番外1080 水の友来訪
時間を見計らって連絡通路を通って境界門の間へと移動する。中継用の改造ティアーズを連れていき、出迎えの様子も見られるようにしておく。今日は水の友から多くの種族が同行してくるという事もあって、アルクス指揮下のティアーズ達も境界門の間に警備として配置されている。
アルクス本体は警備上の観点から有事以外は姿を見せないが、駆けつけられる場所で待機しているわけだ。
そうして境界門の間でカドケウスやティアーズ達に魔力補給しながら待っていると、門を通ってメギアストラ女王が姿を見せた。
「これは、メギアストラ陛下」
「おお。出迎えにきてくれたのだな」
「案内があると初めて来た方達も安心かなと。人が多いとどうしても警備を配置しなければいけませんからね」
「確かにな」
身体ごと傾けるようにしてぺこりとお辞儀をするティアーズ達を見て、メギアストラ女王が笑みを見せる。
メギアストラ女王とその同行者については連絡通路を移動する許可が出ている。タームウィルズ側の迷宮側にもメギアストラ女王はゲストとしての登録をしてあるからな。
魔界迷宮側でも、境界門に続く道という事で連絡通路に相当する区画が造られている。魔王城下層から専用の転移門を通り、魔王やジオグランタの許可が出ていれば連絡通路の隔壁が開く、という仕様だ。
そうして騎士団長のロギも姿を見せて、ロギが境界門に向かって頷けば、次々と魔王国の水の友が境界門を通って現れる。
ケイブオッターのオービルとシュリンプル族のムーレイはクシュガナで顔を合わせたな。
ペディオ族と言われる種族は――アザラシやアシカに似た面々だ。魔界の水の友は海棲哺乳類風の魔物種族が結構いるようだな。
クラバリオ族は――蟹の魔物種族だ。但しシュリンプル族のように海老が人型になった種族ではなく、甲羅から人の上半身が生えているというような姿をした種族である。蟹の特徴である大きな鋏腕もしっかりと備えているな。
俺の知識の中から近い種族を探すなら……アルケニーに共通しているところがあるか。パピルサグという蠍と人が融合したような魔物もいるので、それらの種族の海洋版と考えれば良いだろう。
今回やってきたクラバリオ族の代表はアルケニーのように女性の半身が生えているが、男性もしっかり存在しているそうである。
ただ、男性のクラバリオは女性に比べると体格が小さいそうで。種族内では庇護の対象になっているらしく、あまり表には出てこないという話だ。
他にも水の友に含まれる種族はいるらしいが……陸上での活動を苦手としていて、不参加という面々や、文明を持っていないものの共生関係にある種族もいるそうな。
そうした種族の代表格としては喋るクラゲという話だが……それは確かに陸上での活動は難しそうだな。実際、一生を水路から出ないのが普通、という話も納得だ。
クシュガナで見たヤドカリあたりは共生関係にある魔物の代表格だろうか。何にせよ魔王国における「水の友」は、結構種族の幅が広い印象がある。
「ようこそルーンガルドへ。歓迎します」
「これはテオドール公」
挨拶をすると顔見知りという事でオービルが水の友を代表し、一礼して応じてくれる。今回やってきたのは各々の種族の代表や、次期の族長としてみなされている人物やその婚約者、重鎮達といった面々らしい。ムーレイに関しては俺達が訪れた時はクシュガナの門番を務めていたが、シュリンプル族が戦士の一族である事や王都に近い場所のクシュガナの警備を担当している事から、やはり次の族長として扱われているという話だ。
名簿で名前は知っているが、改めて自己紹介を交わしていく。
「何と言いますか……迷宮というのは不思議な場所ですね」
と自己紹介が終わったところで周囲を見回し、お辞儀をしてくるティアーズに一礼を返しながらクラバリオ族のノプリアスが言う。
「警備が厚いと聞いていたのでもっと物々しい場所を想像していたのですが、美しい場所ですな」
ムーレイが咲き誇るフェアリーライトに目を向けて感動したような声で言うと、水の友らは皆で頷いていた。
「境界門の間は、歓迎のために調整された区画でもありますから」
そう言うと、水の友の面々は感心したように頷いたり「おお……」と声を上げたりしていた。
「では、案内します。連絡通路は一本道で、はぐれる心配はありません」
「うむ。事前に知らせた通り、皆陸上の活動や移動手段に関しては問題ないそうだ」
メギアストラ女王が答えてくれる。全員がついてきている事を確認しつつ、連絡通路へと進んで行く。
ノプリアスの半身は蟹だが、関節の可動域は結構広く、前に歩くのも問題はないらしい。ケイブオッターやペディオ族といった面々は浮遊する泡を造り出して、その上に乗って移動している。
フォレスタニアに中継されているというのもあって、ケイブオッター族やペディオ族が泡に乗って移動している姿を見て、シャルロッテが『これは……』と声を漏らし、テンションを上げている様子であるが。
ともあれ各々、陸上での移動手段は違うが、置いて行かれるということはなさそうだな。
警備のティアーズ達も通路の端に詰めており、俺達の移動を見守りつつお辞儀をして魔王国の面々を迎えていた。
そうして移動していくと、やがて連絡通路の突き当たり――転移門が見えてくる。
「あの門から外に出る事ができますが――その前に光対策の魔道具をお持ち下さい」
待機していたティアーズ達が魔道具を配ってくれる。水の友の面々は各々ティアーズから首飾り型の魔道具を受け取るとそれを発動させる。
「ルーンガルドは魔界に比べるとかなり明るい、という話でしたな」
「そうですね。魔道具があれば一先ずは安心かなと」
そうして全員が揃っている事と魔道具がきちんと発動している事を確認してから転移門を通って転移港へと移動したのであった。
光が収まると転移港に出る。そこにはみんなと共に海の民の面々が揃って待っていた。
「おお。これはまた錚々たる顔触れよな」
メギアストラ女王の言葉にメルヴィン王やエルドレーネ女王が頷き、笑みを向けあう。それから水の友に向かい、メルヴィン王が言った。
「よくぞ参られた。余はメルヴィン=ヴェルドガル。王国を代表し来訪を歓迎する」
「同じく。グランティオス王国を預かるエルドレーネという。魔王国の友に会えて嬉しく思う」
そう言ってメルヴィン王やエルドレーネ女王の言葉に続いて各部族の面々が挨拶し、それぞれ自己紹介し合う。
「温かな歓迎、痛み入ります」
オービルがそう答えてメギアストラ女王も満足そうに頷く。お互いの自己紹介も一段落し、それからフォレスタニアに向かって移動する事になった。今日はセオレムの方で馬車を用意してくれており、それに乗って通りを移動して迷宮入口経由でフォレスタニアへ向かうというわけだ。
ただ――水の民達の希望で外の海も見てみたいとの事なので、直接向かうのではなく、北区から西区まで移動し、造船所から海を見てから、という事になるが。
馬車の窓から顔を覗かせて沿道の人達に手を振ったりお辞儀をしたり。タームウィルズの住民や冒険者達も異国からの訪問は慣れているというのもあって、楽しそうな表情でお辞儀をしたり声を上げるなどして、歓迎の意を示していた。
魔王国の水の民来訪とフォレスタニアでの交流会についても知らされているのだ。ヴェルドガルとグランティオス、ネレイドや深みの魚人族といった面々との友好関係を示す事にも繋がるからな。