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番外1072 冥府の変化

 冥精達がシーカー達を塔に運んでいる時に空中から中層の様子も見せてもらったが……住民達は平和に暮らしているようだ。

 花が咲いたままというか……前に見た時よりあちこちで植物が増えている様子で、彩りの豊かな風景になっていた。壁に蔦が伸びて葉で覆われていたり、地面に短い芝草が生えていたり。忘我の亡者達も花の近くに座って落ち着いているな。


『やっぱり花が近くにあると、心安らかに過ごせるみたい』


 中層を預かっているヘスペリアはモニター越しに顔を合わせて挨拶をした後で、そんな風に嬉しそうに教えてくれた。


「造花も多少似たような効果があるようですし、この後下層に行く前に作っておいてお渡ししますね」

『うん。手元に置いておけるとまた違うのかな。喜んでくれる人も多そうだね』


 俺の言葉にヘスペリアも頷く。


『ああ、もう到着しているのか』

『置き換え作業は粗方終わったという事かな』


 と、そこに姿を見せたのはレイス――リネット達だ。モニターに映っているレイス達はフードを被っているが……その布の柄や所持している武器には見覚えがある。

 ゼヴィオンとルセリアージュ、それにギルムナバルだな。塔の内部だからか、他の面々もフードを取って顔を露わにしてくれた。

 元魔人達は半霊体であるが意識が強固だからか、総じて生前の姿を残している所がある。レイスなので生前の業を霊魂のように周囲に纏っていたりするから、生者と見間違えるという事はないのだが。


「ああ。確認作業中なんだ。協力助かる」


 礼を言うとリネット達も笑って応じる。


『私達にしてみると話をしにきただけだけれどね。この後顔を合わせると聞いたけれど』

「ヴァルロス達とも連絡が取れたらね」

『顔合わせだけという話だが、楽しみに待っている』


 ルセリアージュやゼヴィオンとも言葉を交わす。


「負の念の解消任務の参加はテスディロス達も楽しみにしてるからね。今日は装備品というか……食糧や水も同行者分の最低限しか持ってきてないから、このまま向かうっていうのはできないけれど」

『ふむ。やはり冥府だからな。生者にとって不便なところがあるのも致し方ないか』


 ギルムナバルは顎に手を当ててそんな風に言っていた。

 まあ、食糧関係は冥府が平和になっても付随する問題だな。冥府に単純な滞在をするぐらいなら多少軽装でも大丈夫だが……荒事をするならば遭難等も考えて、ある程度の準備は必須になる。


 そうして話をしていると下層に向かった冥精達も拠点に到着する。シーカー達を拠点の一角に配置し面識のある冥精達とも挨拶をしていると、ヴァルロスとベリスティオが姿を見せた。


『確認作業があると聞いて、顔を見せにきた』

『中層の面々も揃っているようだな』


 複数の場所と双方向で繋いでいるので同時に会話が可能な状態ではあるかな。


「丁度良かった。下層の面々とも話がついたら実際に顔を合わせようって話をしていたところなんだ」

『では、これから集まるという事か』

「そうなるね。中層だと変装が必要だったりして行動しにくいところがあるから、合流しつつ下層の拠点まで向かうよ」

『ああ。では下層にて待っている』


 今日は顔を合わせて挨拶してくるぐらいではあるけれど、ゼヴィオンやベリスティオ達から何気ない会話の中で待っていると言ってもらえるのは……約束を守っていると受け止めて貰えているからではあるのかな。


 面識のない魔人達との接触は緊張が伴うものではあるが、色んな人達が力を貸してくれているしな。古参の魔人であればオズグリーヴの事を知っている者もいるだろうし、新しい世代の魔人であればヴァルロスと行動を共にしていたテスディロス、ウィンベルグがフォレスタニアにいるという情報を耳にして魔人化の解呪や共存の道を思い立ってくれる……かも知れない。

 ともあれ、間口を開けて待っているばかりでは進まない部分もあるだろうし、解呪と共存については今後も情報の拡散と収集を行い、活動を継続していきたいところだ。




 さて。そんなわけで冥府の素材で構築した造花を何本か作ったら中層に移動だ。

 母さん、アルバートとエステル王妃もヘスペリアやリネット達に挨拶をしたいと同行する事になった。


 中層外壁まで行くと、そこにはヘスペリアと共にリネット達もやって来ていて。


「元気そうで何よりだ」

「リネット達もね」

「ま、亡者が元気かどうかは微妙なとこだがね」


 再会の挨拶を交わすと、リネットはやや冗談めかしたように言って肩を竦めていた。


「ええと、こうして顔を合わせて言葉を交わすのは初めてだから、初めまして、でいいかな。アルバートと言います」

「ヴェルドガルの王子よね。よろしく頼むわ」

「テオドールと魔法技師を支援していたという噂は冥府で聞いたな。まあ、実際はその魔法技師本人だったようだが」


 アルバートが挨拶をすると、ルセリアージュやゼヴィオンもそう言って応じて、アルバートと握手を交わしていた。エステル王妃も丁寧に名乗って同様に握手を交わす。

 アルバートの噂については――冥府にも届いているらしい。ヴァルロス達との戦いが終わって情報を伏せる必要もなくなったから、功績を広めるためにアルバートの話も周知されたからな。


「というわけで、造花も持ってきました。今後も冥府を訪問した折には継続して作って行きたいと思います」

「ありがとね。きっと亡者のみんなも喜ぶと思う」


 ヘスペリアにも造花を引き渡すと笑顔で受け取ってくれて、下層に向かう俺達をそのまま見送ってくれた。

 そうして転移門を潜り、下層の入口から通路を通って下層拠点へと移動する。


「中層も植物が生えていたけど、下層も少し変わったみたいだね」


 下層に関しては――ごつごつとした岩場である事には変わりはないのだが、所々ぼんやりと光る水晶のような鉱物が生えているのが見受けられた。魔力波長も中層の花に近く、多分亡者が目にしたら癒されるような効果があるのではないだろうか。ああした草木や鉱物の生成は精霊界であるからこそ、冥精達の心情が反映されている結果なのだろう。


「鉱石もまた綺麗でありますね」

「これも平和になったからかな?」


 表情を綻ばせるリヴェイラとユイである。そうして冥府の下層を進んで、やがてトンネルを抜ければ――巨大な鍾乳石と一体化したような下層拠点が目に飛び込んでくる。


「ああ。来たようだ」

「皆揃っているようだな」


 ヴァルロスとベリスティオは拠点の外で俺達を待ってくれていたようだ。保全任務に参加した鬼と悪魔達――下層の冥精達も一緒にいて……どうやら合同で訓練をしていたらしい。

 出迎えに来てくれた面々と挨拶を交わし合う。下層にはプルネリウスもやってきていて、マスティエルの一件の後始末で妙なものが残っていないか、ディバウンズと調査を進めているのだそうな。まあ、そうだな。下層については監獄でもあるし。念には念を入れてというのは分かる。


「ディバウンズは禁忌の地に赴いているから、シーカー達を届ける折りに話もできるかも知れないな」

「はい。後始末に関連して、何かしら協力できる事があれば気軽に声をかけて下さい」


 そう答えるとプルネリウスは相好を崩す。


「それは心強い。何かあれば意見を求める事もあるかも知れない。ともあれ、積もる話もあるだろう。食事や茶は出せないが、しっかりと安全を確認した場だけは用意してあるので、ゆっくりしていって欲しい」

「ありがとうございます」


 プルネリウスともそんな言葉を交わし、下層拠点の内部へ案内してもらう。そうして通されたのは結構広々としていて居心地も良さそうな場所だった。中層や上層に戻る時は拠点内部から移動可能なので、のんびりと話をさせてもらうとしよう。ヴァルロスやベリスティオとは話をしたい事もあるしな。

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