番外1078 交流会に向けて
魔界からやってくる水の友についてはクシュガナで見た種族だけでなく、まだ会った事のない種族もいるようだ。まあ、いずれにしても水棲種族が主という事でフォレスタニアの城と湖で交流会という事になる。
日程も人員も決まったという事で、城のみんなにはそのあたりの事を周知しておく必要がある。
そんなわけでウィズの記憶した名簿の内容を書面として紙に書き写し、フォレスタニア城の各部署の面々に船着き場に集まってもらって、打ち合わせをする時間を作った。
「というわけで――交流会には湖底の施設も使うけれど、陸上の料理は海の民にも好まれるからね。当日は船着き場の水門を開いて、城にも招いて歓待をするのがいいのかなって思っている」
「なるほど。では、我らはそれに合わせた警備体制を考えれば良いのですな」
と、ゲオルグが顎に手をやって思案する。
「魔界の地下に流れている水脈は海水とお聞きしましたが……淡水も大丈夫――のようですね」
セシリアが名簿の内容に目を通しつつ言う。
「そうだね。水温や水質、淡水か海水かは、どの種族も極端なものじゃなければ問題ないらしいよ。海の民もそうだし、そこにいるティール達――マギアペンギンもそうだね。場合によっては環境適応のために術を併用する場合もあるようだけれど」
この辺は魔物だからか、適応の範囲が広いようで。船着き場の水面から顔を出しているマギアペンギン達が俺の言葉にこくこくと頷いたりしている。
地下の水脈内部には熱水が噴き出している所もあるそうで継続的な水質適応の防御術についても水の友の間では発展していると、メギアストラ女王から貰った資料の中にはそんな補足説明も書かれていた。
「地下水脈は規模が大きいとはいえ、やはり閉鎖環境だからかしらね。水質浄化周りの術式はかなり洗練されて発展していた印象があるわ」
クラウディアが言う。同じく閉鎖環境である迷宮を管理していたクラウディアだから、その辺りの事は気になるのだろう。そもそも月の民がまさにそういう閉鎖環境で暮らしてきたわけだしな。
「魔界の水は魔力が豊富で少し事情が違うけど、その辺の技術周りでお互い学べるところは多そうだね」
「そうね。意識しておきましょう」
と、クラウディアは真剣な表情で目を閉じて首肯する。オーレリア女王に話を通しておく、というのもありだな。
「それから食事だけど――当日はやっぱり魚介類を多めにするのが一番喜んで貰えそうだ。食材に関しては献立を決めてから迷宮からの調達と市場からの買い付けで準備を進めよう」
「ん。楽しみ」
俺の言葉にシーラが耳と尻尾を反応させて……割とテンションを上げていたりするが。
魔界側の迷宮核が魔界の種族に関する情報を集積しているので、どんなものが食材として適していてどんなものが駄目なのか、事前にリサーチが可能だ。これに関しては海の幸……それに魔光水脈の魔物食材あたりは大体大丈夫なようだし、米も問題ない。一通りの調味料もだ。
魔界から来訪してくる面々、ルーンガルド各地から集まる面々で、献立を決めれば調達すれば良い食材の量も大体決まってくるな。
「魔光水脈で狩りをするなら、私も手伝えるかな」
と、ユイがにっこり笑うと、ヴィンクルも頷く。
「食材集めだから手加減の練習にも良さそうだね」
「きちんと素材を回収できるようにしないといけませんからね。力が強い種族の課題でもありますが、ユイさんは――私とはそもそもの戦い方が違うから大丈夫そうですね」
俺の言葉に、グレイスが応じる。
『グレイスは……そのへんの手加減、最初は結構苦労したものね』
モニターの向こうで母さんが言う。
狩猟や採集については――幼い頃に母さんから色々教えてもらったりもしているグレイスである。その事もあって、タームウィルズに一緒に来た時にはきっちり素材を取れるような戦い方ができていたな。
「そうですね。武器に斧を選んだのは頑丈というのもありますが、無駄なく一撃で仕留めるためでもあります。加減というのとは少し違う気がしますが、自分なりに狩猟や採取、伐採も視野に入れていたから、ですね」
苦笑するグレイスに、真剣な表情で聞き入るユイとヴィンクルである。
ヴィンクルも手を握ったり開いたり、爪の様子を確かめている様子だ。色々と思うところがあるのだろう。
ラストガーディアンとして戦うならば、侵入者をきっちり止めるという事が第一義になるので手加減とは真逆の方向性の戦闘になる公算が高い。ヴィンクルやユイは問答無用で相手を倒してしまえる力を秘めているが……狙って戦闘能力を奪うというのは戦況をコントロールできる技量の証明でもある。
単純な力押しでは倒せない場合に、弱点を狙う必要が出るといったケースでも応用が利くので、大きな力を持っているから、任務の性質とは違うからと考えずに普段の訓練から大事にしていきたいところだ。
交流会の準備から少し話は横道に逸れてしまったが、食材の調達に関してはユイやヴィンクルだけでなく、カルセドネとシトリアもやる気を見せてくれているので、こちらに関しても問題ないだろう。戦力の層が厚いというか何というか。
「ヘルフリート殿下とカティア様がいらっしゃいました」
と、そこにクレアに案内されてヘルフリート王子とカティア、パラソルオクトのソロンがやってくる。交流会においては陸と海を繋ぐ面々として重要な位置にいる二人だからな。
ヘルフリート王子にはネレイド族の秘密を守る縛りもあるが、それでも今の内ならば、相手が魔界の面々という事もあり、情報漏洩のリスクも少なかろうという判断で参加を希望してきた。
「こんにちは」
「お元気そうで何よりです」
「皆様お揃いで」
と、挨拶してくるヘルフリート王子とカティア、ソロンに俺達も一礼して迎える。船着き場に用意したテーブルについてもらい、先程までしていた話をヘルフリート王子達にも伝える。
「なるほど……。僕達から何か、できること、手伝える事はあるかな?」
「お二人の場合なら――出席していただけるだけでも大きな意義がありますね。多種族の融和は魔王国の国是でもありますし、サンダリオ卿のお話も秘密を伏せれば限られた魔界の方々に伝える分には問題無さそうですし」
その上で何かをというのなら、交流会の折りにヘルフリート王子からも歓迎の挨拶をして貰えるとみんな喜んでくれるのではないだろうか。
その辺の事を伝えてみると、ヘルフリート王子は真剣な表情で頷く。
「それじゃあ来訪してきた面々に来て良かったって思ってもらえるように……挨拶を考えてみようかな」
「ありがとうございます」
「内容が決まったら改めて確認してもらって良いかな。僕自身が考えた言葉じゃないと意味がない気がするし、どの辺まで踏み込んでいいのか、匙加減も必要だと思うから」
それは勿論だ。ヘルフリート王子はこういうところ真面目で好感が持てる性格なように思う。
そうしてモニター越しにエルドレーネ女王やネレイド族、深みの魚人族も交えて交流会当日の予定を話し合ったりと、段取りを組んでいく。城でも歓待を行うので模型部屋や水槽、画廊等の準備もきちんと進めて行かなければなるまい。
画廊に関しては工房のみんなも力を貸してくれて、ミリアムやカーラ、コマチもかなり乗り気でアイデアを出してくれた。というより、ミリアムとカーラに関しては絵画に関しても芸術分野だからか結構造詣が深い。照明の置き方や絵の取り扱い方等々、様々な知識を持っていて、全面的に協力してくれるので頼もしい。色々と工夫も凝らしているので、来訪した面々が楽しんでくれたら、というところだ。