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番外1074 良き日々をと

「――なるほどな。情報提供や協力に関しては問題ない」

「ああ。私も同じく。元はと言えば私が起こした事態でもある」


 魔人達の今後について相談すると、ヴァルロスとベリスティオからは色良い返事が貰えた。


「とはいえ……魔人達の動向に関しては最早知識の上でしか追えないし、神格があるとはいえ現世への影響力はあまりないから、直接的には大した事もできないとは思うが」

「まあ……俺達は既に死者だしな。表舞台に影響を与えすぎるのも健全とは言えまい」


 今の魔人達の動向についてはヴァルロスとベリスティオは勿論、リネット達も把握していないらしい。ヴァルロスとベリスティオに関してはフォレスタニアの慰霊の神殿であるとか、俺が想いを向けた時が行動範囲の基点になっていたそうだし、結集していない魔人達のその後については分からない、というのが実情というわけだ。


 オズグリーヴについては例外で、ずっと昔から同じ場所で暮らしていたという点であるとか、ベリスティオが契約を交わしていた相手だったから所在を把握できたり、契約を利用して夢でメッセージを送る事ができた。

 だとしても、隠れ里の現状を変えるかどうかの判断はオズグリーヴに委ねられていたからな。


「私も……何か思い出したり、思いついたりしたら知らせるわ」

「同じく」

「そうだな。まあ、あたしはあまり他の魔人達と交流があるわけじゃなかったが」


 ルセリアージュが言うと、ゼヴィオンやリネットも頷いていた。


「他の者……特にガルディニスやザラディならば何か知っている可能性もある。とはいえ各々考えがあるだろうし、まずは俺から話を通してみるとしよう」

「それは――助かる」

「先程も言ったが、俺が撒いた種でもあるしな」

「死者同士ならば話をする分にも問題なかろう」


 ヴァルロスやベリスティオからまずは話を通してくれるという事か。リネット達は好意的というか一目置いてくれていたように感じたが、他の魔人達はどうかというと、また反応が違うという事は十分に考えられる。

 その点、既に会いに行っているヴァルロス達からなら落ち着いて話が進められる、というのはあるか。話を通してもらい、考えを確認したところで改めて俺も会いに行く、などの手順を踏んだ方が良いのかも知れない。


 先に書状を送ったり伝言を頼んだりという方法もあるだろうか。もう少し話し合ってその辺の事も考えてみよう。


 そうしてヴァルロス達と今後の事を話し合い……下層の負の念解消任務への同行の約束も改めてしてから俺達は上層へと戻る事になった。

 見送りの段になって、リネットが少し思案しながら言う。


「あー。どうでもいい事だが、冥府にいるあたしらが現世の連中にまた会おう、って言うのもちょいと気にはなるか」

「ふ……。それは確かに。では、お前達の道行きが良いものである事を祈っている、と言っておこうか」

「武運長久を、というわけだな」


 と、少し笑って話に乗るヴァルロスに続けて、顎に手をやって頷きながら言うゼヴィオンである。なるほどな。ゲンを担ぐというか何というか。ゼヴィオンの場合は傭兵っぽいところがあるが。


「それじゃあ俺からも幸運を祈っている、って言っておこうかな。どこにいて誰であっても、幸運とか良い日々を、なら間違いない」

「ああ。それなら確かに、現世でも冥府でも通用するね」

「良い日になるように、でありますね……!」


 アルバートが笑みを見せると、リヴェイラも嬉しそうに微笑む。


『ふふ、では、幸運を祈っています』

「良い日々になりますように」


 グレイスと母さんが微笑む。とみんなも合わせて「幸運を」と挨拶をし、ベリスティオや冥精達も穏やかに笑って応じる。そうして、ヴァルロス達に見送られて俺達は上層へと戻ったのであった。




 そうして冥府上層に戻り、俺やアルバートは母さんやエステル王妃といった面々と現世、冥府の知り合い達との中継を交えたりしつつ、のんびりと過ごさせてもらう。


「テオ達と良い関係を築いていけそうで、何よりだわ」


 母さんは下層でのヴァルロス達とのやりとりについて、そんな風に言って微笑んでいた。

 対魔人を目的としてきた賢者の学連出身で封印の巫女であった母さんとしては、盟主や炎熱、舞剣といった面々には色々予備知識もあったが、実際に話をしてみれば魔人化が解除された事や戦いにおいて一目置かれたからか、今の関係が好ましいものとして見える、との事だ。


「そうだね……。俺も約束をしていたから、ヴァルロス達の反応は安心できた、かな。このままきちんと進めていきたいと思う」

「ええ。応援しているわ」


 そう言って母さんは力強く頷くのであった。


 そうやって静かながらも温かな時間を過ごし、アルバートやユイ達と現世から持ってきた食糧で作った食事をとったりして――冥府上層での一夜が明けた。


『おお、テオドール公。お元気そうで何よりです』


 と、モニター越しに挨拶をしてきたのは、禁忌の地にいるディバウンズだ。


「こんにちは。マスティエルの後始末をしているとお聞きしましたが、何事もなかったようで何よりです」

『ふっふ。ありがとうございます。マスティエルは戦力を集中させておりましたから、恐らく情報収集を重視していたのでしょうな。黒い怪物を送り込むための魔法陣や情報収集用の仕掛けがいくつか見つかって、それらを潰して回っておりました』


 なるほど。マスティエルは単身で動かざるを得なかったし、情報収集と秘密裏の行動を主にしていた、というのは分かる。破壊工作のような攻撃的な策は少なめにしていたのは……悪意を持つ者がいることを極力伏せておきたかったからだろう。そうした仕掛けが見つかってそこから発覚する事を防ごう、というわけだ。

 ともあれ禁忌の地に配属されていたシーカーとハイダーを連れた冥精達は今現在、上層に向かって移動中との事だ。


『禁忌の地から出発した時間を考えれば……程無くして上層に到着するでしょう。もう暫くお待ちください』


 ディバウンズ率いる調査部隊の一部もそれに合わせて交代していて、戻る者達がシーカー達を預かっているとの事だ。それなら冥精達も無理のないスケジュールに出来ただろう。


 そんなディバウンズの言葉通り、程無くして禁忌の地から冥精達がシーカーとハイダーを連れて上層へ帰ってくる。

 そうしてまたリルケやマデリネ達と協力し、禁忌の地に配属されていたシーカーとハイダーを置き換えていく。これらが完成すれば俺とアルバートの今回の訪問における目的は達成だ。


 リルケ達も一度作業をしているので慣れたものだ。組み上げられた冥府シーカーと冥府ハイダーをテストして問題がない事を確認してから――もう見分ける必要はないが、同様に花を渡しておこう。


「よし……。これで最後かな」


 最後の一体の性能も確かめ終わったところで花を渡して置き換え作業も完了となった。その場にいる面々と、モニターの向こうから拍手が起こり、花を持ったシーカーとハイダー達が拍手を受けてか、ぺこりとお辞儀をしていた。冥府のあちこちで中継している冥府のシーカーとハイダーも合わせるようにお辞儀をしている様子だ。


「冥府から引き上げるシーカーとハイダーにも、新しく水晶板を作ってあげないとね」


 というアルバートの言葉に、こくこくと頷く現世組のシーカーとハイダーである。

 冥府だけでなくあちこち中継用として配置されているから、またシーカー達が必要になっていたのも事実だしな。冥府からシーカー達を連れて帰るのでその分、水晶板モニターだけで補えるのは有難い。改めて契約魔法を構築してペアリングしてやる必要はあるが、それも大した手間でもないしな。

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