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番外1098 領民達の来訪

「ん。美味」


 と、鮭の入ったおにぎりを口にしてシーラがうんうんと頷く。

 おにぎりも具としては鮭、ツナマヨ、エビ、醤油や味噌をつけて焼いたもの……と色々作ってきたからな。魚介類が多いのはシーラの好みと合致しているだろう。


 そんな上機嫌なシーラに笑って、イルムヒルトが寝そべるベリウスに背中を預けてリュートを奏でてユイが笛を吹く。セラフィナとリヴェイラが並んで腰掛け、フローリアと楽しそうに歌を歌う。


 温かな思い出の歌。それから旅立ちや門出の歌だな。墓所に来ている母さんに楽しんでもらえるような曲を奏でたり、バイロンの決意や新しい境遇……というより、ガートナー伯爵家の面々のこれからにも応援の意味も込めているのだろう。


 母さんも墓石の端に腰かけて、音楽に合わせて身体を揺らしている姿が見て取れる。母さんも楽しんでくれているようで何よりだ。


「母さんや場の魔力も高まってる感じがするね」

「領地に来た人達が慕っているのが伝われば、それは冥精としての力になるのであります」

「リサのお家でみんなが賑やかにしていると、私の力が高まるのと同じよね」


 俺の言葉にリヴェイラとフローリアが言った。デュラハンやガシャドクロも同意するようにこくんと頷く。


「今日のお墓参りで、現世での顕現も早まりそうね」


 クラウディアが目を閉じて言うとみんなも笑顔になっていた。

 そうしてみんなで食事も一段落して、イルムヒルト達の奏でる音色を楽しんだりしていると伯爵領の領民達が森の小道を通ってやってくる。


 カーター少年達と、その親達。領民達の顔役でもあるハドリーといった面々だな。


「これは境界公、伯爵様も」


 と、ハドリーが一礼してくる。


「こんにちは。ご無沙汰しています」

「元気そうで何よりだ」


 俺と父さんが答えるとハドリーは静かな笑みを返して応じる。ハドリーはそこそこ高齢だが、前に見た時より顔色もよく、健康状態が良くなっているのが窺える。俺達との和解もあって心労も減ったのかも知れないな。


 俺達の挨拶が終わると、カーター少年達も挨拶をしてくる。


「お久しぶりです、テオドール様」

「おひさしぶりです……!」

「うん。みんなも元気そうで何よりだ」


 カーター少年達が明るい笑顔で挨拶をしてくるので、俺も笑って返す。

 初対面となる面々もいるので、カーター達に紹介する。


「初めまして。ユイだよ。カーター君達の事もテオドールからお話聞いてます」

「リヴェイラであります。よろしくお願いします」

「初めまして、ユイさん、リヴェイラさん」


 笑顔のユイとリヴェイラに、カーター達も笑顔で応じていた。そうしてダリルやネシャート、ハロルドやシンシアとも笑顔で言葉を交わす。


「やあ、カーター」

「はい、ダリル様。昨晩は雪が降ったので心配してましたが、良い天気になりましたね」


 カーター達は以前俺達が伯爵領を訪問した折に、集団で家出騒動を起こした領民の子供達だ。動機は母さんと親達の事を俺に謝罪したかったというか……それが切欠で俺と領民達の和解に繋がった。行動を起こしてくれた事と言い、今後も大切にしたい縁だな。


 今ではダリルやハロルド、シンシアとも友達のようで。笑顔で言葉を交わすダリルとカーター達に、ネシャートも穏やかな笑顔を向ける。

 ダリルも……次の代を担う子供達と仲が良いというのは良い事だな。領主になった時に安心できるというか。


「おお……。バイロン殿……」


 バイロンも居住まいを正してハドリーやカーター達にお辞儀をする。ハドリー達も少し驚いたような表情でお辞儀を返し、それから明るい笑顔を見せる。


 バイロンの事情についてどこまでハドリー達が知っているか俺は知らないが……ある程度の事は把握しているようだ。こうした反応は――自分達の和解にも重ねるところがあって、バイロンが外に出られたことを喜んでいるように見える。


「ああ。反省にかなり時間はかかってしまったが……こうして再び機会を与えてもらった事に感謝している。まだまだ自分が頼りない事は分かっているが……そうだな。行動で決意や覚悟を示していきたい、な」


 ハドリー達の反応を見てバイロンも静かに応じる。

 そうして挨拶も終わったところで、ハドリー達の墓参りが始まった。

 少し和やかな雰囲気から神妙な空気になって、墓前にて黙祷を捧げていく。


 母さんは一人一人の想いを受け止めるように相槌を打つように頷いて黙祷に応じていた。


「何と言いますか……心が軽くなったような気がしますな」

「確かに……。前から墓所の雰囲気が温かなものだとは聞いておりましたが、これは……」


 母さんと冥府の一件については大っぴらにできるものでもないのでハドリー達には知らされていないが、墓所の魔力や温かな感覚は噂にはなっているようで。


「信仰を集める事で魂が神格を得たり、場の魔力が高まる事で精霊が活性化する事がありますからね」

「おお……。なるほど」


 ハドリー達はそうした説明で感動したような反応を返してくる。

 冥府関連について詳細は明かせないものの、実際墓参りをすれば感覚的に伝わるものがあるからな。納得がいくだけの説明は必要だろう。


 そうして領民達の黙祷も終わると、母さんや墓所の魔力も更に強くなっていて。領民達の気持ちは前に和解してから墓参りを済ませて既に母さんに届いているけれど、母さんからもそれに対する返答を伝える事ができた、と言って良さそうだな、これは。


 ハドリー達は昼食を済ませて来たとの事であるが、お茶を勧めたところ「ありがとうございます」と応じてくれる。飲んで楽しんでいってくれたら嬉しいな。


 そうしてしばらくの間、墓所でのんびりとした時間を過ごさせてもらった。

 カーター達もシャルロッテと共にコルリスやアンバーに鉱石を食べさせたりと楽しげな様子で……結構な盛り上がりを見せてから散会となった。


 領民達は帰って行ったが、俺としては父さん達と話がある。

 そのまま敷布に腰を落ち着けて、少しばかり今後についての話をする。昨晩話をしていた、契約系魔法の条件についての話と、バイロンの修業に関する話だ。


「俺としては――修業先についてはあれこれと口出しできる立場じゃないからな。ただ……武官として改めて修練を積む機会が貰えるというのは嬉しい」


 というのがバイロンの言い分だ。契約系魔法の細かな条件についても説明すると、神妙な面持ちで頷いていた。


「契約書にはきちんと目を通して意味を考えるように、というのは父上から指導されたな。確かに、ずっと続くものだし、色んな事態を想定しなきゃならない、か」

「修業先等が決まっていないからね。魔法の条件についてもそこが決まってから詰めた方が良いかなとは思ってるよ」


 修業先の事情に合わせて想定される危険性等も出てくる可能性があるからな。

 今すぐ隷属魔法や誓約魔法でどうこうという話にはならないが、修業に関する話をタームウィルズに持ち帰って相談し、それで今後が色々と決まれば、魔法をかける場も設ける事ができるだろう。


「その辺については、早めに進めるつもりでいるよ」


 今の生活から伯爵家に戻る事ができるようになるしな。それに、外で修業といっても折りに触れて帰省できないわけでもない。


 そう伝えるとバイロンは「ありがとう」とそう言って感じ入るように目を閉じ、ダリルやネシャートも目を細めていた。何はともあれ、バイロンも外での修業には納得してくれているようで何よりだ。


 バイロンの修業についてはこのまま話を進めて行く事ができそうだな。

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