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番外1051 王都の祝祭

『そろそろ迷宮の入り口構築が始まるが――場所と種族によっては見る事のできない者もいよう。だが安心するがよい。今日はめでたき日ゆえ、少しばかり余が手伝うとしよう』


 そう言ってメギアストラ女王の足下からマジックサークルが広がる。手を差し伸ばすとそこから淡い光が、迷宮入口の建設予定地に向かって進んでいく。すると――空中に迷宮入口の建設予定地となる空き地が大写しになった。


 空き地に、光のフレームが展開されている立体映像がよく見える。メギアストラ女王が王都のどこからでも見る事ができるように光魔法の術式を行使したわけだな。自分の姿を大写しにした術の応用で……これも予定通りだ。魔法建築を行う迷宮核もメギアストラ女王と連動して動く。


 喜びのどよめきがあちこちから漏れて、魔王を称える声が王都に響く。折角のイベントだし、どこからでも見られるようにしてくれるというのは、確かに有難いだろうな。


「私達はまだ待機していて良いのかな?」

「はい。魔王陛下からは皆様が入口の構築をきちんと見られるように留意せよ、と仰せつかっております」


 クェンティンが尋ねると、パペティア族の女官がこくんと頷いて応じる。メギアストラ女王としてもその辺は想定済みというわけだ。


 そんなわけでみんなも安心した様子で式典の観覧を続ける。建設予定地である空き地についてはサロンのバルコニーからでも視界に入るので、特等席で見守ることができる。メギアストラ女王が大写しにした映像もサロンから見る事ができるので、臨場感もばっちりだ。中継しているシーカーやハイダー達も机の上に並んで、バルコニーから外の映像を各所に送る。


 程無くして予定の時刻がやってきて――空き地を覆っていた光のフレームに変化が生まれた。空き地にぼんやりとした光球が2つ程浮かんだかと思うと、そこからマジックサークルが展開した。迷宮製のマジックスレイブのようなものだ。折角のお披露目なのだから、魔法建築の工程も可視化して楽しめるものにした、というところがある。


 展開されたマジックサークルから光が奔り――さながらレーザー彫刻のように地面を円形になぞる。レーザーのように術の作用範囲を可視化しているが、実際は土魔法だ。

 光の当たった場所が石のブロックに変質し、ゴーレム化する。但し今回は人型となって脇に退くわけではなく、ブロックが回転して縦穴を掘る場所から除けられていく。


 みるみる内に円形の縦穴が構築されていき、脇に退いた石材ブロックの数々がそのまま建物の基礎部分を構築していく。


 こうして目に見える形で構築しているが、普通は見えない場所にも迷宮が干渉して、きっちりと構造強化や補強をしているはずだ。


 迷宮核側が立体映像を構築。メギアストラ女王の構築している立体映像にぴったりと重ねてくる。メギアストラ女王の術式は光学系のものなので、表示できるのは光が届く範囲内だけだ。地上に建物が構築されたら上からは何も見えなくなる。だからそれ以外の部分を、迷宮核が補って表示してくれるというわけである。


『あの光の線で表示されているのは余の術が届いていない地下部分を透視して見たもの、と理解してもらっていい。迷宮入口は縦穴の底にあるというわけだな』


 と、メギアストラ女王が補足説明を入れてくれる。

 空中に映し出された立体映像に、地下部分に縦穴が構築されていくのがリアルタイムで見て取れる。内径に沿った螺旋状の階段であるとか、階段を降り切った後の広間であるとか。


 迷宮内部各所に転移するための石碑。それから、迷宮地下一階部分に繋がる通路の入り口までが立体映像に映し出された。


『一番底の通路入口が迷宮内部に繋がっている、というわけだな。中央にある石碑については、一度行った区画の入り口まで一気に向かう事ができるし、奥底から戻ってくる手段もある。そのあたりは兵士達にも伝えてある。今後、内部探索に向かうならば必ず事前の講習は受けるように』


 メギアストラ女王は割と事細かに説明してくれるな。その言葉に街中の者達も感心したように頷く。刻一刻と変化していく空き地の様子に、王都でもサロンでもみんな食い入るように見ている。


 地下部分が終われば続いて地上部分、管理施設の建築に移るが――こちらは防犯上の都合から建物内部の詳細までは見せられない。縦穴の周りに柱が構築された後は、一気に外観から構築されて内部が作られていくという流れになる。


 空き地の周辺の地面が波立つように揺らぎ――そこから一気に建物の壁が上に向かって地面からせり出していく。


「おお……!」


 というどよめきがサロンやモニター越しからも聞こえ、王都からもあちこちから歓声が上がる。あっという間に立派な建物が形成されていく。内部についても外観が出来上がり次第迷宮核が作業に取り掛かるだろう。


「規模は違うけれど、セオレムを構築した時も似たような感じだったと記憶しているわ。内部を見せる必要はなかったから、最初から尖塔が地面から生えてくるような感じ、といえば良いのかしら」

「それは……さぞかし壮観な光景だったのでしょうな」


 クラウディアが笑みを見せると、メルヴィン王がその光景を想像したのか、顎に手をやって頷きながら応じる。みんなもクラウディアの言葉に興味深そうな表情を浮かべていた。


 そうこうしている内に魔王城の建築様式に合わせた建物が出来上がり、あちこちから拍手と歓声が巻き起こっていた。かなり重厚な印象があるが、これはいざという時に門を閉ざして籠城も可能なように、というわけだな。内部も構築されたのか、続いて建物を囲う外壁が地面からせり出して、作業完了を示すように敷地に展開されていた光のフレームも消える。


『迷宮入口とその管理施設に関しては青の刻が2度巡ってきた折りに一般解放される予定だ。そしてそなた達に伝えるべき朗報がもう一つある。魔王国は現在、ルーンガルドから賓客を迎えていてな。彼らもまた、此度の事を祝して素晴らしい物を運んできてくれた。今、その姿を見えるようにしよう』


 メギアストラ女王もマジックサークルを展開。大きな光のヴェールが広がった。召喚術式で飛行船が移動してきた事が分からないようにしてくれているわけだ。

 青の刻というのは――魔界は空の色の変化で一日の推移を表している事からくる言葉だ。2度巡ってきたら、というのは俺達の感覚でいうところの明後日、という事になるか。今日と明日はお祭り騒ぎになるし、酔ったまま迷宮に突入する者が出ないようにという配慮だな。


 女官が「お願いします」と伝えてくる。俺も頷いてバルコニーからウロボロスを翳し、マジックサークルを展開した。ヴェールの内側――バルコニーの向こうにシリウス号とオブシディア号が召喚される。


 同時にアルファと一緒に待っていたラヴィーネ、ベリウスを魔界側に個別に召喚する。ルーンガルドと魔界の飛行船の移動時には乗っている生命体は巻き込まないようになっているしな。


 甲板をバルコニーに接舷させて、ルーンガルドから来た面々はシリウス号の甲板に、魔王国の面々はオブシディア号に乗り込んでいく。中継しているシーカーとハイダー達もティアーズが甲板まで運んでくれた。オブシディア号はカドケウスとバロールが臨時で操船を行う。

 バルコニーから離れて並ぶように船を移動させ、それから合図に光球を打ち上げると、それを確認したメギアストラ女王が頷いて言葉を続ける。


『白い船はシリウス号。ルーンガルドからの賓客が乗っている。我が国の危機に助太刀をしてくれたテオドール公の船だ。そして黒い船は――オブシディア号。魔界とルーンガルドを結ぶ絆の象徴として建造された飛行船となる』


 その言葉と共に、光のヴェールが取り払われた。シリウス号とオブシディア号が王都に集まった人達から注目を浴び……湧き立つような歓声が巻き起こる。メギアストラ女王は満足げに頷くと、演説用のテラスから翼を広げて飛び立つ。そうしてオブシディア号の船首に立つと、王都に集まった面々に宣言する。


『余はこれより、シリウス号の賓客と共にオブシディア号で少しばかり周遊してくるとしよう。皆には酒と料理が振る舞われるが……迷宮探索を希望するならば、振る舞われる酒気を抜いてから臨むことを忘れるではないぞ? では――心ゆくまで此度の慶事を楽しんでいくがよい』


 メギアストラ女王の少し冗談めかした言葉に、王都の面々から笑い声が漏れる。そうして、王都ジオヴェルムにて、祝祭の始まりが宣言されるのであった。

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