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番外1095 温かな光景に

 シリウス号を母さんの家の近くに停泊させて……まずは掃除から始める。内部は前回訪問した時のままで綺麗だが、それも訪問した時に毎回きちんと掃除しているからではあるな。今回もきっちりと掃除を行っていく。まあ、グレイス達はフロートポッドに乗ったまま休んでもらっているが、お祖父さん達やロゼッタも楽しそうに掃除を手伝ってくれた。


 床や棚や机の上を拭いたりすると、フローリアが心地良さそうに目を閉じて、その魔力が増強されているのが分かる。セラフィナも影響を受けて魔力が高まっていたりするな。


「やっぱりみんなが訪問してくれると、心地が良いわ」

「うんうん。フローリアの気持ちも伝わってくる」


 そんなやり取りを交わして微笑み合うフローリアとセラフィナである。

 家を大切にする想い自体がフローリアやセラフィナにとっては力になるそうで。フローリアの分体は東区の屋敷やフォレスタニア城にもあるので、そこからも力を得ているらしいが。

 屋敷には苗木を植え、城の方は中庭に種を植えて分体の育成中である。


 そんな調子でみんなと共に和気藹々と掃除をして、綺麗になったところで手荷物を運び込む。


 寝泊まりするには人数がやや多いが……まあ、手狭になっても母さんの家に宿泊するのが良いというのであれば、寝袋を持ち込んで、居間や床で寝るというのも悪くないだろうと準備を進めてきている。

 寝泊まりする場所としてはシリウス号もある。中継すればどっちに泊まってもみんなと話もできるからな。


「それじゃ、食事の準備をしてこようかな。アクアゴーレム達に手伝ってもらって料理を進めるから、みんなはのんびりしていて大丈夫だよ」

「ふふ、ありがとうございます、テオ」


 と、微笑むグレイスに見送られて、バスケットに食材を入れたティアーズと共に台所へと向かう。

 まあ、カドケウスやバロールを通して料理の様子を見ておけばいいから、俺もすぐに居間に戻って来られるだろう。




 そうして料理の仕込みをしてから居間に戻ってくる。カードやチェス等も持ってきているので、みんなで楽しそうに遊んでいたようだ。


「おかえりなさい、テオドール様」


 俺が戻ってくるとアシュレイがお茶を用意してくれる。


「ありがとう」


 礼を言って腰を落ち着ける。


「これが終わったらテオドールも一緒にどうかしら?」

「うん。混ぜてもらおうかな」


 ステファニアに誘われて、笑って頷く。


「ふふ。年代の差もなく大人数で楽しめるのが良いところよな」


 お祖父さんがハロルドとシンシア、ユイとリヴェイラといった面々とカードで遊びながら笑みを見せていた。


「私も一緒に遊べるのは嬉しいであります」


 小さな水晶玉を抱きしめるように抱えて、二本のマニピュレーターを操作し、嬉しそうにカード遊びに興じるリヴェイラである。

 家具全般を操れるセラフィナはともかくとして、妖精のサイズだと手札を保持するのも大変だからな。スレイブユニット用に組んだマニピュレーターの試作品を簡易に魔道具化してリヴェイラに使ってもらっている。


 日常生活でもこうして気軽にマニピュレーターが使えると便利という場面があったりするので、カードのためだけに用意してあるというわけではないが……リヴェイラには喜んで貰えているようで何よりである。


 そうして、みんなでいくつかのグループに分かれ、一緒に遊ぶ面子を入れ替えたり、イルムヒルトやユイ、リヴェイラの演奏に合わせて歌ったりしながら、賑やかな時間を過ごす。そうこうしていると台所から良い匂いが漂って来て……懐かしさを感じてしまう。

 グレイスもどこか懐かしそうに目を細めていて、ふと俺と視線が合うと微笑みを向けてくる。


「母さんの家が賑やかなのは……やっぱり嬉しいね」

「ふふ、そうですね。昔に戻ったみたいで楽しいです」


 俺の言葉にグレイスもそう言って頷く。冥府での再会の事もあるからかな。余計にそう感じてしまうところがあるのかも知れない。




 その日の夜には父さんから通信機に連絡があった。バイロンの所に訪問して色々と話をしてきた、との事だ。


『腰を据えて色々話をしてみたが……契約系の魔法に関しては、失った信用に対する自分の決意を示す意味合いがあるから必要だと思うと、そう言っていた。自分がダリルの邪魔にならないためにも、自分を担ぐ者がいれば諦めさせる必要があるが、自分が未熟なのは痛感しているとの事だ』


 父さんからの連絡にはそう言った内容が記されていた。

 その辺は……ローズマリーの誓約魔法の話も考え方に影響している気がするな。だがまあ確かに。担ごうとする輩が接触を諦める理由にはなるし、バイロンの言葉からは後継の立場でなくしても、兄として筋を通したいと言う気持ちは伝わってくる。


『分かりました。契約、隷属、誓約魔法の何れを選択するにしても、その類の魔法の発動条件については細心の注意をして詰める必要があります。日常生活上での誤作動というのも有り得ますから、バイロンのこれからの生き方に即した内容にする必要があるのかなと』


 ローズマリーの話に限らず、誓いや決意のために契約系の魔法を利用した前例はあるので、ある程度その辺のノウハウは蓄積されている。

 条件に抵触した時にどんな効果が発動するかも考える必要があるし、抵触したという情報が然るべき相手に伝わるようにしておくのも重要だろう。


『生き方か。武官であるなら、間違って抵触したのではないかと意識した途端にいきなり命を落とすとか、身動きができなくなる、というような内容は危険だろうな』

『そうですね。誓約魔法を自らに課しているマリーも……有事にそうした些細な心情の変化などでは致命的な事態にならないように、いくつか安全策を講じています』


 内心まで細かく条件で縛ると葛藤や迷いすら抵触する可能性がある。やはり故意の裏切りや害意を実行に移そうとする意志というのが魔法の発動条件として妥当な所ではあるな。


 後は裏切りとしての危険度、緊急度を段階的に分けて低いもの……例えば自覚していなかった行為等を後から裏切りではないかなどと思ってしまった場合等は……当人に確認や相談を行う事で発動条件を回避したりできる、であるとか。


 条件を細分化すると術式の制御も複雑になるが、まあ……そこは協力できる部分なのでどうにかなる。


『もう一つの問題は――誓約魔法で外に出られる段取りが付いた後だな』


 父さんが言うには、伯爵領内は人員の再編が進んでいて、武官の修業に適した環境構築が難しいかも知れない、という事だ。

 ガートナー伯爵領では、シルン伯爵領との街道沿いに魔力溜まりの難所を抱えているので、武官はそれなりに魔物との戦いが起こるし、実戦での実力も求められる傾向があるのだ。要するに……人員に余裕がない。


 伯爵領内の武官はバイロンの蟄居も知っている。領主の子だけに手心を加えたり、逆に失敗を見て不当に侮ったりしても修業や更生に繋がらない。

 周囲の人間に先代侯爵の関係で接触を図ってしまうような事があっても本末転倒という事で、人手不足以外にも武官として復帰できるまでに色々と考えるべき事が多いということだろう。


「どこか外で修業し直してくるっていうのも視野に入れるのがいいのかな。武官として一線に復帰できるだけの実力を備えて戻ってくれば……それらの問題も諸々解決できるかも知れない」

「外で精神修養を兼ねて鍛え直してきた、という事実は……確かに、その人物を再評価するという意味では重要よね」


 クラウディアが頷く。


「そうだね。ガートナー伯爵領の事情を考えれば……実力があれば認められるし信頼もされる」


 謂われのない誹謗は修業先への批判にもなるから防げるが、裏を返すなら当人も修業先の名誉のために身を律する必要が出て来るという事でもある。その分、修業の受け入れ先も安請け合いできない。

 やはり当人の意思を確認したり、きちんと受け入れ先に依頼する必要があるだろう。


 その辺の事も父さんに通信機で連絡を入れ、明日の予定についても改めて確認するのであった。

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