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番外1058 魔王の記憶

 冥府での経緯を幻影でみんなに見せた後も宴は続く。

 インセクタス族の楽士が奏でる音楽に合わせてパペティア族やファンゴノイド達が舞いや歌を披露してくれたり、ロギが空中で剣舞を披露してくれたりといった具合だ。パペティア族の踊りは文化的に根付いた物であるらしいが、ファンゴノイド達の踊りや歌、ロギの剣舞などはこの日のために余興として練習してくれたものであるらしい。


「いやはや、私達の芸では目の肥えた皆さんを楽しませるには至らなかったかも知れませんが、中々こういう機会はないので皆楽しかったようですな」


 踊りを披露して拍手を受け、ボルケオールが言う。


「いえ、工夫が幾つもあって、見ている側としても楽しませてもらいましたよ」

「おお、そう言って頂けると嬉しいものですな」


 と、俺からの返答にファンゴノイド達は目を細めていたが。

 ファンゴノイド達の踊りについてはよく練習を重ねてきた事が分かるし、動き自体も面白いものだった。楽しそうな音楽に合わせてくるくると回ったり、傘を揺らして列になって動いたり、小さなファンゴノイド達が飛び跳ねたりと。


 踊るキノコというのが、森の奥で普通のキノコ達がそうしているのを想像させるような楽しさがあったというか。

 実際に胞子を飛ばしているわけではないそうだが、それを模した光の粒を飛ばして舞いと一緒に動かしたり、色々と工夫も凝らしていたようだ。

 そうした術を余興に合わせて用意できるのもファンゴノイド達が総じて魔術が得意な種族であるからか。


 一方でパペティア族の踊りはと言えば……こちらは文化として根付いているというだけあって、重厚な完成度だ。美を追求するような、繊細さや儚さ、危うさを前面に出した芸術性を持っている。

 踊りにしても人間的な動きを見せたかと思えば、機械的に一糸乱れぬ動きを踊りの中に組み込んだりしてみせるのは種族特性ならではだろうし、他の種族が自分達に抱くイメージをよく分かっているからというのもあるのだろう。


 そうした感想を伝えるとパペティア族達は「流石境界公はお目が高い」と大分嬉しそうにしていた。


 ロギの剣舞も相当なものだ。馬鹿げたサイズの大剣を持って飛び回りながら振り回す、豪快なものであった。剣も演武用の魔法が施してあり、振った後に光の軌跡が残るという術を施してあるらしい。

 空間に光の軌跡を残しながらドラゴニアンが舞い、楽士達が勇壮な音楽を奏でて何とも迫力のあるものだ。


「あの光の軌跡を残す剣は――良いですね」

「うむ。我が国にも取り入れたいところであるが」


 ミルドレッドの言葉にメルヴィン王が頷き、メギアストラ女王とボルケオールが「それならば」と笑って応じる。あの剣もファンゴノイドの開発した技術というわけだ。ともあれ、ヴェルドガル王国の王城での出し物にも、ロギが剣舞用に使っていたような装備が導入される日は近いのかも知れない。


「ふふ、余も何か持て成しのために余興ができないかと考えていてな。マルレーンのランタンをこの場だけ借りられればと思っていたのだが、どうだろうか?」


 と、メギアストラ女王が尋ねてくる。ああ。事前の話にはなかったが、この辺は最初から考えていたわけだ。サプライズを目論んでいた、というところだろうか。マルレーンに「どうかな?」と視線を向けるとにっこり笑って頷き、メギアストラ女王にランタンを手渡す。


「おお、すまぬな。では傷つけぬように、大切に扱わせてもらうとしよう」


 メギアストラ女王がマルレーンにそう言うと、マルレーンもにっこりと笑って頷く。


「メギアストラ陛下の制御能力なら問題なくランタンも使えそうですね。割と感覚的に扱えますよ」

「ふむ……。おお、なるほどな」


 メギアストラ女王は魔王城の小さな幻影を出したり、ドラゴニアンやファンゴノイド達の幻影を出し、それを動かして頷く。

 演説の時もそうだったが、光学系の術も使いこなしているしな。元々幻術との相性は良いのかも知れない。というか竜としての特性もそっちに寄っている可能性があるな。

 総じて強い光にあまり耐性がない魔界で、そうした特性を持っているとするならば、それ自体が結構な強みだと思うが。


 ともあれ、メギアストラ女王は暫く幻影を操作していたが、やがて頷いた。


「これならば問題なく語る事もできそうだ。テオドールに触発されて、余も少し昔の事を語ってみたくなってな」


 そう言って楽しそうに笑みを見せるメギアストラ女王である。それは――過去の魔界の出来事ということになるのか。


「それは――面白そうですね」


 俺がそう言うとみんなも同意するように頷く。魔王の語る魔界の過去、というのは興味深い。


「不慣れゆえ、楽しんでもらえるものになるかどうかは自信がないが――」


 と、そう前置きをしてからメギアストラ女王はランタンに触れて幻影を映し出し、そして語り始めるのであった。

 それはどこかの洞窟内、だろうか。四方を岩で囲まれた空洞の岩陰に……枯れ草で編んだ鳥の巣のような何かがあった。そして、そこに鎮座するのは大きな卵だ。


「余が――自己と世界というのを知覚したのは、殻の中より外界に生まれ出でるより、少し前の事だ。他の竜達の事がそうであるかまでは知らぬが、余の場合は卵の内側で自分の身体や、その周りを覆う壁……殻の存在を理解した時が世界の始まりであったよ」


 メギアストラ女王の言葉を示すように、卵が揺れる。ルベレンシアや他の竜達も頷いているあたり、あまり竜達同士で語り合う事はないものの、卵から孵る時の感覚というのは竜達同士で共通するもの、なのかも知れない。


「ルーンガルドの水竜親子は仲睦まじい様子であったが……調べてみると魔界の竜というのはあまり子育てというものをしない種のようだ。というより、必要がないのだな。生きるために必要な事は生まれてから後、殻から学ぶ」


 卵の揺れが大きくなり――内側から罅が入って。そうして小さな竜がそこから顔を出して声を上げる。話からすると、これがメギアストラ女王の生まれた頃、という事になるのか。


「世に生まれ、最初に覚えたのは飢えであったか。余には自らが収まっていた卵の殻というものが非常に美味そうに見えて、それを食ったのだな。そして、それは正解であった。竜は親から子へと、そうやって生きるために必要な知識や、力の扱い方、それに言語というものを継承するらしい」


 殊更子育てをしない代わりに、卵の殻を食う事で継承する、か。何というか、面白い生態だ。そういう機能を親が卵の殻に持たせているのか、それとも竜の捕食にそういう能力が備わっているのか。

 モニターの向こうで興味深そうにしている水竜親子と、納得している魔界の竜達という反応を見ると、ルーンガルドと魔界の竜は習性が違うのか。水竜故に生態が違うとか、魔界の竜が独自の変化、変異を経ているとか、色々考えられる。


 ヴィンクルは些か特別ではあるが、生まれたばかりの竜でも下手な魔物の成体より強力であるというのは間違いない。

 長じれば個にして最強の幻獣でもあり独立独歩の性格が多いが、総じて誇り高い性格というのは共通していると思う。


 親竜は子竜が育つために必要な環境を作ったら、別の場所に縄張りを構築するらしい。そんなわけで生まれてから後、メギアストラ女王は付近の生態系の頂点として、襲ってくる魔物を返り討ちにしたりしながらすくすくと育っていったようだ。


「そのまま育っていったならば、余も恐らく、他の竜達と同じように生き……今このように、魔王となることも無かったのであろうな。周辺の山野に暮らす魔物達は敵であり狩りの対象でもあったが……そんな日々を過ごす中で余は余と同じように言葉を操る種族と出会う事になる」


 そう言ってメギアストラ女王は静かに目を閉じるのであった。

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