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番外1077 芸術奨励のために

 シグリッタの絵には各地での思い出――月面で俺が怪我をした時に、母さんが現れてアシュレイと共に傷を治してくれた時のものもあったし、エレナとガブリエラが手を取り合う絵もあった。

 ドラフデニアの悪霊やベルムレクスに囚われていた魂達……それにフォルガロ公国でテンペスタス達魔法生物の魂が昇天していく様子も描かれていて。


 優しい光やいくつもの光が飛んでいく光景。なるべく記憶のままに描いたとの事で、シグリッタの視点から見た風景なので、俺も見てきたものなのに新鮮な感覚がある。

 荘厳さや神聖さというよりは温かみのある印象で……こういう切り口なのはシグリッタの性格や感じ方も絵に現れているように思う。


「シグリッタさんの絵は優しい感じがしますね」

「確かに……。パルテニアラ様の絵も素敵ですね」


 グレイスが柔らかい笑みを浮かべ、エレナも掲げられる絵を見て目を細める。


「しかしまあ、随分と描いたね。一枚一枚丁寧に描かれてて凄いな」


 アルバートはオフィーリアと一緒に結婚式の時の絵を見て喜んでいたが、感心したように言った。


「描きたいもの……。まだまだ、沢山ある」


 創作意欲が湧いてくる状態というわけだ。記憶力と元々の絵画魔法で培った画力に加えてハルバロニス外の絵画技法やトリックアート等の知識も増えたとあっては、描くことそのものが面白くて仕方がないという状態になるのも分かる気がする。


「このまま画廊が開けそうですわね」

「城の一角を画廊にしてみるなんて良いかも」


 オフィーリアが言うと、イルムヒルトが応じる。


「楽しそう……!」


 イルムヒルトの言葉にセラフィナが明るい笑顔で反応して、カルセドネやシトリアもこくこくと頷く。


「確かに良いかもね。刺激になる面々も多そうだし」


 隠れ里の住民達も外の文化、学問、芸術にと色々興味を示しているし……ユイやマクスウェル、アルクスやヴィアムスといった、生まれて日の浅い面々もそうだろう。俺も……領主としてはそうした芸術面での活動は奨励してやりたいところだ。


「でも……もしかすると外には出せない情報が絵に含まれてる、かも知れない……。気を付けてる、けど」

「その場合は城のみんなにはともかく、一般公開とはいかないかも知れないけどね。その辺は個別に見て行けばわかるし、城内だけでなら気に入ったものを自由に飾れると思う」


 ともあれ城内で個展というか画廊というか、そうした区画を用意してみるのも良いだろう。奨励は勿論、運営のノウハウ蓄積にも繋がるし、フォレスタニアに客を招いた時に楽しんで貰えると思う。

 その反応如何によっては展示の規模や種類が広がる、という事も有り得る。


 シグリッタの絵は良いものだと思うが、俺達の場合、身内で思い入れのある人物や記憶が描かれているから、評価が好意的になりがちというのはあるだろう。だからこそ周りの反応も見ておきたいというのはあるしな。


 直近では海の民と水の友……ルーンガルドと魔界の水棲種族交流会があるし、その時までに間に合わせる形で準備を進めていきたい。招待した面々を城の中に案内した時に、水槽や模型部屋と合わせて楽しんでもらえるだろう。


「シグリッタは騙し絵も描けるわけだし、床や壁、扉に絵を仕込んだりするのも良いね。顔料をそのまま維持して動かせるようにゴーレム制御系の術式と合わせれば、画廊の区画を変える時にも普通の絵のように移す事もできるし」

「その技術自体で……何か面白そうな事ができそうね」


 俺の出した案にステファニアがそう言うとシグリッタも乗り気なのか、真剣な表情で考えを巡らせているようだった。

 幻影劇ではないが、描かれた絵そのものに干渉ができるとなると……確かに何か新しいものが作れるかも知れないな。アイデア周りでシグリッタと相談して術式を組んでみるとしよう。

 ミリアムやカーラもそういった美術、芸術関連では相談できそうな相手だし、技術的なところではコマチもいるから色々できそうだな。




 そうして日々は過ぎていく。日常の仕事に加えて、新たに魔界迷宮の探索者に関する様子見や交流会における歓迎の準備等も進め――やがてめっきり肌寒くなり、季節は冬となった。

 寒くなって冬の気配も本格的なものになってきているのに、少し前とは違って俺も落ち着いた気分でいられる。

 母さんの命日も近付いているが、当人は『ハロルド君とシンシアちゃんが大切に墓所を手入れしてくれているのが伝わってくるわ』と微笑んでいたりするからだろう。


 墓所については冥精としての母さんの領地でもあるから、その手入れをしてくれる二人の気持ちは伝わってくるそうだ。当日は現世での顕現が間に合う、間に合わないに関わらず、様子を見に行ってハロルド達の顔を見てくる、と楽しそうだった。

 俺達も母さんと話ができるようになったが、命日当日の墓参りについては予定の変更もない。その方が母さんも早く力が蓄積できるだろうしな。


 子供達については――誕生日が冬の終わりから春ぐらいにかけてになる予定だ。母さんの墓参りより少し後になるが……経過も順調で母子共に健康とロゼッタやルシールに太鼓判を押してもらっている。


『お婆ちゃんよって子供達には挨拶をする事になるのね。少し早く感じてしまうけれど、楽しみだわ』


 と、母さんはにこにこ笑っている。


「ふうむ。そうなれば儂は曾祖父という事になるか」

「パトリシアの見た目の年齢からすると、確かに……お婆ちゃんと名乗るのは早い気がするわね」

『ふふ。私の姿は享年で止まっているけれど、それを差し引いても、というところはあるかも知れないわね』


 そんなやり取りを通信室で交わして楽しそうに笑い合う母さんとお祖父さん、ヴァレンティナである。母さんとヴァレンティナは少し歳の離れた姉妹のように育ったらしいからな。二人の場合、俺達と話をする時とはまた違った親密さがあるように感じる。


 そんな調子で今日の仕事を終えて通信室でのんびりとしていると、魔界から連絡が入った。メギアストラ女王が水晶板モニターに顔を覗かせ、通信室に俺達がいることを認めると相好を崩す。


『おお、テオドール公。通信室にいたか』

「これはメギアストラ陛下」


 と、メギアストラ女王にこちらも笑みを返す。


『うむ。水の友から連絡があってな。交流会に参加する人員も決定したので、そちらに名簿を送っておこうと思ったのだ。直接受け渡さずとも問題はないかな?』

「そうですね。ウィズに記憶してもらい、こっちで改めて名簿を作ってしまおうかと思います」


 交流会については先日、日程が先に纏まり、参加する人員を取り纏めた名簿を送ってもらう、という事になっていた。魔界の各地までは中継を広げていないので伝達速度が些か遅れてしまうが、地下水路があるから水の友同士で話し合ってルーンガルドに向かう面々を決めるにしてもそこまで時間はかからない。


 ルーンガルド側の海の民――グランティオスの各部族やネレイド族、深みの魚人族については、既に来訪者も決定して俺達同様、魔界から来た面々を出迎える準備を進めているとの事だ。


『では――モニター越しにではあるが』


 そう言って、メギアストラ女王は魔王国からの交流会参加者の名簿を見せてくれた。

 水の友ではないが、メギアストラ女王を始めとした魔王国の知り合い達も参加予定だ。参加者の名前と役職、種族名が明記されていて通し番号も振ってあるので分かりやすい。ケイブオッター族からもオービル以下数名が参加するということで、シャルロッテが頷いていたりするが。


「ありがとうございます。では、この名簿に書かれた人数に沿ってこっちでも交流の準備を進めていこうと思います」

『うむ。オービル達水の友からは楽しみにしていると、伝言を預かっている。余もそうだな』


 と、メギアストラ女王は表情を綻ばせるのであった。

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