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番外1089 冬の造船所にて

『バイロンと話を、か。いきなり当人と顔を合わせるよりはテオについての話を振ってみて反応を見た上で決める、というのが良さそうだな』

「僕もそう思います。流石に突然の訪問では、目的に沿わないと言いますか」


 ダリルと話をした後で、戻ってきた父さんと改めてバイロンに関しての話をする。


 動揺して対応を誤ってしまうような事になっては意味がないからな。

 目的から考えれば知りたいのは今のバイロンの考えではあるし、それに過去とこれからについての話をしたいというのもある。


『バイロンの事まで気を回してもらうのは……申し訳ないな』

「いえ。経緯を考えると僕以外には対応の難しい事ではありますからね。逆に先代ブロデリック侯爵とバイロンの結び付きに関する問題は、僕からは触れられない部分ですし、会って話をして、それがどう転ぶかもまだ分かりませんから」

『そう、かも知れないな。だが、そうしてテオが思ってくれる事が嬉しい、というのは伝えておきたい』


 そんな父さんの言葉に小さく笑って頷く。


『どうなるにせよ、先代侯爵絡みの問題に関しては引き続き、私の方で責任を持って対応する。今はブロデリック侯爵家とも良好な関係を構築できているし、心配はいらない』

「分かりました」


 現ブロデリック侯爵……マルコムに関しても問題はあるまい。

 ダリルは俺について別の物を見ているように感じたと言っていたが、確かに……。バイロンに対してもそこまで強い感情や関心を向けていなかった。

 けれど……ダリルもキャスリンも、俺の知らない事情や内心を抱えていた。少し前の俺では魔人との和解なんて考えもしなかっただろう。


 俺も――景久の記憶が戻る前は目的に対する気持ちばかりが先行して余裕がなかった。だから……そうだな。状況が落ち着いたからバイロンの気持ちを確かめて落としどころを探る、という事になってはいるが……改めて向き合って話をしたい、理解できる部分は理解したいし、伝えたい所は伝えたいというのが正しいのだろう。


 けれどそれはあくまで俺の考えであって、バイロンがそれを望んでいるかは分からない。だから一方的な押し付けにならないように父さんに渡りをつけてもらおうという事になる。


 ヴァルロスやベリスティオとの約束があるからこそではあるが、だからと言ってそこをおざなりにして形だけ進んでも意味がない。


「ダリルに関しては……大丈夫そうですね。先程のやり取りを見ている印象だと」

『そうだな。ダリルは色々と悩みつつも前に進もうとしてくれている、と思う。領主としての考え方や仕事の進め方も、地に足のついたものだ。後継の育成として考えるならば大事な時期だったからバイロンとの関わりも慎重に考えていたが……だからこそ、今回の事はダリルやキャスリンにも話を通して進めるのが良いだろう』

「そうですね。家族としての問題でもありますから当人の納得は必要だと思います」


 そこで二人からまだ待ってほしいという意見が出るのならば、それはそれで尊重されるべきだろう。その事も父さんと確認し合い、そうして父さんとの通信も終わる。


「わたくしとしても情報を流した手前、責任を感じてしまうわね」


 ローズマリーが言う。ローズマリーは俺と父さんがタームウィルズで会っているという情報を流し、そこから俺に対して干渉する足がかりにしようとしたら、話を進める前にバイロンが行動に移してしまったらしいので。


「まあ……元々問題があったから表面化したわけだし。あそこから綻びが出て先代ブロデリック侯爵まで繋がったわけだけれど」

「そうだとしても、わたくしがそれに甘えて良いわけではないわね」


 ローズマリーは俺の言葉にそう答える。まあ、ローズマリーの考え方からするとそういう反応になるのも納得ではあるが。ローズマリーも同席するかどうか等は、やはり父さんからの返事待ちだろう。通信機でローズマリーの事も伝えておこう。


「お話が――上手くいくと良いですね」

『きっと……言葉を伝えるのは無駄ではないわ。たとえ一度で上手くいかなくてもね』


 グレイスが目を閉じて言うと、母さんもモニターの向こうで静かに応じる。


「ん……。俺からも腹を割って話す事で、またお互い見えてくるものもあるかも知れない」


 そう答えるとみんなも俺を見て頷いてくれた。

 ……そうだな。どうなるか分からないから、もしかしたら安定しているところに俺が余計な波風を立ててしまうのではないかという不安もあるが……。

 一度で上手くいかなくとも、か。確かに、それで変わっていくものもあるだろう。

 何はともあれ、バイロンに関しては父さんからの返答待ちだな。




 父さんとの連絡を取りつつガートナー伯爵領へ向かう準備を進める。その間に日常の仕事もしっかりとこなして日々は過ぎていった。

 みんなの体調や仕事関係も一先ずは平常運転といった感じで順調だ。


 バイロンに関しては――父さんからの返答では当人も話をしたい、と言っていたという事だった。


 ダリルは「今なら話もできそうだし、何か変わるかも知れない。話の結果がどう転んでも、僕に関しては大丈夫だって、テオドールにも伝えて欲しい」と……父さんの目を真っ直ぐに見てそう言っていたそうだ。


 キャスリンからは「今の立場やここに至る経緯を考えると、わたくしが今後も意見を言うのは控えるべきだと思います」との事だ。但し、俺に対しては気遣ってくれた事に感謝の言葉を口にしていたという。


 こうした二人の反応は……今の俺を信じてくれたからのものでもあるのだろう。


 さて。そうして母さんの命日も一日一日と近付いてきて、やがてその前日がやってくる。いつも通り母さんの家に一泊してから墓参りという事になるだろう。


 フロートポッドに乗って造船所へ向かう。今回は前回のガートナー伯爵領を訪問した時同様、リヴェイラも同行を希望している。リヴェイラは現世で修業中だからな。あちこちに向かって見聞を広めるのは悪い事ではない。それに……冥府行きの切欠になった母さんの墓所にも、思い入れがあるようだ。


 リヴェイラが向かうという事で、ユイも一緒だ。リヴェイラの護衛役に徹してくれれば仮に何か有事があっても力を振るうような事態はリヴェイラに危機が迫った時だけで済む。俺や同行する面々の対応が早ければ、そうした事態になる前に対応できるから、ユイの力を余人に見られるという事もあるまい。


 昨晩雪が降ったという事もあって、タームウィルズの街や造船所、飛行船にも雪が積もっている。建造中の船に関しては結界が張られていて、雪が積もっていない箇所もあったりするが。


「ちょっと雪かきをしてくる。艦橋や主翼に積もった雪は、船を起動させれば大丈夫だし、甲板部分だけだからすぐ終わるよ」

「わかりました」

「いってらっしゃい」


 と、アシュレイやシーラから返答を受けて見送られつつ、フロートポッドから外に出る。フロートポッドはシリウス号甲板の少し上空でそのまま待機だ。


 マジックサークルを展開。フロートポッドを固定する甲板部分の雪だけはスノーゴーレムにして除去してしまおう。


 数体の球体型ゴーレムが、ごろごろと自分の身体を転がして、甲板の雪を纏めるようにして除去していった。


 最後に甲板から飛び降りる様にして大小の雪玉セットになって造船所の一角に積み重なり……それから俺の制御から外れると同時にただの雪だるまとなった。


「おおー」


 シーラが歓声を上げ、にこにことしたマルレーンと共に拍手を送ってくれる。


「ふふ、テオドール様の魔法の使い方らしくて好きです」


 エレナもそんな風に言ってみんなも笑って頷いていた。そのまま大型フロートポッドを甲板に降ろして固定する。積みこんできた荷物や食料等はティアーズ達がシリウス号内部へと運んでくれた。


 さてさて……。それではガートナー伯爵領へと向かう事にしよう。

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