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番外1055 水の友の暮らし

「皆様はお話を聞いている限り、空を飛び慣れているのではないかと思うのですが、高所からの移動が苦手だと仰る方も多いので、移動の際はご無理をなさらないよう。その時は乗り物なりを用意いたしますので」


 オービルが先導するように泳ぎながらこちらを振り返りつつ言った。ああ。確かに都市の高所からの移動になるから、場合によってはそういう反応になる事もあるだろう。こうして気遣ってくれるという事は、過去、都市内部にやってきた時に怖がる者もいた、という事かも知れない。

 水中の都市なので泳いで街の上を移動したり、下層に降り立つために移動したりするのは、確かに陸上の生き物である俺達にとって高所からの移動と変わりないしな。


「それに関してなら、私達は大丈夫ですね」

「空中戦装備もあるし、魔道具の使用も慣れてるものね」


 グレイスが言うとクラウディアも応じて、みんなも笑って首肯する。ティールが「苦手な人がいたら自分が背中に乗せる」というような内容を翻訳の魔道具を通して伝えてくると、コルリスもこくんと頷いて自分の胸のあたりに手をやったりしていた。

 メルヴィン王はその仕草に愉快そうに肩を震わせたりしているが。


「フラヴィアは、大丈夫かい?」

「ありがとうございます、ジョサイア様。確かに下を見ると吸い込まれそうですが……ジョサイア様も一緒ですから、怖いと感じる程ではないですよ」


 ジョサイア王子は隣のフラヴィアを気遣っているようだ。問われたフラヴィアは嬉しそうに微笑んでジョサイア王子に応じる。

 ジョサイア王子も「それなら良かった」と笑って、楽しそうにエスコートしたりされたりするような仕草を見せていた。ジョサイア王子とフラヴィアの仲も良好なようで何よりだ。


 さてさて。緩やかに下降していき、大通りに降り立つ。街中にも明かりが灯されているようで都市内部の見通しは良い。王都でも見た外灯の魔道具が使われていて、生物由来の光ではないようだ。植え込みの代わりというように海藻や珊瑚が計画的に配置されているようで、美観にも気を使っているのが見て取れる。


「水脈に作られている都市や拠点は魔王国内に複数点在していますが、基本的な造りは似ていますね。住んでいる種族の比率等には違いもあるでしょうか。とはいえ、どこの水脈都市でも物流の関係で、色んな種族が見られるとは思いますが」


 オービルが教えてくれる。水中の都市なので普段、ほとんどの住民は通りを歩くより泳いで移動しているらしいが、俺達の来訪に関しても知らされているのか、沿道に人が集まっていた。ケイブオッター族やシュリンプル族の他に魚人族もいるようだ。


 但し、魔界の魚人族はルーンガルドで知っている魚人族よりも、更に魚に近いフォルムをしている。顔の部分がより魚らしいというか。

 陸上での活動はできない種族という事らしいので、見た目から受ける「より魚に近い」という印象は間違っていないのだろう。


「あの区画はなんでしょうか?」


 道を歩いて中央にある施設に向かいながら、エレナが尋ねる。泡のドームで包まれた区画もあるようだな。


「空気のある区画を用意しておく事で、食糧の長期保存や加工が容易になるのです。上層の都市部でも間に合いますが、陸上からお客人が来た時に滞在できるように、という目的もありますな。私達が息継ぎに使う事もできますが、その辺は環境魔力だけで補う事もできます。衰弱している時には活用する事もありますが」

『ふむ。グランティオスでもそうした料理や食糧の加工に、空気のある区画というのは使われているな』


 エルドレーネ女王がオービルの言葉に反応する。確かに、海中ではその辺の作業をするには不向きだな。

 息継ぎに関しては……魔物は魔力で活動できる関係上、術式や固有能力によって空気を吸いに水面に浮上する必要もないというわけだ。後は空気や水質の浄化を行っておけば、住環境は都市内部で完結するのだろう。


 通りを歩いていくと橋が架かっているのが見えた。水の色が異なっている水路も、陸上の川べりのように欄干が付けられており、誤って落ちないように整備されているようだ。


「やはり水中に川があるというのは面白いですね」


 俺がそう言うと、マルレーンもこくこくと首肯する。


「先程もストリームクリルの話で触れましたが……水路は環境が違うので、棲息している生物も違ったりするのです」


 というオービルの言葉にみんなも欄干から水路を覗き込む。

 ライフディテクションを使って見てみると、確かに言葉通りオキアミが流れていくのを見て取ることができた。小さなヤドカリのような生き物もいるが……小型ながらも魔物であるらしい。


「かなり大きなヤドカリもいるわね」


 ローズマリーが言う。


「あれは……ヤドヅクリと言って自分の術式で殻を形成する住人達ですな。言葉は操れませんが、水路の掃除をしてくれます」


 オービルがやや短い手を振ると、ヤドヅクリ達もオービルに答えるように鋏を振ってくる。

 ヤドヅクリ……。なるほどな。自分の好みの大きさの貝を形成できるのなら、ある程度大型化もする、だろうか。

 そして、ストリームクリルについてだが、結構重要な生物なのかも知れない。時折魔力を使って水流操作をしているのが見て取れたからだ。


「水流が形成されている事と……ストリームクリルには関係があったりしますか?」

「おお……。流石の慧眼ですね。その通りです。ストリームクリル達は自分達で水流操作を行い、集団を形成しているから川の流れのような物を作り出します。理由は栄養豊富な海水を求めてであるとか、捕食者から逃れるためとか諸説ありますが……その性質に我らの祖先が着目し、環境を整えて後押しや維持、補強をしたから今の形に落ち着いた、とも言われておりますよ」


 オービルがストリームクリルについて解説してくれる。

 水質を分けて維持をしているのはストリームクリルの道をコントロールし、生存の為の環境を維持、確保する為でもあるだろう。

 今となっては水路自体も紋様魔術で維持している部分があるので、必ずしもクリルに水路の環境構築を依存しているわけではないそうだが、食糧として確保する場合は漁獲量を調整したり、長期保存できるように加工したりと……環境の維持ができるように魔界の水の友は気を付けているという話だった。


 水路は地下水脈全体で循環しているが、外海からも小さな隙間を通ってストリームクリルが流入してくるらしい。それでも基本的には閉鎖空間だしな。住環境の維持はそれだけ重要な問題、という事なのだろう。


 街中を巡って物資の搬出入作業を見学したり、建築物を見て回ったりオキアミの貯蔵庫を見せて貰ったりする。

 食糧である小魚、貝やオキアミについては凍らせて保存しておき、食べる時は解凍してそのままとか、磨り潰してペースト状にしたり、客に振る舞う際は焼いたり煮たり、料理をするという事だった。陸上の料理はコストが高いものの、水の友にも結構人気がある、というのはグランティオスあたりと同じだろうか。


 そうして最後に中央の建物へ行き、都市部の実務関係の仕事についても見学させてもらい、水脈都市観光も一段落といったところだ。

 オービルは主だった者を集めて、ルーンガルド訪問の話を伝えていた。


「――というわけで、ルーンガルド訪問については各拠点や種族から希望する者を募り、そこから訪問する代表者を選出する形で進めていきたいと考えています」

「おお。それは楽しみですな。早速持ち帰って皆に話をしてみます」


 といった感じで、具体的に話も進んでいるようだ。ルーンガルド側は海の民、魔界側は水の友が一堂に会するという事で、これも中々楽しみな話だな。

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