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175 お披露目

 ふむ。無害化したイビルウィードは案外愛嬌があって観葉植物向きなのかも知れない。水魔法による生育で人に慣れたイビルウィードは、寧ろ従順過ぎて、番犬代わりに使うという、本来の目的からは遠ざかってしまった気がするが。


 まあ、無害か有害かなんて泥棒には分からないのだから、これ見よがしに大量設置するなんて手もあるが……それはちょっとなぁ……。


 イビルウィードの鉢植えを物置の裏手まで置きに行くと、何だか鉢の周囲に密集するように春によく見る花々が咲いていた。


「んー……。花壇でも作った?」

「いえ。私は特には。イビルウィードを置いていたら自然にそうなっていた感じなんです」


 アシュレイが小首を傾げる。


「もしかすると、イビルウィードの周囲は草木が育ちやすくなるのかも知れませんね」

「どうだろう。確かに、野生のイビルウィードは、茂みの深い所を好む傾向があるけど……」


 考えてみると、こいつらは自力で移動できないしな。種を飛ばすからそういう場所を任意に選んでいるとも考えられるが……或いは周囲の環境整備をしたりするのだろうか?


「他の要因も考えられるから……ちょっと試してみようか」

「どうなさるのですか?」

「他の植物と一緒に植える。イビルウィードの有無で、一緒に植えた植物の生育に違いが出るか見てみるんだ」


 まだ芽が開いていない植物を庭から見繕い、鉢植えに移し分けてイビルウィードと同居するグループと単独のグループを作る。それから、やや離れた場所に配置した。

 日当たりは同じぐらいだから……まあ、グループ分けとしては妥当なところだろう。

 移し替えられたイビルウィード達はまだ開花に至っていない同居人に、じっと顔を向けるような仕草を見せていた。


 これがうまくいけば出窓などに他の植物と一緒に置いてやることで、花が長持ちしたりといった効果が見られるかも知れない。

 長らく庭師の敵扱いであったが、人に馴らせば園芸の味方になってくれたりしないだろうか。


 更に発展形としては……作物を食い荒らす害虫の駆除や病原菌への対処……というところまでやってくれるのなら、これはもう農業の味方だな。期待し過ぎかも知れないが、調べるだけの価値はあるだろう。

 とりあえず鉢植えを1つだけ家の中に置いて、少し観察をしてみよう。


「その子は家の中に連れていくのですか?」

「うん。庭のイビルウィードは今まで通りに。この鉢植えにはここから魔法を使わず、普通の水だけ与えて育てる」

「なるほど。私の水魔法の影響があるかないかを見るのですね」

「そういうこと。後、身近に置いて観察もしたいしさ」


 アシュレイは理解が早くて助かる。見るべきところは生育の度合いと、性格の変化だな。とは言え、クラウディアの説明から考えるに、ある程度生育してしまえば性格の方向性は固定される。多分、性格の変化は出ないだろう。


「せっかくだから名前を付けてあげたいですね」


 名前か。……俺が付けると、どうしても見た目から名前を色々と余計な連想してしまうからな。


「アシュレイが育てたんだし、アシュレイが付けてやると良いよ」

「そうですか? では……ハーベスタで」


 アシュレイは少しだけ気恥ずかしげに、はにかんだような笑みを見せた。




 さて。イビルウィードに名付けも済み、新しい課題も見えた。家の改築については畳も必要な分が出来上がったところで、ようやく俺が手を加える部分は一段落である。そんなわけで、みんなに和室を紹介する意味合いも兼ねて畳の上で寛がせてもらっている。街で特注した座布団や、和室用の座卓も用意してあるのだ。


「私、この部屋好きだなぁ」

「慣れると落ち着くわね」


 セラフィナは畳の上でごろごろと転がって、そんな彼女にくすりと笑うイルムヒルトはと言えば、座布団の上に座ってティーカップを傾けている。嗅覚の鋭いシーラは――寛いでいる様子だな。


 床に直接座るというとみんなの抵抗があるのではと思っていたのだが、案外早く馴染んでくれたようで何よりである。

 少々気の早い話ではあるが、冬場には炬燵を使えるように魔道具を用意したいところだ。


「大人しいと意外に可愛らしいものですね」


 グレイスが座卓の上に乗せられたハーベスタを軽く撫でている。

 その間もハーベスタは大人しくしていた。というか、この様子を見る限り、撫でられるのを歓迎しているような感じもするな。


「マルレーン様も試してみますか?」


 その様子をしげしげと見ていたマルレーンだが、グレイスから水を向けられて小さく頷く。少々神妙な面持ちで、やや警戒しながらハーベスタに触れた。無害と解るとマルレーンは笑みを浮かべた。

 イビルウィードに噛まれるというのは子供なら誰しもというところはある。俺やグレイスも小さい頃に噛まれているし。ただ王族もというのは少し考えにくいところはあるかな?


「マルレーン。ひょっとして噛まれたことがあるの?」


 気になって尋ねてみると、マルレーンは首を横に振った。となると……。


「アルバートかな?」


 マルレーンがこくんと頷く。なるほど……。多分、興味本位で手を出したんだろうな。


「旦那様。家具の運び込みと配置が終わりました」


 と、セシリアとミハエラが和室に顔を出す。

 家具屋の持ってきてくれた調度品やら寝台や鏡台、チェストといった家財道具は相当な量であった。玄関ホールに運び込まれた家具の山だが、まともにやると人手が足りない。そこでゴーレムを動かし、カドケウスで視界を確保して搬入していたのである。


 それでも全館でとなるとカドケウスでもカバーし切れない。部屋の位置から計算して、玄関ホールから個室まで、ゴーレムを自動操縦して家具を部屋に運び入れて配置していくといった具合で対処した。


 最初は俺が配置ミスがないか確認しようとしたのだが、セシリアが確認作業は自分に任せて休んでいてほしいというので、お言葉に甘えさせてもらった。

 セシリアとしても早く館の構造に慣れたいそうで。


「失敗してなかった?」

「旦那様のゴーレム操作は凄いですね」


 尋ねるとセシリアが笑みを浮かべる。どうやら問題ないらしい。まあ、直に見なくても、自分で作った建造物の中ぐらいゴーレムの自動操縦で何とかなるようでないとな。


「良いみたいだ」

「それじゃあ……地下室に行きましょうか」


 先程までマルレーンとハーベスタのやり取りに目を細めて微笑んでいたクラウディアであったが、いよいよ準備が整ったとなると些か緊張している様子が窺えた。




 みんなで地下室の大広間、石碑の前に移動する。クラウディアが迷宮村から戻ってくるのを待つこと暫し。大きな魔法陣が展開し、光の柱の中からクラウディアと共に迷宮村の住人達が姿を現した。


 イルムヒルトの両親、デルフィロとフラージアも来ている。

 ケンタウルス、セイレーンにアルケニー等々……なかなかバリエーションに富んでいるな。それから、カーバンクル達も多数。カーバンクルの長であるフォルトックもいる。


 子供の姿もある。保護者同伴だったりそうでなかったり。種族も様々だが基本的に子供達同士は仲が良いみたいだ。

 迷宮村の人口比率を考えると子供の割合が多い気もするが、将来を見越して、子供に経験を積ませたいというところはあるのかも知れないな。


「お招きいただき感謝しますぞ。村の住人を代表し、この通り礼を申し上げます」


 フォルトックが言うと、住人達が頭を下げる。


「こちらこそ突然の申し出を受けてくださりありがとうございます。初めてのことで皆様も不安かと存じますが、ヴェルドガルの大使として尽力する所存です」


 そんな風に挨拶を返す。まあ、形式ばったのはこのへんで良いだろう。


「自分の家だと思ってゆっくりしていってください。まずは建物内の案内をさせていただきたく思います」


 まず人化の術を施す魔道具が配られる。人化の術を使える者も使えない者も、次々と人と変わらない姿になって行く。

 だがナーガのデルフィロやアルケニーの少女など、一部の者は少しばかり魔物としての特徴が残った。ユスティアやドミニクのヒレや羽毛と似た感じだ。あの2人は魔道具を使えば魔物としての特徴を消すことができるが……デルフィロは元々人化の術が使えないということなので、これは術の精度ではなく、相性の問題なのだろう。


 地下室大広間から出る際に上履き……つまりスリッパに履き替え、玄関ホールへと移動する。シャンデリアに幅の広い階段。絵に描いたような洋館のホールという感じだ。内装や調度品の類も良い感じに嵌っている。


「ここが玄関になります。正面の扉から出ると庭を通って正門へ。逆側の階段裏にある扉は、噴水のある中庭へ。あちらの廊下が僕達の住んでいる区画に通じる通路。そちらの大階段からは2階、3階へと上がることができます。上の階は個室になっていて、寝泊まりすることができますが――まずは1階の各種設備から説明していきたく思います」


 廊下に沿って移動する。まず大食堂、厨房、トイレ、大浴場など今後生活をする上で必要不可欠な設備を紹介していく。


「それからこちらが娯楽室……そこから出ると中庭です」


 娯楽室は中庭に直通である。日当たりの良い中庭に出てテラスのように過ごすことが可能だ。噴水や東屋があったり木と木の間にハンモックがかけてあったりと、色々と趣向を凝らしている。


「ここに置いてある品は……見たことのないものばかりですね」


 フラージアが首を傾げる。


「以前劇場で遊んだ、カードと同じような遊具ですね。お時間がある時にでもお楽しみいただければと思います。それでは2階へ向かいましょう」


 廊下の突き当たりにある階段から2階へ上がる。

 個室の広さはまあまあそれなりと言ったところだろう。1部屋3,4人が楽に寝泊り可能で、ロフトもある。

 ロフトという構造は子供達の心にはピンポイントでヒットしたらしい。目を輝かせている。


「それから、ここが重要な点。廊下の突き当たりの壁――ここはどんでん返しになっていて、地下室まで直通の階段があります」


 要するに、何かあった際の迷宮への避難通路だな。

 3階もまあ、宿泊用の個室に避難通路と、2階と大体同じような構造だ。ただ、屋根裏部屋があったりする。子供達のテンションが更に上がったようだ。

 ロフトにハンモック、屋根裏部屋に秘密の通路とか……色々子供の喜びそうなものを付けたからな。


「立派なお屋敷なんだろうとは思っていましたが、ここまでとは」


 デルフィロが目を丸くしている。


「話は聞いているとは思いますが、自分達のことは自分達で行っていただきたく思っていますので、あまり遠慮なさらないでください。将来的な話のことはゆっくり考えていただけたらとは思いますが、まずこちらからはセシリア嬢を紹介したいと思います」


 セシリアが一歩前に出て、お辞儀をする。

 緊張した面持ちだったが、朗々と通る声で言った。


「お初にお目にかかります。皆様の指導担当を仰せつかっておりますセシリアと申します。非才の若輩者ではありますが全力を尽くしていく所存ですので、何卒よろしくお願い致します」


 セシリアの挨拶を見ていたミハエラが、静かに頷くように目を閉じる。

 みんなからの大きな拍手が起こってセシリアはもう一度頭を下げるのであった。


 お披露目と案内、それに面通しはまずまずの手応えといったところか。大筋では方向性は定まっているので、後は様子を見ながらだな。

 クラウディアと視線が合うと、花が咲き綻ぶような笑みを向けられてしまった。

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