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番外1091 伯爵領の近況は

「おはようございます」

「ええ、おはよう」


 一緒に艦橋に移動し、みんなもハロルド達と挨拶をし合う。


「みんなとも合流できたし、ハロルドとシンシアの仕事も一通り終わっているみたいだから、まずはこのまま予定通り父さんの所に行こうか」

「分かりました」


 到着したらまずガートナー伯爵家へ向かう予定だったからな。

 シリウス号で向かう事や、フロートポッドがある事は伝えてあるので、今回は馬車の送迎もしないという事になっている。


「二人ともかなり魔道具の扱いに慣れたみたいね。登ってくる時も」

「恐縮です。その、仕事の時にもっと効率的に使うには、と考えて色々やっていた結果と言いますか」

「結構上手くなった……ような気がします」


 先程甲板に上がってくる時の様子も外部モニターを通して見ていたのだろう。ステファニアが笑顔で言うと、ハロルドとシンシアもはにかんだように笑って応じる。


 そんな和やかなやり取りを眺めつつ、シリウス号をゆっくりとガートナー伯爵家の直轄地に向けて移動させれば、外壁の監視塔で兵士が旗を振って合図をしてくる。

 一旦外壁の外側でシリウス号を停泊させ、甲板に出て顔を合わせていく。監視塔の兵士は俺が姿を見せると敬礼で応じてくれた。


「これはテオドール公。ヘンリー様も到着を待っておられましたよ」

「ありがとうございます。船にハロルドとシンシアも乗っているので、外門の警備の方々に通達しておいて貰えると混乱もないかなと思います」

「分かりました。間違いなく伝えるようにしておきます」


 そんなやり取りを交わした後、監視塔の警備兵は他の監視塔にも問題がない事を示すために旗を大きく振って合図を送る。そうして他の監視塔からも了解、というように旗が振られて、許可が下りた所でシリウス号をゆっくりと直轄地の中心部――伯爵家に向けて移動させていくのであった。




 伯爵家の中庭にシリウス号を一時的に停泊させて、みんなで船を降りると、父さん達が姿を見せた。


「おはよう、テオ」

「おはようございます、父さん」


 と、船から降りた順に挨拶を交わしていく。貴族としてではなく家族としての再会の挨拶だ。まあ、身内以外に誰かの耳目があるわけでもないし、実際に公的な訪問ではないしな。

 お祖父さんやヴァレンティナも、父さんとは和解しているという事もあって穏やかな雰囲気で挨拶をし合っていた。


「ダリルも、おはよう」

「うん。おはよう」


 ダリルも声をかけると笑って挨拶に応じてくれる。この後の事については色々思うところもあるのだろうが、今は笑って迎えてくれているという印象だ。

 ダリルの婚約者であるネシャート嬢も、転移門を通って伯爵家を訪問中である。ダリルと一緒に挨拶を交わす。


「少しの間、船の留守も任せていいかな?」


 甲板の淵から並んで顔だけ覗かせる動物組と魔法生物組の面々である。俺が言うと、こくこくと首を縦に振ったり手やフリッパーを振ったりして応じてくる。うむ。


 とりあえず船の警備については任せておいて問題あるまい。




 一旦屋敷の中に案内してもらい、まずは歓待を受ける。広間にてみんなで歓迎できるように、サロンのように家具を配置して準備してくれていたらしい。お茶と茶菓子を頂きつつ、父さん達と歓談しながら今日と明日の予定について話をする。


 まずはみんなも関わる明日の事についてだな。俺達が何時頃向かって、伯爵家や領民も誰が参列するか、等といった話をしていく。


「母さんは――明日現地でみんなを迎えられるように、冥府で瞑想して力を高めておく、と気合を入れている様子でしたよ。それでもまだ形を以って現世で顕現できるわけではないようですが、参列した方には何か伝わりやすくなる……かも知れませんね」

「パトリシアらしい事よな」

「ふふ、確かに」


 俺の言葉にお祖父さんやヴァレンティナ、ロゼッタ、父さんやグレイスが笑う。

 冥府での事もあるので、今年の命日は何というか、あまり湿っぽい雰囲気にならないな。母さんの性格や行動もあるけれど。


 そんな調子で明日の予定についての一通りの確認と打ち合わせも済み、みんなでのんびりと歓談というところで、父さんとダリルが俺のところにやってくる。

 バイロンの話というのはすぐに察しがついたので、少し席を外して隣の部屋で話をさせて貰う事にした。ローズマリーも隣の部屋まで同行してくる。


「今日の内に話をしてしまう、という事だったな」

「そうですね。予定通りにお願いします。話がどう転ぶにしてもお互い早い方が良いのかなと思いますので」


 バイロンも……そちらの方が良いだろうと思う。俺達が訪問していると知って待ち続けるのは精神的にもきついだろう。俺も墓参りの後でとしてしまうと途中で面会の事が気になってしまうと思うし。


 面会の結果が不調に終わったとしてもそれで終わりというわけではない。何かしらの結果が出れば……それはそれで気持ちを切り替えて新たに考える、という事もできる。宙吊りになったままよりはずっといい。


「兄さんの事、よろしくね」

「ああ。分かった」


 真剣な表情で言うダリルの目を見て、俺も答える。そうして広間に戻ると、キャスリンも話が纏まった事を聞いて、俺に一礼をしてくる。


「わたくしについては、状況を見てからというところかしら?」

「そうだね。話し合いの結果を見てから、落ち着いて話ができそうなら、かな」


 バイロンがどれだけ落ち着いているか、面会が終わってどうなっているかというのがまだ分からないし。

 バイロンの現在の状況については……前とはまた、少し違ってきている。

 先代ブロデリック侯爵の手の者とシルヴァトリアの前王太子ザディアスの命を受けたジルボルト侯爵の抱える諜報部隊……エルマー達と結びついて動いた事件もあったな。


 ジルボルト侯爵やエルマー達についてはザディアスの失脚及び再起不能と共に解決したが、俺も魔人対策に動いていたから、肉親である父さんもそれに合わせるようにして目立たないようにしていた。


 魔人との戦いの事。先代ブロデリック侯爵の手の者やガートナー伯爵家内の人員の人間関係等々、確認する事も多かった。


 利用される事も危惧してバイロンには厳重な警備体制を敷いていた時期もあったが、今はまあ、そうした状況も諸々落ち着いて、蟄居の場所も前にキャスリンがいた場所に移されている。


 伯爵領直轄地内にある、別の邸宅だな。バイロンは蟄居生活なので監視もあり、行動の自由も制限されている。俺としてもその処遇には問題ないと答えている。


「出発する時は言ってくれれば馬車を用意する。道の除雪ももう終わっているだろう」

「分かりました。では――もう少ししたら向かう事にします」




 というわけで、少し腰を落ち着けてガートナー伯爵領の近況等も聞いた後でバイロンのいる別邸へと出発する事となった。


「それじゃ、行ってくる」

「はい。行ってらっしゃい」


 父さんの用意してくれた馬車に乗り込む前に言うと、みんなも見送ってくれる。俺の応援をする、というようにみんなも俺を見て頷いてくれた。うん。気合も入るな。


 先程聞いた伯爵領の近況に関しては――ダリルが後継することやネシャートとの婚約も周知されて、結構雰囲気が良いそうだ。領民と俺との和解、というのもあるのかも知れないが。


 直轄地の街並みは雪も積もっているが結構活気があるというか、割と人通りが多いな。屋敷に停泊しているシリウス号を見ようと往来に出てきた面々も多いようで。

 シリウス号を見ての反応は何というか、神妙な表情で会話を交わして目を閉じたり静かに頷いたりしていて、少し他とは違うが……父さんと俺との関係や、領民との和解であるとか、ガートナー伯爵領ではそういった話になるのだろう。


 父さんの用意してくれた馬車に乗って街並みを眺めつつ移動していけばやがてバイロンがいる邸宅の敷地が見えてくる。高い塀に警備兵、重厚な門に門番もいて、と……警備が厳重なのは見て取れるな。状況が落ち着いたとはいえ、先代ブロデリック侯爵の関係ではまだ残党もいるかも知れないし、父さんとしては処遇に対する責任がある以上、脱走されたとなっても問題だからな。


 さて……。久しぶりの顔合わせだが、バイロンはどうしているのやら。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!


コミックガルド様のサイトにて、コミカライズ版境界迷宮と異界の魔術師第13話が配信開始となっております!


詳細は活動報告にて記載しておりますので楽しんで頂けたら幸いです!

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