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番外1087 二つの世界の縁を

「いや、楽しませてもらった」


 画廊が気に入ったらしい御前は興奮冷めやらぬといった様子で上機嫌だ。

 海の民や水の友もそれは同じで、各々あの絵が気に入った、あの騙し絵には驚かされた等と語り合ったりしていた。


「一般開放できないのがもったいない程の内容であったな」

「公開するとなると、飾れない絵も少し増えてしまいそうではありますが」


 と、メルヴィン王と少し笑って言葉を交わす。

 一般開放となると見せられる絵の基準も変わってくるだろうし、フォレスタニア城内でというわけにもいかないから、どこかの建物を借りるなり、また新しい形を考える必要がある。絵画に対するみんなの反応であるとか、画廊を形にしたり、絵画にとって良い環境を作ったり、色々試験的な所はあったが……まあ、その辺については交流会や水の友の観光が終わった後でのんびりと相談したりして考えて行けばいいだろう。


 画廊を見終わったらそのまま城の中を案内する。水槽や模型室を見てから中庭やサロンで寛いでもらうつもりだ。


 水の友の水槽の反応は気になるところであったが、光珊瑚とイソギンチャクの生育も順調ということもあり、水の友の面々が姿を見せるとイソギンチャクと小型ゴーレムがそろってお辞儀をする。


「こんにちは……!」

「こんにちは!」


 と、その光景に笑顔を見せて挨拶を返すリジーと、ペディオ族の族長の娘、マーベットである。子ラッコと子アザラシが並んで立ち、少し背伸びをするようにして水槽を覗き込んで挨拶をしている様に、みんなも表情を綻ばせ、シャルロッテも満足げに微笑んでいるが。


「仕草や魔力の反応からすると喜んでいるようですな。水の民の皆さんを歓迎しているのか、環境に満足しているからなのかは分かりませんが」


 深みの魚人族の長老――レンフォスがイソギンチャクについてそんな風に笑って教えてくれた。


「魔力反応は確かに、穏やかな感じがありますね」


 イソギンチャクについては深みの魚人族達が鑑賞用に飼っているということもあり、レンフォスの見立ては確かなものだろう。

 ともあれ、イソギンチャクは水槽内の環境に満足してくれているようで何よりだ。


「光珊瑚の成育も順調なようだ」

「そうですね。少しずつではありますが光量も増して、根付いた範囲も広がっているようです」


 エルドレーネ女王の言葉に頷く。


「夜に廊下を通りかかるときらきら光っていて綺麗なんですよ」


 普段の様子を教えてくれたのはケンタウロスのシリルだ。水槽の置いてある付近は照明も少し抑え目にしてあるからな。


「そうやって光を放つのも成育が順調だからですね。光珊瑚の場合は環境が悪いと光りませんから、水槽の環境は珊瑚にとって良好なのだと思います」


 ロヴィーサがそんな風に太鼓判を押してくれる。

 折角なのでという事なのか、シェイドが水槽付近の光を遮断してくれて、光珊瑚の輝きを見やすいようにしてくれた。


「ああ。これは綺麗ですね」

「海の都の絵でも照明に使われている所を見ましたが……確かに光り方というか、印象は同じですな。シグリッタ殿の描写が正確というのが分かります」

「これから更に育てば絵のような姿になる、というわけですね」


 ノプリアスの言葉にオービルやムーレイが応じる。

 水の友からの水槽についての反応はそういった感じで、ルーンガルドの水棲生物に興味津々といった様子であった。


 続いて案内した模型室の反応も上々だ。模型の細かさもそうだが、ルーンガルドの建築様式、街並みを小さなサイズに再現したものだからだろう。

 アピラシアや働き蜂達が模型の城や家の中から出てきてお辞儀をすると、みんな笑顔になっていた。


「インセクタス族の妖精の街といった印象ですな」


 魔界の面々はそんなボルケオールの言葉に頷きつつも、微笑ましそうな様子でアピラシアと模型の街を眺めていた。


 模型室は机をいくつか並べてそこを陸地と見立てている。机と机の間に跨ってかかっている跳ね橋も絡繰り仕掛けで開いたりする仕様だ。前は停泊していた船の模型も海や河に見立てた通路を浮遊して港から港へ定期的に巡航したりする。以前より手が込んでいて、魔道具まで組み込まれているな。

 船についてはアルバートが魔道具を作った結果だ。職人が本気で手遊びするとこうなる、という一例だろう。




 そうして城の中を案内した後はのんびりと談笑できる時間を確保。水の友は湖底の滞在施設に宿泊。明くる日は境界劇場、幻影劇場を見たり、火精温泉や植物園を見に行ったりと……水の友にはタームウィルズとフォレスタニアの観光を楽しんでもらった。


 幻影劇場については画廊で予備知識を得たからか、現在上映されているのがドラフデニアのアンゼルフ王の話やエインフェウスの初代獣王の話、聖王と草原の王の話と聞いて水の民も大分テンションが上がっていた。


「ルーンガルドの陸の民の暮らしの中に入りこめるとは」

「しかも偉人の隣で歴史の追体験ですからね……。何と言いますか、感動します」


 オービル達はそんな風に幻影劇を評していた。確かに文化的なものを肌で感じられるというのはあるな。


「その辺も、幻影劇を作る上で意識しているところはありますね」

「実はメギアストラ陛下とセリア様の幻影劇を、という話も持ち上がっているのです」

「ほうほう……! ではルーンガルドの方々が私達の暮らしに触れる事もあるのですな」


 俺やエレナの言葉にムーレイが声を漏らす。


「セリア様が水脈都市に赴いて事件を解決した逸話もありますし、その辺も幻影劇に組み込んでみたいですね。陸と海はルーンガルドと魔界でまた全然違いますから、ルーンガルドの人達から見て、今の皆さんと同じように文化的な違いを楽しんで貰えたりするようにしたいな、と考えています」

「おお。それは嬉しい事です」


 3代前の魔王の折りの事件とはまた別件で水脈都市とセリアの逸話があるからな。幻影劇に取り込みやすい逸話だと思う。

 後は、時代背景や文化などの考証をしつつも魔王国や水脈内部を魅力的なものに描く、と。その辺は俺が力を入れる部分だから、きっちり仕上げたいものだ。

 そう伝えると、オービル達は「では資料を用意しておきますね」と笑顔になっていた。ああ、それはありがたいな。




 境界劇場ではユスティアとドミニクが舞台に立ち、イルムヒルトも歓迎の意味合いを込めて数曲だけ舞台上で演奏を披露していた。シーラの場合はドラム演奏でやや運動量が多いから今回は控えていたが……まあ、応援の面々はドラムセットを演奏できる者がいないのでゴーレム楽団に代理をして貰っている。その辺も含めて水の友のみんなには楽しんで貰えたようで。


 ともあれ、水の友との間では漣石を貰ったお礼という事で魔力楽器と交換したり、中々有意義な交流になったと思う。


 他にも植物園の花妖精達とリジーやマーベットが仲良くなっていた。火精温泉でも水の友は熱水鉱床を利用して暖を取る事もあるそうで、温泉は大分気に入ったようだ。


 そんな調子で交流会と観光に関してはどこも好評で、大分盛り上がりを見せたのであった。海の民と水の友の交流も進んだようで、今度は海の民が魔界の水脈都市を訪問する、という話も持ち上がっていた。

 ヘルフリート王子とカティアに関してもだ。


「結婚式には是非呼んで欲しいものです。魔界とルーンガルドという隔たりはありますが、今回こうして知り合い、話をする事が出来た。この縁は大事にしたいものです」


 とオービル達が言って、二人も「是非」と笑って応じていた。

 水の友はそんな調子で交流を終えて、俺達の見守る中、メギアストラ女王と共に魔界へと帰って行ったのであった。

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