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番外1066 模擬飛行船

 日々の執務や領地視察、訓練の他に、魔界迷宮の状況確認も仕事の内に入ったがジオグランタやメギアストラ女王、ロギとボルケオールといった面々も積極的に協力してくれるという事もあって、忙しさとしてはそれほどでもない。ジオグランタやメギアストラ女王が報告してくれるし、管理設備からの報告書も日々纏めてあるそうで。


 迷宮防衛にしても状況には余裕がある。迷宮探索に関してはいかに魔界の住人とはいえ、未踏破の区画をどんどん進められるというわけではないようだし。


 ルーンガルドにしろ魔界にしろ、奥へ奥へと進もうとするモチベーションを持つ者は案外少数派だったりするのだ。

 大半は探索によって素材等を得て賃金を得るのが目的であったりするし、迷宮の深層部は探索を諦めさせるような難度を見せつけてくるデザインをしているからな。

 ルーンガルド側で言うなら炎熱城砦や満月の迷宮とそれ以降の区画がそうだ。対策と十分な実力無しには突破はおろか、探索も満足にできないような構造になっていて……大抵の場合はそこで諦めるのが殆どで、更にそこから実力と対策を伴っていくような場合は極々少数になるので、管理側としては対処に力を注ぎやすい環境になっていく。


 そんなわけで、まだユイが実際にラストガーディアンとして就任していないにしても、流体騎士団は既に配備されているし、当分の間は大丈夫だろう。油断は禁物ではあるけれど。


 というわけで、今日はフライトシミュレーターを構築するためにルーンガルド側の迷宮核で作業を進める予定だ。みんなも迷宮核の近くに作られた滞在用スペースでお茶を飲みながら待っていてくれる。


「それじゃ、ちょっと仕事をしてくる」

「はい、テオ」

「いってらっしゃい、テオドール様」

「ん。身体の安全は任せて」


 仕事を始める前にそう言うと、みんなが軽く手を振って見送ってくれる。シーラは何やら指をわきわきとさせているが。俺も軽く笑って、そのまま迷宮核の内部空間へと意識を送り込んだ。

 少しの間目を閉じて……それから開くと、既に俺の意識は術式が星々のように瞬く空間に浮かんでいた。


 さて、では作業を始めよう。

 フライトシミュレーターの基本的な構造は既存の飛行船と同じだ。艦橋を模した部屋を構築し、操船席に着いて水晶球で船を操る、と。


『見た目としてはこんな感じになりそうだ』


 と、外で待っているみんなにも幻影で立体図を示しつつ通信機で伝える。


『艦橋と同じ構造を再現するわけね』

『内部だけはね。外まで飛行船を再現する必要はないけど』


 シミュレート中の船の姿勢に応じて部屋そのものも回転する仕様も考えたが……まあ、浮遊炉もあるので実際の飛行船で多少無茶な機動をしても肉体的な負担は少ないし、訓練は安全が第一なのでそこまではやらない事にしておこう。

 天球儀というか宇宙飛行士の訓練装置というか……。ああした形状にすれば姿勢再現も不可能ではないのだろうけれど。一先ずは水晶板モニターに表示される風景の傾きと、計器の示す傾きだけで事足りるはずだ。


 というか、この辺の機能を敢えて組み込まない事で模擬艦橋に腰を落ち着けて茶を飲んだり休憩する事もできるな。

 その辺の事を伝えるとマルレーンがにこにこと微笑んでいた。


 更に浮遊炉の出力、主翼の発生させる揚力、ジェット機構、魔力光推進。ウィズが記録しているそれらのデータを、五感リンクを通して迷宮核に入力し、それらをシミュレーター上で正確に再現できるように組み上げていく。


 新規に用意してやる必要があるのが飛行用の訓練マップだ。艦橋の水晶板が映している風景が移動に合わせて連動する仕様である。


『こうやって訓練設備で飛行船を飛ばすと、幻影の景色と船の計器もそれに連動して動くわけだね。幻影劇の技術や契約魔法で連動させる技術をこっちにも流用してる』


 幻影を交えて仕組みを説明するとステファニアが感心したように頷く。


『なるほど……。風景が動くだけなら今の私達でも動かして大丈夫かしら?』

『問題はないはずだよ。風景が流れるのを見ていると、それだけで船酔いみたいな症状になる人もいるから無理は禁物だけれど』


 俗に言う3D酔いだな。この辺は三半規管周りの調子を整えたり、ある程度鍛えてやれば問題はない。この点で言うなら、みんなは空中戦に慣れているから三半規管は鍛えられている方だと思うが。


『表示される景色も色々ですね。飛んでいるだけで面白そうです』


 と、エレナが幻影の風景に表情を綻ばせる。

 眼下に移る都市部と城。特殊な地形。訓練を目的とした地形が結構密集しているのである程度バリエーションに富んだ風景ではあるかな。


『訓練目的の地形だから、まだ洗練されてないところがあるけれどね』


 苦笑しつつ見えている風景についてみんなに説明していく。

 マップ内に都市部を作る事で狙った場所へ停泊させる離着陸訓練が可能になる。谷間やアーチ、トンネルを作れば、隘路における安定低速飛行の訓練もできる……というわけだ。

 勿論、高速飛行でアーチやトンネルをすり抜けたりといった、戦闘や逃亡を想定した高速飛行の訓練も可能ではあるが。


 都市部から少し離れた所に、霧のかかった高い山々もある。視界不良の場所、山脈地帯を低空飛行して地形にきちんと対処するための訓練場所になる。


 他にも天候、時間による視界への影響、空間識失調の体験等……様々な要素を取り入れた訓練、幾つかの危険性を認識するための訓練ができるように組み上げていく。


 際限なく空間を広げていくわけにもいかないので、ある程度移動したらマップの逆端と繋がるように構築しておこう。


 飛行船は風魔法のフィールドを纏う事ができるので、強風等には影響を受けにくいというのが普通の飛行機とは違う点だな。

 それも飛行船の魔力があればの話ではあるので……例えば嵐に遭遇して船の魔力が消耗している時、といったシミュレートも必要になってくるか。


 本物同様に操船者や同乗者による魔力補給が可能な仕様が望ましい。実際に飛ばした時に自分がどれぐらいの魔力量を船に供給できるのかを知っておくのは重要な事だ。そういった諸々を訓練項目ごとに纏めていく。


『――設備の維持は実際には迷宮がしてくれるけど、訓練している者が魔力を注ぐ事で施設自体の魔力消費を節約したり余剰魔力を別の事に利用する事にも繋がるかな。飛行訓練では浮遊炉やフィールド展開、魔力光推進を使ってもあくまで幻影上の再現だけだから、実際の魔力消費が少ないからね』


 その辺の事も説明すると、クラウディアが思案するように顎に手をやる。


『確かに。訓練上の消費量と実際の魔力に差が生じてしまうわね。余剰魔力の活用法は色々考えられるけれど、建造予定の場所が場所だから設備の補助に使うのが良さそうね』

『魔力の蓄積量は訓練の量と人員の能力に依存するからね。補助として考えておけば確かに無駄にならなそうだ』


 といった感じでみんなと会話を交わしながら指針を纏めて、それらを訓練施設に反映させていく。

 設備が造られるのはタームウィルズである。各国からの訪問者が訓練しやすいように転移港の一角に増築される予定だ。転移門を起動させるための魔力の補助として活用するのならば、転移門の魔力消費量の観点からも溜め込み過ぎるという事がなくて丁度良いと思う。他には……訓練施設内部の空調とか、給湯とか、その辺に利用するのも良いだろう。


 ある程度魔力を蓄積して、閾値を上回ったら転移門の補助に回せば良いだけなのだし、訪問者が訓練目的で施設に来るならば、溜め込むタイミングと消費するタイミングがある程度一致してくる。蓄積に関してもそのへん、安全装置を組み込んでおくとしよう。


 そうして諸々組み上げた上で、仮想空間内部で実際にシミュレーターを動かしてみて問題がないかを確認していく。

 この辺の確認作業を終えたら、後は実際に迷宮核による建築という事になるな。

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