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番外1068 王達の飛行訓練

 訓練項目を試す、という点については必ずしも俺がやらなければならないわけではない。寧ろ施設の使い勝手を確かめてもらう意味でも、みんなに代わってもらうのは有意義な事である。


「というわけで……変わった事を思いついたら訓練中でも試してもらっていいよ。制御術式に穴があって意図しない挙動をしたりするような事は避けたいからね」


 何か突飛な事を思いついてそれがデバッグに繋がるなら歓迎である。迷宮核と共に想定される穴は潰しているが、みんなの訓練風景を横から見ておいて、色々試してもらうなり思いついたら自分でやってみてもいいのだし。

 そう伝えるとみんなも頷いていた。今は――マルレーンが飛行訓練中だ。にこにこと楽しそうに操船しているが、谷間をなかなか軽快な速度で抜けていく。操船に危なげがなく、安定しているな。


 飛行船の操縦技術については、術式の制御能力や魔道具への習熟度が重要になってくる。その点みんなは日々の訓練が操船技術の上手さに繋がる要素が多かったりするわけだ。


 操船自体はあまり複雑ではない。感覚的に操作できてしまうというのもあるが、浮遊炉があるので失速して墜落する事もなく、そのせいで飛行時の姿勢が多少無茶でも浮いている事自体に支障はないわけだ。操船者が平衡感覚を失っても術式任せで姿勢を元に戻す事も可能だしな。

 ただ、速度を出す時は極力高度を取るというのも安全な運用のためだし、空間識失調であるとか速度と揚力の関係等、空を飛ぶならやはり知識も必要ではあるが。


「シリウス号には組み込んでいなかった技術も訓練施設には取り入れているから、安全性が増しているのよね」

「そうだね。後発は気になった部分を反映させる事もできるから」


 ローズマリーがそう言うと、操船しているマルレーンもにこにことしながら頷く。

 後から操船用に追加された術式としては……例えば低速で隘路を飛行する際の補助として、船体の幅を感知するための術式が組んである。


 外からの映像に光のフレームを表示する事で視覚的に分かりやすくしてある。それ以上接近したら危険というのを示すわけだな。

 五感リンクによって、飛行船はこのぐらいの横幅や厚みを持つ、と船体の大きさを自分の身体のように疑似的に体感する機能もある。


 この辺の機能については後発の飛行船に組み込んである技術だ。シミュレーターでも疑似的にそうした術式も再現している。


 他にも安全面では光魔法の照射と反射によって正面の障害物を感知する、というのもある。衝突の危険がある時は速度に警告を出したり、他の飛行船の位置関係を感知したりと、衝突を避けられるようにお祖父さん達と話し合い、細かい術式を組んでいるわけだな。

 これらは安全のための術式なので、警告の来ない運用ならば危険性も少ないという事だ。


 シミュレーター上なら多少無茶な事をして術式の有効性を十分に検証できる、というのも副次的な利点ではあるか。


 カドケウスとバロールも計器の前に陣取って、飛行船の挙動との間に齟齬がないか確認してくれている。

 転移門の再起動についてはもう済んでいるし通達もしてあるので、もう少し確認を進めて問題なければ訓練設備を利用できる事も、各所に更に伝えておくとしよう。




 訓練設備が利用できる旨を通信機で伝えると、各所から返信があった。早速足を運んでみたいという者が数名。確認作業をしながら待っていると伝え、シミュレーターを動かしていると、艦橋の扉がノックされた。


「ああ。アドリアーナ。アル達もいらっしゃい」

「ふふ。楽しそうだから混ぜてもらいに来たわ。入口の意匠も素敵ね」

「工房の仕事も一区切りついたからね。見に来たよ。入口も良かったけど、内部も再現度がすごいね」


 と、アドリアーナ姫やアルバート達がステファニアに迎えられて笑みを見せる。早速操船席を譲ってシミュレーターを体験してもらう。アルバートも楽しそうに計器を見て感心したように頷いていた。


「これは凄いわね。外の風景は幻術でしょう? それにこの船も……実際のものとの違いが分からないぐらいね」


 実際に飛行船を動かしてみたアドリアーナ姫が感心したような声を上げる。


「外の風景については幻影劇で得た技術を反映させているところがあります。再現性には気を遣ったつもりなので、実際の飛行船を飛ばした事がある方にそう言っていただけるのは嬉しいですね」

「ええ。非常に完成度が高いと思うわ」


 というわけでシミュレーターなので確認作業を兼ねて無茶もしてもらって構わないと伝えると、アドリアーナ姫は「それじゃあ折角だから」と訓練項目に戦闘機動訓練を選んでいた。


「普段はする機会もないし、実物でも中々できない動きではあるものね」

「確かにそうですね」


 ローズマリーがそう言うとエレナも納得、というように同意する。

 この訓練については光のガイドラインが示した進行ルートを通ってなるべく良いタイムでゴールまで飛行する、というものだ。アーチを潜ったり隙間をすり抜けたり……戦闘機動の訓練なので曲芸飛行を要求するという内容もある。


 あまり長く続けても悪いからと、一回ごとに交代したりして「ん。ここは船体を傾ければ多分速度を落とさずに突破できる」といった調子で何やら攻略めいた流れになっていた。


 そうしていると魔界からメギアストラ女王、エインフェウスからイグナード王もやってきて。二人に合わせてボルケオールとカーラ、オルディアとレギーナも姿を見せる。


 メギアストラ女王とイグナード王となると……これまた戦闘機動訓練を楽しんでやりそうな面々だ。やはりと言うべきか、そのまま戦闘機動訓練で良いタイムを出そうという流れになって盛り上がっていた。

 やはりこういう高速飛行に慣れているのはメギアストラ女王だろうか。五感リンクで船体の大きさを理解すると、鮮やかな飛行を披露してみんなが声を上げて拍手を送る。


「ふっふ。これは愉しいな。竜であれば上手くやれそうだ」


 何となく……訓練というよりはみんなで集まってゲームで遊んでいるような雰囲気だな。艦橋なのでみんなで一緒に見る事ができるのが理由だろうか。イルムヒルトも楽しそうに軽快な旋律を奏でていたりするし。


「訓練施設と転移港の迎賓館を双方向で中継できるようにしておけば、待ち時間が多い時でも安心でしょうか」

「それは良い案よな。他人との訓練の時間を共有するというのは、気付かない事も気付けるし知識も増える」


 イグナード王が顎に手をやりつつ同意してくれた。

 元々訓練目的で集まったという事もあって、やがて違う訓練も見てみようという声が出て、そのままみんなで色々と検証までしてくれた。

 魔力変換装甲による物理的な衝撃での魔力供給なども、イグナード王が拳を叩き込んで確かめてくれる。


「ふむ。色々行ってみたが……特に問題はなさそうではないか?」

「そうですね。訓練施設としてこのまま使っていって問題無さそうです。今後は使用状況も見ながら下に訓練用の階層を増設することも考えていますよ」

「ほうほう。並行して訓練もできるようになる、と」


 そう伝えるとイグナード王は感心したように頷く。


「しかし先程仰っていたように、同時に見て学ぶ、というのも確かに重要ではありますね」

「迎賓館で休息できるのならば、どちらの利点も得られるだろう」


 そうかも知れないな。まあ……総じて中々好評なのは良かったと思う。メルヴィン王とジョサイア王子も時間が空いたので、これから訓練設備に来るとの事だ。

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