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番外1081 水の友と外海の輝き

「おお――。これが外海……!」

「こんなにも街の近くにあるとは」

「海原が光っていて……美しいものですね」


 街中を少し移動し、そのまま造船所へと向かってみたが、魔界の水の友は初めて普通の海を見るという面々も多いそうだ。少し――いや、かなり感動している様子も見える。


 魔界は外海が危険な事を知っているだけに、港という概念自体が珍しく感じられるようで。セオレムの大きさや空の色、太陽等々……ルーンガルドの風景に衝撃を受けている水の友であったが、やはり海を見た時の驚きは別格のようである。


「ふむ。やはり、これはフォレスタニアに向かう前に、海の案内が必要になりそうだな」

「確かに。これほどに興味を示すものを、見ただけで終わりというのはな」


 エルドレーネ女王の言葉にメルヴィン王も笑って同意すると、水の友のテンションは大分上がっていた。外海に対する反応は色々予測していたから、その辺も含めて対応できるように予定を組んでいたりする。


 恐らくは強い興味を示すか、或いは外海という開けた場所に対する恐怖が勝るかのどちらかだろうと予想していたのだが……見ている限り、総じて前者であるようだ。まあ……危険地帯と分かっているのに外海に積極的に関わる必要もないからトラウマになる理由もない。安全だと分かっている海ならこういう反応にもなるというのは納得である。


 フォレスタニアの湖底は範囲が限られているから、いずれにしてもそうした忌避反応も出る事もないだろうと予想していた。交流会や滞在の予定もそこで、と考えていたが。


 外海が苦手という場合はフォレスタニアの湖底を遊覧しつつ歓談する予定だった。要するに湖底と普通の海と、好みの方を割り振れるように考えてあったのだ。このまま、海で泳いでくる分には何も問題もない、というわけだ。

 冬の海なので水温は大丈夫か尋ねてみるが、そのへんは環境適応の術を使えるので問題ないとの事である。


 というわけで通信機を使って湖底側と連絡を取りつつその旨を伝えると、オービル達は「細やかなお気遣いをして頂いて嬉しく思います」と笑顔でお辞儀をしてくる。


「喜んで頂けて何よりです。海の案内を行う際は、中継を繋ぎつつ、シリウス号で同行するというのを考えています」


 シリウス号自体が目印になって、泳ぎ回っても集合場所も分かりやすくなるし、自分のいる位置がわかるので迷いにくくなると、理由も含めて説明すると居並ぶ面々も同意してくれた。


「造船所に改造ティアーズ達を待機させているので皆さんに同行させましょう。中継もできますし護衛にもなります。離れ過ぎた場合に、知らせることもできますから」


 ティールもフリッパーをパタパタとさせながら声を上げる。翻訳の魔道具によると「自分も護衛する!」と張り切っている様子だ。


「うむ。それは安心だな」

「おお。心強い事です」


 と、メギアストラ女王やオービルも笑顔を見せた。

 というわけで他の船の航行の邪魔にならないあたりまでみんなでシリウス号に乗り込んで移動する。

 水の友の面々は甲板から食い入るように海原や港、船といった魔界では見られないものを見やっていたが「この辺なら大丈夫かと思われます」と、高度を落として船底を着水させながら伝える。


「では早速ですが行ってまいります」


 クラバリオ族のノプリアスが笑顔を見せながら言った。


「はい。僕も確認と連絡を終えたら海に向かいますね」

「この辺では少し泳いだ事があります。多少の案内もできるかなと」


 と、ロヴィーサが言って。海の民と水の友は楽しそうに甲板から海に向かって飛び込んで行った。改造ティアーズ達も中継と護衛を行うために海に向かって突入していく。


「ふふ、皆さん楽しそうですね」

「やはり海に案内したのは正解であったな」


 グレイスが言うと、メギアストラ女王も笑って同意する。メルヴィン王やジョサイア王子も交流会の様子に表情を綻ばせていた。


 というわけで各所に連絡を取りつつ、メルヴィン王やメギアストラ女王達を艦橋に案内し、更に中継がきちんとできている事を確認したところで、俺も海中へと向かう事にした。


「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」

「行ってらっしゃい、テオドール君」

「ん。中継映像で見てる」


 と、イルムヒルトが笑顔で手を振り、シーラもそんな風に言って揃って手を振ってくる。


「うん。何かあったらカドケウスに」


 艦橋にカドケウスを残しておけばシリウス号側との意志疎通に問題はあるまい。

 甲板に出て、水魔法の泡を纏って海の中に飛び込む。


 冬なので海水は冷たいはずだが――既に海の民と水の友は楽しそうに泳ぎ回りつつ、魚や海底の様子を見て楽しんでいる様子である。やはり外海という事で開放感があるからだろうか。


「沢山の魚がおりますね」

「種類も豊富ですな。このような開けた場所にこれほど沢山の生き物がいるとは」

「私はあの……船というのが気になります」


 水の中の様子も、魔界の水脈とルーンガルドの海とではまた全然違うからか、見るもの全てが新鮮に見えるようで……ティールや改造ティアーズ、グランティオスの武官達と共にオービル達が心地良さそうに高速遊泳しているが。


「色とりどりの貝が……これは綺麗ですね」

「ふうむ。やはり明るいから色も重要なのでしょうか」


 ノプリアスやムーレイは海底まで行ってネレイド族や深みの魚人族と談笑しながら貝殻を拾ったりしているようだ。


「――帆……つまり上部に見える柱に張った布で風を受けて進む、というわけです。テオドール公が手掛けた船は水流操作で推進する機構ですね」

「ほうほう。興味深い構造ですな」


 海面付近で航行する船舶を眺めているのはペディオ族の面々だ。ロヴィーサ達から船の解説を受けてうんうんと相槌を打っている。

 それぞれ興味は違うようだが、各々楽しんでくれているようで何よりだな。




 そうやってタームウィルズの近海を存分に堪能してもらい、それからみんなで街中の様子も見ながらフォレスタニアへと向かった。

 陸上の街の様子も、魔王国とは全く違うからな。


「タームウィルズは迷宮もありますし、多種族を受け入れる風土もありますから、ルーンガルドでは一番色々な種族が集まる都市だと思います。騎士や兵士以外で武器を所持しているのは、迷宮探索に向かう冒険者の方々ですね」

「おお……。ルーンガルド側の迷宮は歴史が古いと聞いていますからな」


 と、そんな調子で馬車の中からあちこち見まわして、同乗しているロヴィーサやエッケルス、カティアといった面々に質問をしたり言葉を交わして進んで行く。


 やがて車列は神殿前に止まる。そこからは――また少し歩きだ。月神殿に出迎えに出てきてくれたペネロープや巫女、神官達と挨拶を交わしつつ見送ってもらい、螺旋階段を下へと降りて行き、迷宮入口の石碑に到着する。


「ここからフォレスタニアに飛ぶ事ができます」

「この辺りの仕組みは魔界側に広がっている迷宮と同じ、というわけだ」


 メギアストラ女王が補足説明をしてくれる。その言葉を受けて、石碑に触れつつ近くに集まってもらう。同行者全員を同時移動の対象として意識を向けつつ、フォレスタニアへと飛んだ。


 光が収まると、そこはフォレスタニアの入口である、塔の上だ。


「これはまた――美しい湖ですな」

「水が透き通っていて綺麗ですね」

「うむ。ここの水は妾から見ても清浄で良いものだったぞ」


 水の友の言葉に、うんうんと頷く御前である。

 では、少し街中や城を案内しつつ湖へ向かうとしよう。一緒に出迎えに来てくれた海の民の他にも、湖底で準備して待ってくれている面々がいるからな。

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