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番外1076 絵画鑑賞会

「どう、ぞ……」


 と、いつものテンションでシグリッタが部屋に案内してくれる。

 城の私室には比較的新しい絵が置いてあるとの事で、扉を開けてみんなが中を覗き込むと、内部は結構綺麗に整頓されていた。空気を浄化する魔道具も起動しているようで内部の空気も爽やかだ。


 というより空気が浄化されているのも相まって、リビングは寧ろ生活感がないな。絵を描く事に特化した部屋、というか。クローゼットはあるので衣類や私物はそこに収められているとして……家具や調度品は端に寄せられるかそもそも置かれていない。

 中央にイーゼルとキャンバスがあり、机の上には絵筆やパレット……各種画材が整頓されて置かれている。シグリッタにとっては自室というよりアトリエのような場所だろうか。とはいえ、リビング以外の部屋――寝室等は普通の使い方をしているらしいが。


「お話とか読書とか……そういうのはみんなの部屋に遊びに行ったり、サロンに行けばできる……。だから絵を描くための部屋に……しておけるの」


 シグリッタのその言葉にシオンとマルセスカ、カルセドネとシトリアが揃って笑みを見せて頷く。

 シグリッタも絵を描いてばかりではなくて、お互いの部屋に遊びに行ったりもしているわけだな。シグリッタ自身の部屋にも人を迎えられるように、ソファは置いてある。シオン達を迎えて絵を描いているところを見せたりもするのだろう。

 ともあれ絵画一辺倒ではなく、中々充実した日々を送っているのではないだろうか。


 入口側からリビングまでの短い通路からはキャンバスとイーゼルの裏側が見えていて、絵の内容が見られない位置関係にあったが――室内にみんなが入りやすく、見えやすいようにシグリッタがこちらに向け直してくれる。


「ああ、これは――」

「背中を預け合っている瞬間、ですね」

「ん。良い絵」


 アシュレイが微笑み、シーラがうんうんと頷く。

 冥府での――マスティエルとの戦いの場面か。

 多分、中継映像のものだろう。俺の後ろ姿と、背中を預けるようにヴァルロスとベリスティオが描かれていて。

 ヴァルロスとベリスティオからは余剰魔力が火花のように散っている。まだ描きかけのようで完全には仕上がっていないようだが、どういう絵かは分かる。

 それぞれの余剰魔力放射による照り返しまで表現されていて、迫力もあるしシグリッタの絵画における技巧も確かなものだと感じられるが――印象深いのは各々の表情だ。


 戦いの最中だと分かるのに、何となく穏やかな印象を受ける。肩越しに俺の方を見やって笑うヴァルロスと、目を閉じて口元に笑みを浮かべているベリスティオ。連係して各々の攻撃対象を入れ替える寸前のもの、だと思われるが。


「あの時こんな表情をしてたのか」

「表情は……そのままを再現した、つもり」


 俺の言葉にシグリッタがそう答えて、シオン達も同意する。

 シグリッタ達の見ていた中継映像ではこう見える場面があった、という事なのだろう。

 場面場面を切り取った俺の絵となると些か気恥ずかしいものもあるが……まあ、この絵に関しては後ろ姿だからな。


「それで……こっちには今まで描いた絵で新しいのと……自分で気に入った絵とか、みんなが気に入った絵を、置いてある」


 部屋の隅に立てかけられている絵を差してシグリッタが言う。結構枚数があるな。


「折角だし、色々見せてもらおうかな。でも、みんなで部屋の中だと少し手狭だね」

「保管部屋にはもっとありますから、サロンに運んで鑑賞会、というのはどうでしょう?」


 シオンがそんな風に提案してくれた。


「そっちの方が腰を落ち着けてのんびり鑑賞できるし、良いかも知れないね」


 枚数がかなり多いしな。

 改造ティアーズ達も運搬を頑張るというように、マニピュレーターで力瘤を作るような仕草を見せてアピールしてくれている。改造ティアーズ達は物品を傷付けないよう運搬するのも心得ているから、作業の一部は任せて大丈夫だろう。


 運搬中に絵を傷付けないように、イーゼルが連なったようなカートを木魔法と土魔法で形成してやる。メダルゴーレムを組み込んでやれば即席の絵画運搬ゴーレムの出来上がりだ。これに絵を乗せてやればサロンまで運んでくれるだろう。




 そうしてみんなでサロンに移動し、セシリア達にも準備を手伝ってもらい、通信室との中継もしてから鑑賞会となった。

 シグリッタの描いた絵を色々と見ていく。先程のような人物画だけでなく、あちこちの様子を描いた風景画もあるな。

 色とりどりの珊瑚や魚が泳ぐ海。月面から見たルーンガルド。魔界の稲光が奔る空と荒野……。各地の風景をそのまま切り取ってきたような写実的な描写と、幻想的な雰囲気を感じる色使い。


「ああ。これはグランティオスの近郊でしょうか。綺麗ですね」

「この辺の色の使い方は……研究の成果。記憶の色とはちょっと、違う」


 アシュレイの言葉に、シグリッタが答える。なるほどな。風景にその時その時のシグリッタの気持ちを込めたものとも言えるのかも知れない。


 他にもティールが水に飛び込んだ瞬間を捉えたものであるとか、ラヴィーネとアルファ、ベリウスが日向に寝転がっている場面であるとか……動物組の姿を捉えた絵が描かれているものもある。

 こっちは――ティアーズ達やシーカー達に魔力補給をしている工房の作業風景か。


「日常風景を切り取った感じで、ほのぼのとしているわね」


 と、イルムヒルトがキャンバスに描かれたそれらの絵を見て微笑むと、マルレーンもこくこくと頷く。


「……これは何時のものだったでしょうか」


 フォルセトが首を傾げて見ているのは、自分の肖像画だ。黒い背景に柔らかい光のスポットライトが当たるようにして、フォルセトが穏やかな笑みを浮かべている。礼装で錫杖も持っているが、フォルセトにはあまり心当たりがなさそうだ。


「それは――似顔絵のコツを習ったから……想像で描いた。サンダリオの肖像画も……描き方の参考にしてる」


 との答えがシグリッタから返ってくる。


「ああ、道理で」


 得心がいったと言うようにフォルセトが言う。礼服は式典等でフォルセトが纏った時のもので、錫杖はフォルセトが戦う時に使っているものだったから、こうした格好をした記憶がなかったという事らしい。


「フォルセト様の……好きな表情なんだって」


 マルセスカがにこにことしながら伝えると、フォルセトは少し驚いたような表情をした後に嬉しそうに微笑んだ。差し込んでいる温かな印象の光も……シグリッタからフォルセトに対する感情が込められたものかも知れないな。


「みんなの肖像画も、ある」


 そう言って並べられる肖像画。みんな礼装で髪を結いつつ、武器の柄に手をかけて立っていたりと、シグリッタが格好いいと思った服装と装備だったりするらしい。


 俺の肖像画もあるが……礼装ではなくてキマイラコートとウィズだな。肩にバロールを乗せてウロボロスもにやりと笑っていたり、ネメアとカペラもキマイラコートから顔を出し、足元にカドケウスも寄り添っているという。魔法生物が沢山いて、肖像画にしては賑やかだな。一緒に描かれている面々は嬉しそうにコートから顔を出したり喉を鳴らしたりしているが。


「この絵は何かしら? コルリス……?」


 ステファニアが尋ねる。


「それはテオドールに教えてもらった絵で……ちょっと見方がある」


 そう言ってシグリッタはイーゼルから降ろして、「こっちから……見てみて」と言いつつ床に絵を置く。


「なるほど……。視点によってコルリスが立体的に見えるというわけね」

「面白いものね」


 ローズマリーが感心したように言って、クラウディアも表情を綻ばせていた。地面の穴から顔を出したコルリスが、片手を挙げて挨拶をしている姿が描かれているが、その見え方が大分立体的だ。要するにトリックアートだな。


「位置によって立体的に見える工夫が凝らされているっていうものだね。地面に穴はこの手の定番だと思うけど、コルリスを配置してくるのは面白いな」


 そんな調子で、シグリッタの描いた絵を色々と見せてもらって盛り上がるのであった。

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