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番外1069 天使と黒犬の職人達

「ふむ。自分で飛行船を動かす機会は中々ないであろうからな。あるとすれば……余程の火急の事態か」

「そのような状況にはならないように致します」

「ふっふ。頼りにしている」


 訓練設備にやってきたメルヴィン王は護衛として同行しているミルドレッドと、そんな会話を交わしつつ試しにという事でシミュレーターを動かしていた。先に来ていた面々は既に操船訓練をしているので、今度はメルヴィン王達に、というわけだ。


 とはいえ、メルヴィン王も今は立場があるからそういう場に立たせて貰えないというだけで、若い頃は騎士団と共に飛竜に乗る経験を積んでいるらしい。王子であった時分には迷宮に潜ったりもした事があるようだし。

 王位を継承してからは迷宮との契約絡みで儀式を行う事もあったし、ヴェルドガルの王族なので当然魔法も使える。


 直接戦闘よりも広範囲支援の魔法を修めているそうで。そのへんは王としての立場を考えてのものなのだろう。ヴェルドガル王家は迷宮との契約もあるからか、祭具や魔道具に触れる機会も多かった。そういった下地もあるからか、操船のコツはすぐに理解した様子であった。


「なるほど。確かに動かすだけならそう難しくはないな」

「お見事です」

「ふふ、余の魔法制御も捨てたものではないらしい。これはこれで楽しくはあるが、ある程度動かせるという事が分かった以上は、そなた達が技術訓練を積んだ方がよかろうな」


 メルヴィン王はそう言って操船席を譲る。


「では、私も操船の訓練をしておきたいと思います」


 そうしてジョサイア王子が操船席に着いて、訓練を進めていく。ジョサイア王子は努力家と言われていて、文武共に定評があるという話だ。

 船の操作もそうして研鑽を積んできた下積みがあるからか、すぐに慣れている様子だった。


「ああ。これは楽しいね」


 そうしてしばらく飛行船の訓練をこなしていくジョサイア王子である。ジョサイア王子の操船技術訓練については、これから先の予定で割と重要になる場面があるから訓練設備も有効活用してもらえれば、というところだな。


 というのもヴェルドガルとシルヴァトリアの技術協力で飛行船は改修を受けて今の形になった。シリウス号については対魔人のために臨機応変な対応ができるようにと俺が両王家から所有する事を許可されたものなのである。


 ヴェルドガルは同盟各国との協力体勢の構築に注力していたので自国は後回しにしていた。この辺はシリウス号が既に国内にあるという状況も手伝ってのものであるが、ともあれ落ち着いてきた今だからこそ、ヴェルドガル王国所有の飛行船も、という話になるわけだな。


 となると後は建造してからのお披露目をどうするかであるが、ジョサイア王子の結婚式か戴冠式に絡めるのが良いのではないかという話が持ち上がっている。その際、場合によってはジョサイア王子が操船する、という事もあるかも知れない。まあ、そうでなくとも先程メルヴィン王が言っていたように、操船はできた方が有事に対応できるから安心ではあるが。


 そんな調子でジョサイア王子に次いでミルドレッドも操船訓練を行い、その日は賑やかに過ぎていくのであった。




 訓練施設は術式周りの不備もなさそうな事が確認されて、そのまま本格的に稼働する事になった。

 需要を見て増設を考えたいという旨も通達しているが、合同練習も魅力的なので現時点では保留である。各国から飛行訓練を積みたい面々がお互いに連絡をし合い、予定を組んで転移港を訪問してくる状況となっている。


 ドラフデニア王国のレアンドル王はグリフォンのゼファードに乗り慣れているからか、やはり高速機動ではかなりの腕前を見せてくれた。

 ドラフデニア王国は高祖であるアンゼルフ王とグリュークが活躍した逸話も色々残っているからな。そうした歴史的背景もあってグリフォンの騎手としての技量は王族でも重要視されるという事もあってのものだろう。


 ともあれ、王族のような重要人物やその護衛を任せられるに足る信頼の厚い人物が操船できた方が良いと考えているのは各国とも共通であるらしく、重要人物が訓練に訪れている、というのが現状である。各国同士で日程を合わせ、訓練施設で交流を深めるという事にも繋がっているそうで。


 艦橋はサロンのようで居心地も悪くないと、居住性についても結構評判が良いようだ。給湯用の魔道具もあるし、迎賓館も隣だしな。飲物や食事にも不自由しないから、じっくり腰を据えて訓練と交流もできるか。


 そんな調子で訓練設備が稼働してから数日が経つが、同盟各国の親善も深まるという事で評判は上々といったところだ。

 そんな折、冥府からも素材が揃ったと連絡が入ったので、シーカー達を置き換える仕事のために冥府へと向かう事となった。


「では、アルの事をお頼みします」

「よろしく、テオ君」

「ああ。こっちこそよろしく」


 俺の返答に明るい笑みのオフィーリアと楽しげなアルバートである。

 シーカー達はブライトウェルト工房製だからな。中継用のモニターと魔法的な結びつきを構築しているが、それに関しては契約魔法の応用でペアリングしている。通信機に使われている技術の延長にあるものなのだ。

 というわけで、置き換えの際に手を加えるのならアルバートの協力も必要になるので、今回の冥府の仕事にはアルバートも同行する事になっている。


「お仕事中の間はご心配なく」


 アシュレイが言うと、マルレーンもにこにこと微笑む。


「ふふ、よろしくお願いしますわ」


 俺とアルバートが冥府に行って仕事をしている間、オフィーリアもフォレスタニア城の通信室を利用するという事で話が纏まっているのだ。アシュレイとマルレーンはオフィーリアと仲が良いので嬉しそうである。


「それじゃあ行ってくる」

「お気をつけて、テオ」

「いってらっしゃい」


 というわけでみんなに見送られて、天弓神殿から冥府へと移動する事になった。リヴェイラが同行していると冥府への移動も消費魔力が少なくなって安定する。リヴェイラが冥府に行くのでユイも護衛役を買って出てくれた。


「ではテオドール。気を付けて」

「ああ、ティエーラ、また後で」


 天弓神殿に到着したところでティエーラと言葉を交わし、そうしてマジックサークルを展開。術式とサウズ、ノーズの力によって俺達は冥府上層へと飛んだのであった。


「お待ちしておりました」

「アルバート様とは初めてお会いしますね。よろしくお願い致します」


 冥府に到着すると天使達が迎えてくれる。顔見知りの方が俺達としても気軽だろうと、保全任務に加わった天使達が警備や護衛も兼ねて俺達の到着を待ってくれていたらしい。


「こちらこそよろしくお願いします」


 アルバートも挨拶をして。そうして天使達から案内されてすぐ近くの部屋へと向かう。そこには置き換えるために集められたシーカー、ハイダーと水晶板。冥府の各種素材や昇念石、魔道具作りのための道具や設備等が準備してあった。それらの素材を扱える天使やブラックドッグ達も待機していて、その中にはこれまた顔見知りのマデリネもいる。


「この部屋をお使いください。ベル陛下やリサ様達もすぐに参られます」

「ありがとうございます」


 通信機のすぐ隣の部屋を作業スペースとしているわけだ。半霊体の素材や昇念石の加工は冥精達の分野なので……俺達のするべき仕事としては彼女達の補助、という事になるな。


「今日はよろしくお願いしますね」

「こちらこそ」


 と、職人の冥精達と挨拶をしたら作業開始だ。と言っても……作業するのは専ら冥精達である。俺達としてはシーカーとハイダー、水晶板モニターに使われている術式を紙に書きつけた物を渡して、分からない事があれば質問に答えるというのが今の段階での仕事である。

 その後は実際に出来上がったらその性能を確かめて、契約魔法周りに手を加えて置き換え、という事になるな。まあ、いずれにしても冥精達も楽しそうだし、良い雰囲気の中で仕事ができそうだな。

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