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番外1057 長命種と友と

 サロンに帰ってきて再びモニターを配置すれば、宴会を継続する準備も整う。酒や料理が運ばれてきて、そうして再び魔王城の一角で賑やかな時間を過ごす事になった。


 酒が用意されていると言っても、子供達の事もあるので俺達もそれに合わせて今回は飲む事はないけれど。魔界の酒、というのは製法や原材料共々興味を引くものであるようで。


 基本的には果実酒やインセクタス族の好む蜂蜜酒が主流であるらしい。いずれも事前の成分分析ではルーンガルドの面々が飲んでも問題ないという結論が出ている。

 メルヴィン王、ジョサイア王子やフラヴィア、クェンティンとコートニーといった面々は魔界の果実がああした性質と見た目というのを知った上で面白がっており、是非飲みたいとメギアストラ女王達に伝えていた。


「おお。また、芳醇な味わいなのだな……。キノコ酒とは珍しい」


 果実酒を口にしたメルヴィン王が目を見開いて言うと、ロギとボルケオールが頷いて言う。


「酒造の工程は普通ですが、潤沢な魔力が含まれておりますからな」

「この漬け込まれているキノコは?」

「ある種のキノコは酒と一緒に飲むと性質が変化する、というものがありますが、このキノコは酒に漬け込んだ場合、悪酔いを防いで体調を整えるという効果がありましてな」

「ほほう。それはまた興味深い」


 と、そんなやり取りをしているメルヴィン王達である。


『お酒と一緒に食べてはいけないのは、ヒトヨタケだったかしら』

「逆の性質を持つ、と。やはり、魔界のキノコは面白いわね」


 母さんとローズマリーはボルケオールの説明を聞いて、それぞれ感心したような表情を浮かべたり、顎に手をやって頷いていた。その辺案外趣味が合う二人のような気がする。そんな反応にみんなも笑顔になっていたりするが。


 ヒトヨタケはアルコールに反応して体内で毒になってしまうが、今回のキノコ酒については体調を整えてくれる効果があるそうな。酒を薬用酒にしてくれるというか。漬け込む量については種類や酒量によって変える必要があるとの事だが。

 まあ、この辺の薬効についてもメギアストラ女王がジオグランタと共に迷宮核で事前にリサーチしてくれているので安心ではあるかな。


 そうして食事も賑やかに過ぎて行き、お茶を飲みながらの歓談も一段落したところで前々からの話にあったようにマルレーンからランタンを借りて、冥府での話を語っていくという事になった。


 魔界の面々もルーンガルドの面々も、種族問わず興味津々といった様子だ。最前列に中継用のハイダーとシーカー達が体育座りをし、その後ろで座席を並べて座って鑑賞会といった雰囲気である。


「では、切欠となった墓参りのところから話を始めたいと思います」


 そう前置きして冥府行きの切欠となった母さんの墓所に墓参りにいったところから話を始めるとモニター越しに見ていた母さんやリヴェイラも笑顔を見せる。


「――というわけで、意識を失って魔力も弱っているようだったので可能な治療を施しながら戻ることになりました。この時は墓参りの直後で、場の魔力が高まった事、冥精との相性が良い墓所であったが故に冥精である彼女が弱ったまま流れてきて引き寄せられた、と推測していました」


 少し母さんともあの時の事も話をしてみたが「私が何かしたという実感はないのだけれど、何かが助けを求めているような気がしたわ」との事だ。だから……母さんがその直感に意識せず応えたのかも知れない。


 元々母さんは神格を得ていたし、同時に冥精に近づく方向で変質が進んでいた。生前の評価が神格に繋がる事を考えると、そういう「助けを求めるもの」が引き寄せられたというのも分かる気がする。


 このあたりの事は諸々の冥府の問題が解決する過程を話した後で伝える、というのが話の筋としても分かりやすくて良いだろう。その時点で掴んでいる情報が前後すると聞いている方も混乱する。母さんとリヴェイラもにこにこしながら聞き手に徹するようだしな。


 そうして意識を取り戻したリヴェイラから話を聞いて、冥府に向かう手立てを考えたこと。冥府に向かってから起こった事等を、一つ一つ時系列順に幻影を交えて話をしていく。


 冥府に到着してからの出来事については既にメルヴィン王やジョサイア王子にも幻影で語っているので、話の流れは同じでも幻影で映す人、場面には少し変化を持たせたりしている。メルヴィン王達は楽しそうに幻影を眺めて耳を傾けているようで何よりだな。


 その後の黒い怪物達の出現から上層の事。禁忌の地の踏破やアイオーンの事、マスティエルとの戦いまで話をするとみんなは固唾を飲んで聞き入っている様子であった。話を終えると大きな拍手を送ってくれる。


「冥府か。生きる者の意識が影響する精霊界故に、魔界におけるそれとはまた違うのかも知れないが……温かな、良き場所よな」

『ふふ。そう言ってもらえるのは嬉しいものだな』


 モニター越しにメギアストラ女王の言葉を受けて、笑みを見せるベル女王である。

 魔界と冥府の関係も良好な印象で何よりというところだ。冥府のその後の顛末等も含めて話をするとサロンに集まった面々、モニターの向こうで話を聞いていた面々も感じ入るように目を閉じたり、穏やかな表情で頷いていた。


「ユイ殿はますます腕を上げられたようで、頼もしい限りですな」

「まだまだ修行や勉強を頑張らなくちゃって思ってるけれど……うんっ。ありがとう」


 と、ロギと笑顔で握手を交わすユイの様子に、ジオグランタも表情を綻ばせる。ユイの能力の具体的な所についてはラストガーディアンの切り札ともなるので話の中では割愛させてもらっているが、それでもユイに実際に会ってみれば力がより充実しているという印象を受けるのは間違いない。


 大きな力を持った後というのは注視が必要だが、ユイに関しては前向きで明るい性格や考え方といった精神面に関しては通力に目覚めても肝心なところは変わらずという印象で、俺としても安心して見ていられる。


 今後は能力の習熟であるとか、迷宮深層に配置された流体騎士団の指揮と連係、戦況を見ての判断というのも修業や勉強の内容に含まれる事になるだろう。

 ユイからロギへの返答に補足するように今後の話をすると、ジオグランタも話に加わってくる。


「ユイの座学には……私も同席して良いかしら? その辺の事を一緒に学んでおけば、有事の際に相談する事もできそうだわ」

「うんっ。ジオグランタ様が一緒なのは嬉しいな……!」


 ジオグランタの言葉に屈託のない笑顔を見せるユイである。


「それは確かに良さそうですね」

「作戦や対策を考える上で話し合える相手がいれば、どちらかが冷静になったり間違いに気付いたりできるからな。迷宮の維持管理面も含めて良い事だと思う。冥府での冒険を経て友となったリヴェイラも、交えてというのも良いかも知れぬな」


 俺の言葉にメギアストラ女王も頷いてからそう言うと、水を向けられたリヴェイラがモニターの向こうで目を丸くする。


『私も良いのでありますか? その、迷宮とは無関係な身の上なのでありますが』

「ユイにとって……というよりも互いにとって良い友人を得られたのだなと理解している。余とジオの関係もそうだが、長命な種、存在であるが故に信頼できる友であるとか、大事にしたい存在というのは重要だと考えていてな。だからこそ、先程の話を聞いた時は安心したのだ」


 そんなメギアストラ女王の言葉に、クラウディアも静かに頷いていた。クラウディアにとっては、ヘルヴォルテや迷宮村のみんながそういう大事にしたい存在でもあっただろう。

 ユイとリヴェイラは顔を見合わせあうと嬉しそうに微笑み合って、メギアストラ女王を真っ直ぐに見据えて頷き返す。そんな二人の反応にみんなも表情を綻ばせるのであった。

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