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番外1097 家族の揃う日が

 そうして礼服に着替えたり花束を用意したり。墓参りの準備を整えつつ父さん達の到着を待つ。俺の場合は礼服に着替えると言ってもアウターはキマイラコートを変形させたりで事足りてしまうな。ジャケットやらを着替えたりするだけで良い。


 グレイス達はあまり動きにくいもの、身体を締め付けるようなものは良くないという事もあり、黒を基調として、ゆったりとしたワンピースドレスに、身体を冷やさないように上からストールやケープ、マントを羽織ったりという服装で統一している。とは言え、俺達は寒さに関しては四大精霊王の加護もあるので問題にはならない。


 こういう礼服関係は俺達の場合、公的な場に出る事も増えるのでどうしても必要になるしな。今回同行した面々はみんな用意している。ユイも迷宮核で構築した中にヒタカ風の礼装を用意しているし、セラフィナやリヴェイラも端材でフォーマルな服を作ってもらっており、特に問題はないだろう。


 着替えて準備を整えて待っていると、やがてガートナー伯爵領から護衛と共に2台の馬車がやってくる。

 母さんの家の前まで来ると馬車が停まり、父さんとダリル、ネシャートとキャスリン……そしてもう一台の馬車からバイロンが降りてきた。

 話をした後にバイロンも落ち着いているようだから、今回は一緒に墓参りをしてはどうかと、昨晩の時点で父さんと打ち合わせている。


 これからバイロンの生活も変化していくという事で、当人も気持ちに整理をつけ、決意を固めるための節目にもなったりするのではという話になったわけだな。勿論、バイロンが希望するなら、という話ではあったが。

 護衛の騎士達がバイロンの脇を固めているのは……まあ、まだ契約系の魔法を使っていない現時点では、諸々の事情から仕方のない事ではあるのか。


「おはよう、テオ」

「ええ。おはようございます」


 降りてきた父さん達と朝の挨拶を交わす。

 バイロンも、きっちりと折り目正しく一礼して、みんなと朝の挨拶をし合う。

 それからバイロンは俺達の姿を見て少し固まり、次第に驚きの表情になった。結婚指輪が揃いのものである事も確認したようだ。


「な、なるほど。高位の貴族ともなると、という事か……」

「精霊や使い魔も、驚くよね」


 と、割と動揺しつつも遠い目をしているバイロンと、苦笑しているダリルである。


「共に困難を乗り越えた間柄ですから」


 エレナがそう言って笑みを見せ、みんなも同意するように頷いていた。

 ともあれバイロンは驚いたものの、基本的には落ち着いている様子だ。決意を固めているという事もあるのか、昨日会った時の緊張した様子とは違い、良い具合に肩の力が抜けて、リラックスしている印象があるな。


 どうやら問題はなさそうだ。最初に墓所に向かう面々も揃ったのでこのまま墓参りに向かう事にしよう。

 森の小道を歩き、みんなもフロートポッドに乗って母さんの墓所へと向かう。


 墓所に到着すると……環境魔力は先程よりもますます高まっているようだった。


「何というか……温かな雰囲気を感じますね」


 キャスリンが目を閉じて言うと、リヴェイラがにこにことした笑みを見せた。


「パトリシア様も歓迎してくれているのだと思います」

「だとしたら嬉しいですね」


 シャルロッテの言葉に穏やかに応じるキャスリン。キャスリンも冥府の母さんと話をして、和解しているしな。


「それじゃあ――花束を」

「ええ」


 みんなも落ち着いているし良い頃合いだ。ローズマリーから花束を渡してもらい、それを供える。それからみんなで順番に黙祷を捧げていく。

 冥府で母さんと会っているし通信室で話ができるから、今回墓前で報告する事としては――やはりバイロンとの事、だろうか。


 バイロンに会いに行ってからの事を思い返して……無事に和解した事やこれからの事を想いに込めて伝える。そうすると場の魔力がますます高まって……何か力の強いものが場に現れるような気配があった。ああ。母さんも墓所に現れたようだ。


 薄く目を開く。やはり現世ではまだ顕現できないが、片眼鏡では薄らとした光の中に浮かぶ、母さんらしき姿を見る事ができた。

 冥精化が進んだからか、それとも俺自身がベル女王やローデリックと知己を得て認識しやすくなったから、というのもあるかも知れない。


 ぼんやりとした人型の光の靄が墓石の端に足を揃えて腰かけて、視線が合うと微笑みながら頷いている、ように見えた。リヴェイラも感知しているようで、母さんのいる場所を見やって微笑む。俺も頷いて……また少しの間、黙祷を続けてから場を譲る。


「ああ……。この魔力……懐かしい感じがします」


 グレイスが声を漏らす。みんなが黙祷を捧げるたびに場の魔力と共に母さんの魔力も高まって、それが黙祷を捧げている面々にも伝わるのだろう。じんわりと胸が温かくなるような感覚と……懐かしい魔力波長が、母さんからの返答や歓迎の気持ちのように感じられた。


 お祖父さんやヴァレンティナ……それにロゼッタや父さんは生前母さんとも接していたからか、その魔力波長にも覚えがあるようで、黙祷を捧げた後に目を細め、穏やかな表情を浮かべる。


 生前の母さんとは面識のないみんなにも……胸のあたりが温かくなるような感覚は伝わっているのだろう。黙祷の後に胸に手を当てて微笑みあったりと、嬉しそうな印象である。


 バイロンはと言えば……黙祷の前に墓前に深々と頭を下げて……どこか謝罪をしているような雰囲気があった。俺との過去の関係について母さんに謝っている、のだろうか。

 母さんもそんなバイロンの黙祷に込められた想いを感じ取っているのだろう。時折相槌を打つようにこくこくと頷いて……それから俯いたまま黙祷を捧げているバイロンの頭に、ポンポンと軽く触れるような動きを見せる。


 するとバイロンは顔を上げて……不思議そうな表情を浮かべた。


「何だかとても……心が軽くなったような気がする」

「母さんに、想いが届いたんじゃないかな」


 俺がそう答えるとバイロンは思うところがあるのか、遠くを見るような目をしていた。母さんは俺の言葉が正しいというように頷いているな。


「今日は――家族皆で来られて良かった」

「そうだな。揃って訪れる日が来る、か」


 並んで黙祷を捧げるダリルとネシャートを見ながらキャスリンが言うと、父さんも静かに目を閉じる。

 そうして同行してきたみんなも黙祷を終える。領民達も墓所に向けて出発した頃合いだろうか。

 昨晩雪は降ったが今日は良く晴れている。朝方はその分冷え込んでいたが、日差しは暖かなもので、段々と良い陽気になっているようだ。


「少しのんびりしながら待つ事にしようか」


 そうして、これから墓参りに来る領民達の邪魔にならないところにフロートポッドを浮かべて敷布を敷いて待つ事になった。

 イルムヒルトもフロートポッドの中からリュートを取り出し、ローズマリーが魔法の鞄の中から、朝食のついでに作ったおにぎりや唐揚げ等の詰められたバスケットを取り出す。


 墓参りではあるが平和なピクニックじみた光景だな。動物組も敷布の上に寝そべって寛いでいるようで、シャルロッテが嬉しそうに動物組の近くに腰かけていたりする。


「軽い食事を作ってきましたので、良かったら父さん達もどうぞ。沢山ありますので」

「ふふ。どこか行楽に来たような雰囲気だな」


 と、俺の言葉に父さんが笑う。


「パトリシアも賑やかなのは喜ぶと思うわ」

「そうね。リサのお墓参りらしい雰囲気だわ」


 微笑むヴァレンティナとロゼッタの言葉に、母さんも首肯していたりするが。


「これは、テオドールが?」

「正確にはゴーレムを操って料理したものだから、俺の手でっていうわけではないけれどね」


 ダリルに苦笑して答えつつみんなで腰を落ち着けて飲み物も行き渡ったところで食事となる。


「ああ……これは――美味いな」


 バイロンはおにぎりや唐揚げを口にしてそんな風に漏らしていた。ん。バイロンも……久しぶりの外出という事で楽しんで貰えているようで何よりだ。

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