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番外1093 王家に生まれた身として

 魔力反応から見ると、感情は俺との会話で揺り動かされて高ぶっているが、その感情も決してネガティブなものではないようだ。

 このまま落ち着いて話もできそうなので、まずはバイロンにまだ用事のある人物がいると伝える。


「落ち着いて話ができそうなら……もう一人バイロンと話をして自分の間違いを謝りたいって言っている人がいるんだけど、大丈夫かな?」

「あ、ああ。それは問題ないが、謝りたいとは……一体誰が、何の理由で?」


 訝しげな様子のバイロンであるが。


「元第二王女のローズマリーだよ。理由は当人から説明すると思うから、俺は付き添いでもう少しここに残らせてもらう。その、夫だからさ」

「ロ……夫ッ……!?」


 情報が入っていないのか、バイロンは目を白黒させて驚きの表情を浮かべていた。まあ……ローズマリーが接触した時は本人と分からないように変装用の指輪を付けていたのだろうから思いもよらない名前だと思うし、その辺の情報は今の生活だと、父さんが周辺の警備に付けた人員が話でもしない限りバイロンには伝わらないか。


「ああ、テオドールは結婚して領主になった……んだったか。そこだけは聞いた事がある」


 バイロンはかぶりを振ってから気を取り直すように頷く。


「そうだね。マリーとは何というか、紆余曲折があったんだけれど……到着まで掻い摘んでその辺の事を話しておこうかな」


 カドケウスで連絡を取って、バイロンとのやり取りの重要な部分を伝えつつ、ローズマリーに話を通す。ガートナー伯爵邸で待機していたローズマリーは「では、フロートポッドでそちらに向かうわ」と言ってシオン達が護衛に付き添っていた。


 ローズマリーとの結婚に至った経緯についても、今回の面会とは完全に無関係というわけではない。バイロンと関係のない事なら説明しておいてもらえると助かる、との返答があったので、そのまま話をする。


「マリーは王都で起こったとある事件で暗躍していてね。変装して俺に接触してきて……そのまま取り押さえる形になった。その事件も結構大事になってね。詳しい説明は省くけれど、キャスリン様とも少し関わりがある。他の貴族の怨恨からの復讐も考えられたから……罰と保護を兼ねて隔離をされる事になった、と」

「……何と言えば良いのか。騎士団の面々から苛烈なお人柄とは聞いていたが」


 ローズマリーの話に遠い目をするバイロンである。当時のローズマリーは騎士団の一部の人間とも人脈も掌握して権力拡大を目指していたからな。騎士団繋がりでバイロンが人柄を耳にするという事もあるだろう。

 とある事件というのは人の心に関わる魔法薬の話だから、あまり詳らかにはできないが……その辺もキャスリンと関係のある話だしな。


「その後は……魔人対策で古文書の解読を手伝ってもらったりしていたんだ。門外不出の書物が多かったけれど、別の案件で既に彼女が目を通して存在を知っていたものだし、隔離されている上に魔法知識のあるマリーなら解読作業も問題無かったというか……」


 そうして古文書の解読途中に魔法の罠にかかってしまった事とその救出が切欠となって、ローズマリーは安全性を得るために場所を移す事になった。

 魔法に詳しい人員が他にも近くにいた方が安心だろうという事。ローズマリーの起こした事件と他の貴族との事情。

 解読作業にしても外部に身を置くにしても、魔法が禁じられていると自分の身を守れない。そこで誓約魔法を行うと自分から申し出た事。


 そして……それらの経緯もあって、俺との婚約という話にも繋がるわけだ。その辺の事を、明かせる部分で話をしていく。


「誓約魔法……」

「自分自身で宣言して、その誓約を守れないと何かしらの効果が発動するわけだから……契約魔法や隷属魔法よりも強固だね」


 結構なリスクだと思うが、ローズマリーの場合はそういう決断もしてしまうというか。蟄居している今の状況に重なる部分があるからか、バイロンは目を閉じて思案しているようだった。


 そうして話をしている内にローズマリーがフロートポッドで別邸に到着した。シオン達に護衛されながら兵士に案内を受け、ローズマリーが面会室に入ってくる。

 バイロンはローズマリーと面会して少し驚きながらも、椅子から立ち上って敬礼する。この辺は……ヴェルドガル貴族として教育を受けているからな。


「ローズマリー=フォレスタニアよ。敬礼は、必要ないわ。以前変装したわたくしと会っているから初対面、というわけではないわね」


 敬礼を受けたからか、礼儀作法に則って、ローズマリーが挨拶を返し、そして落ち着いた口調で言った。


「バイロンと申します。その……変装、ですか?」


 バイロンがローズマリーに尋ねる。


「ええ。前に王都を訪れた折、占い師と会っているでしょう? あれは、幻術を使ったわたくしの変装でね」

「……それは――はい。確かに」


 バイロンは……思い当たる節があるのか、その言葉に頷く。バイロンが落ち着きを取り戻すのを見極めつつ、ローズマリーは言葉を紡ぐ。


「わたくしは当時、魔人を撃退したテオドールに注目していて……取り込むための足がかりにするため、貴方やキャスリン殿に接触を図った。わたくしが唆した結果として、ガートナー伯爵家を引っ掻き回して迷惑をかける事になってしまった」

「それは……けれど、俺――私はそのまま激昂して東区に向かってしまいましたから……結局、自分の短絡でこうなっているのだと思います。あの時の事がなければ、私も……勘違いして今も間違ったままだったかも知れません」


 バイロンの言葉に、ローズマリーは目を閉じる。


「それは、わたくしにとってもそう。わたくしの行いも間違っていた事に変わりはないわ」


 当時は取り込む相手、巻き込む相手にしても大体は利害関係で繋がれると選んだつもりでいた、とローズマリーは伝える。

 互いに利があるなら利用し合う関係も別に構わないだろうと。


 ただ……魔法薬を使って弱みを握るにしても、ローズマリーは相手が清廉な人物であるなら派閥争いに巻き込むのを是としなかったというのは知っている。


 俺の場合は少し特殊で、将来性の面からどうしても自陣営に引き込みたくなってしまったそうだ。

 まあ、ローズマリーの派閥に属する騎士団と当時少し対立していたし、メルヴィン王やアルバートとも繋がりがあったからな。王位を目指していたローズマリーとしては俺の影響力が大きくなる前に自陣営に引き込めれば、と思って動いたところがあるようだが。

 そうなれば派閥争いの問題と、自陣営の強化と、両方に対応できるという事になるのかな。


「だけれど……人は変わるもの、変われるものだわ。自分の目的のために積極的に巻き込むような事は、すべきではなかったと反省している。だから……ごめんなさい」


 そう言って、ローズマリーは謝罪する。

 人は変わる、か。それは先程のバイロンのやり取りもそうだし……俺の変化もそうだろう。ローズマリー自身も……思い当たるところがあるのだろう。


「分かり、ました。元より、許す許さないを言える立場ではありませんが、そのお言葉は確かに受け取りました」


 バイロンは神妙な面持ちで頷くと、少し思案するように俯いて言葉を続ける。


「私は……自分の立場を取り巻く情勢を考えれば、弟の……ダリルの足を引っ張るような事はしたくないのです。ですから自分の立場と比較して、ローズマリー様の誓約魔法のお話は、敬服に値するものだと感じました」


 そうして、バイロンは顔を上げる。どこか吹っ切れたような表情だった。


「ですが――翻って自分自身を見た時、自分の心の甘さや弱さも痛感しています。先程人は変わると仰いましたが……良い方向に変わる事もあれば、悪い方向に変わる事もある。だからこそ、魔法的な手段も含めて、今後の事を父と相談したいと思います」

「ええ。決断が良い方向に結果に導く事を祈っているわ。王家に生まれた身として、我が身の行いが臣民の模範となるならば、それは嬉しい事だから」


 と、ローズマリーは静かに応じるのであった。

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