番外1061 未来への願いと共に
「いや、面白かったです。幻影劇の題材にしたい内容ですね」
「ふむ。それは……きっとセリアも喜びそうだな。ルーンガルドとの交流を考えると、相互理解が深まるのは良い事だと思っている」
拍手と歓声が収まるのを待ってからそう伝えると、メギアストラ女王は笑顔を浮かべて応じる。
「ああ。そうだ。忘れない内に返しておかねばな。良い魔道具であった。感謝するぞ」
それからメギアストラ女王はそう言って、ランタンをマルレーンに手渡す。マルレーンもにこにことしながらランタンを受け取ると、大事そうに触れた。
「こういう魔道具の使い方は、良いものよね」
ステファニアが言うと、マルレーンもこくんと頷く。こういう場でランタンが活用される事が多いので、マルレーンにとっても思い入れのある大切なものになっているように感じられるな。
「幻影劇ですか。先程のお話の内容からすると、魔界と魔王陛下に関する秘密も伏せたままにするのも難しくはなさそうですね」
エレナはそんなマルレーンの様子に微笑みつつも、少し思案しながら言った。確かに。メギアストラ女王がジオグランタから魔界の歪み等々に関する話を聞いたのは知り合ってから大分後になってのことのようだしな。事情を伏せたまま幻影劇にするのは割と楽な部類だろう。
セリアとの思い出というか、先代魔王として記録に残っている出来事も豊富なようだし劇として展開する内容にも事欠かない。
「そうだね。折角許可が貰えたし、幻影劇場の今後の仕事として進めてみよう」
「事前に内容も見て貰えば、問題もなさそうだね」
アルバートが俺の言葉に応じる。魔界迷宮の一般開放、ジョサイア王子の結婚式といった出来事も控えているから、幻影劇に本格的に力を注ぐのはもう少し先になるように思うけれど。
「ふふ。楽しみにしているわ」
「幻影劇なら魔界や魔王国の普段の姿も見せられるだろう」
ジオグランタも笑って、メギアストラ女王も頷いていた。では……新しい幻影劇の題材も決定という事で。
幻影劇ならば魔界と魔王国の様子を見せられる、というのは確かに良さそうだ。それ自体でルーンガルド側の観客の興味を引けると思うので、魔界の文化等々も自然な形で組み込めるように意識したいところだな。
「パルテニアラ様の伝えていた守りの術が問題の解決に繋がったというのは……素敵なお話ですね」
「他にもファンゴノイドの皆さんが伝え続けた情報で、色んな方も助かっているようですからね」
グレイスとアシュレイはそんな風に言って。みんなも先程のメギアストラ女王の話を振り返っているようだ。幻影も交えてだったのでセリアへの感情移入や物語への没入もしやすく、皆興奮冷めやらぬといった様子だな。そのまま各々歓談となる。
『――ああ。ユイ殿の名前にはそんな意味が……』
「うん。ヒタカの言葉で、絆を繋ぐっていう意味もあるんだって」
『確かにルーンガルドの西と東、それから魔界と冥府とで素敵な絆ができているでありますね』
といった調子で、名前の由来についてリヴェイラに尋ねられたユイが自分の名前の由来を説明したりしてはにかんだように笑ったりと、微笑ましい光景である。話題はリヴェイラの名前の由来の話にもなって、視線を向けられたベルディオーネ女王が笑って応じる。
『ふふ。名前の由来、か。リヴェイラの名は自由、という意味のもじりでな。お忍びだから多少ならそうした振る舞いも許されるかと思ってそう名乗ったが……その名も、既に妾のものではない。過去の因縁から解放された冥府の、その象徴のように感じている。あまり眷属に思いを押しつける事はしたくはないが、リヴェイラと皆との関係を見ていると過去の失敗から解き放たれ、良い縁と絆が結ばれていくように感じられて、喜ばしいことだな』
ベルディオーネ女王の言葉にユイとリヴェイラが感動したような面持ちで頷く。
そうしてユイとリヴェイラはモニター越しに身振り手振りを交えて、ヒタカの文字を伝えたりと、楽しそうにしていた。
和やかに魔王城での宴は続いていく。俺達も茶を飲んだりしながらみんなとゆったりと歓談するのであった。
宴も終わり、そうして魔王城での一夜が明けたところで、一旦魔界から帰るという事になった。明日から魔界迷宮も一般解放されるので、俺やユイは様子を見に来る事になるとは思うが、メルヴィン王やジョサイア王子、クェンティン達と、同行している面々もいるしな。
それに伴って、シリウス号も戻るので俺達が帰るという事を通達してもらいながら、またメギアストラ女王に光のヴェールで覆って貰っている間に地下スペースにシリウス号を召喚術式で移したりした。王都の様子はまだまだ賑やかな雰囲気だ。迷宮探索を考えている面々は酒を抜いて気合を入れて装備を確認したりという光景も見受けられたが。
オブシディア号については、魔王城の一角に土台を造り、そこに停泊して整備等ができるように整えてある。
「では、気を付けてな。とは言っても境界門と転移門を潜っていくわけだから、魔物に襲われるような危険はないであろうが」
メギアストラ女王とジオグランタ、ロギ、それにファンゴノイド達。アルディベラとエルナータ、セワードや竜達。魔界の面々が魔王城の下層に続く回廊を同行し、俺達を見送りに来てくれる。ボルケオールとカーラについては引き続きヴェルドガル側に同行する形だ。
「ありがとうございます。迷宮については僕も注視していますが、不在の時に何かあった場合、通信機に連絡をください。僕もすぐに対処に入れるようにしておきたいと思いますので」
「承知した」
みんなも各々、一旦魔界の面々と別れの挨拶を交わす。手を振って見送るメギアストラ女王達に手を振り返し、祭壇の間から転移して境界門の間へと移動する。フロートポッドをルーンガルド側に引き寄せ、シリウス号を浮遊要塞の外へ召喚してから再度迷宮内をみんなで移動していく。そうして、境界門の間から連絡通路を通って転移港へと出た。
数日の魔界滞在だったからか、ヴェルドガルの空が眩しく感じる。
「魔界の皆さんも穏やかな方や楽しい方が多くて……足を運んで良かったと思います。ザナエルクとの戦いが何のためにあったか、再確認できました」
ガブリエラが言う。何のための戦いだったか、か。そうだな。ザナエルクが境界門を自由にしていたら、魔界や魔王国との関係も今のようにはならなかった。その言葉に、スティーヴン達やカルセドネ、シトリアも頷いたり目を閉じたりと、思うところがあるようだ。
「ふふ。デイヴィッドもファンゴノイドの皆さんを気に入ったのか、機嫌が良かったですからね」
「これからのベシュメルクは、魔界とも良い関係が築いていけそうだね」
コートニー夫人が言うとクェンティンが応じる。
デイヴィッド王子はと言えば転移門を潜る時に出る光に、嬉しそうに手足を動かして光の粒を掴もうと反応している様子だった。そんなデイヴィッド王子の反応にみんなも笑顔になる。
ベシュメルクの面々とも別れの挨拶をして。
「それじゃあな、俺達もまた、折を見てフォレスタニアに遊びに行こうと思う」
「うん。待ってるね」
「楽しみにしてる」
と、スティーヴンの言葉にカルセドネとシトリアが答える。そして、ベシュメルクに続く転移門を潜ってクェンティン達は帰って行った。
「では……余らも城へ戻る事にしよう」
「はい、メルヴィン陛下」
メルヴィン王とジョサイア王子、フラヴィアはフロートポッドに乗り込むとミルドレッド達に護衛されながら王城へと帰っていく。アルバート達は、このまま俺達と共にフォレスタニア城へ移動するそうだ。
さて。みんなをフォレスタニアに送って行ったら、シリウス号を造船所に移動させないとな。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!
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