも静かに笑って頷く。父さん達だけでなく、ハロルドとシンシア、フローリアも伯爵家の中庭で見送りに加わっている。


「やはり、今のお仕事はやりがいがあります」

「そうですね。いつもテオドール様達と会えると嬉しくて、楽しい事ばかりで」

「ふふ、二人が危ない事がないように、私も見守っておくわね」


 と、3人も笑顔だ。もっと魔道具を上手く使えるようになっておきますねと、ハロルドとシンシアはやる気に燃えていたりするが。

 そうして各々挨拶をしてからシリウス号に乗り込む。全員が揃っている事を確認。甲板に向かって手を振る父さん達に俺達も手を振り返して――シリウス号がゆっくりと浮上し出した。


「……今回は、そうね。きちんと和解する事ができて良かったわ。迷惑をかけてしまった人達は、他にもいるけれど……今日のところは、というところね」


 そう言ってローズマリーは眼下の父さん達に手を振って、遠くを見るような表情になる。


「マリーももし悩んでいる事があったら遠慮なく言って欲しいな」


 そう伝えると、ローズマリーは俺の顔を見て笑顔になる。


「わたくしの心配はいらないわ。悪人相手なら迷惑をかけたことを謝ろうという気になるほど殊勝でもないもの。そうでない場合や――更生を目指している者達には、わたくしも真摯に対応しないといけないけれど、ね」


 そう言ってから、羽扇で顔を隠し「けれどまあ……そうね。ありがとう」とそんな風に言って。みんなもそんな答えに笑顔になって、ローズマリーは明後日の方を向いていた。


 そうしている内に、段々とガートナー伯爵家も母さんの家も遠ざかっていく。

 このまま――帰り道にシルン伯爵領に顔を出し、一泊してタームウィルズに戻る予定だ。各所との相談事についてはシリウス号内部からフォレスタニアの通信室と中継できる。

 移動中とシルン伯爵領についてから中継で各所と相談を進めて、バイロンの先々について早めに結論を出せるようにしてしまおう。


「アルファ、進行方向は合わせたから、シルン伯爵領に到着するまで操船を頼んでいいかな? 少し相談事を進めなきゃならないからゆっくりした速度でも大丈夫だよ」


 そう言うと、アルファはこくんと頷いて操船を代わってくれる。


「では、計器類を見ておきますね」


 シャルロッテがそう申し出てくれた。アルファが頷いて隣に腰を落ち着けると、シャルロッテも笑顔を見せる。

 うん。それでは俺も、各所と連絡を取って相談を進めさせてもらうとしよう。




『――ふむ。国内を見ても信頼に足る貴族家も多いが……ガートナー伯爵家は他家の干渉から自由になったばかりではあるからな。家臣達の心情も考えるなら修業先は国外の方が良い、かも知れぬな』

『そういう意味ではバハルザードもネシャートとの縁談が決まっているのに更に繋がりを深くするってのは控えた方が良いか』


 メルヴィン王の言葉に、ファリード王が思案しながら言うと、各国の面々も思案を巡らせる。国外での修業、か。


『ガートナー伯爵家と当人にとって、というのを考えたいところだな』

『当人は剣を武器として選んでいるのだったな』


 剣の修業、という事でミルドレッドの見解も参考に聞いてみたところ、現在ヴェルドガル騎士団の教導役になっているラザロにも話が通り、意見を貰う事ができた。


『俺が指導しても良かったのだがな。国外か。ふむ。折を見て実戦向けの技術を指南する事ぐらいはできるだろうか』

「それは――きっと喜ぶと思いますよ」

『そうだと良いが』


 と、ラザロが兜の奥で苦笑して答える。

 ラザロは影としての事情はあるが、ヴェルドガル王国にとっては由緒正しい剣術である事は間違いないし、当人から記憶……というより遺志、魂の一部と技をそのまま受け継いでいるのは間違いないのだ。


 ヴェルドガルで武官を目指す者達の多くがそうであるように、バイロンにとってもラザロは憧れの英雄、といった位置付けの人物だと思う。

 ラザロは騎士団の教導もしているので、つきっきりの修業は無理だが、それでもモチベーションが高くなるのは間違いないな。


 そうこうしている内にシルン伯爵領も見えてくる。相談は進めておくから到着したら挨拶をしてくると良い、とメルヴィン王が笑って言って、他の王達も同意してくれるのであった。

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