番外1048 魔王国の歓迎
「ようこそ魔界へ。歓迎するわ」
「ふふ、おはようございます」
「おは、よう」
地下祭祀場にジオグランタ本人とティエーラ、コルティエーラのスレイブユニットも姿を見せる。
「ありがとう、ジオ。ティエーラとコルティエーラも、おはよう」
歓迎してくれるジオグランタ達にお礼の言葉を伝えると、ジオグランタ達も穏やかな表情で応じる。同行している面々も始原の精霊達に挨拶をしていく。
「おはよう、ジオグランタ様」
「ええ。ユイとオウギもいらっしゃい。ユイは――そうね。内側からの力に溢れているみたいだわ。実際に顔を合わせてみると、開眼したというのがよく分かるわね」
ユイと顔を合わせたジオグランタは、目を閉じたままではあるが少し眩しいものを見たかのような反応を見せていた。
「うんっ。でも魔界に来たら……というよりもジオグランタ様の近くにいると調子が良い気がするから、そのせいかも」
「ああ、それは何よりだわ」
腕にオウギを抱えて明るい笑顔で答えるユイに、ジオグランタも表情を綻ばせる。
魔界の環境はユイにとって合っているというか、生まれ故郷でもあるしな。
「ジオグランタ様の近くで封印を解くと、私も調子が良く感じますね」
「グレイスはメイナードの血玉と血筋で直接連なる系譜であるからな。その事もあろうが、封印を解くと調子が良いというのは頷ける話よな」
グレイスの言葉にパルテニアラが答え、グレイスもまた嬉しそうに微笑んで頷く。
そうして挨拶も終えたところで地下祭祀場を通り、魔王城の地下から上層部へと移動していく。
まずはそれぞれの部屋に案内し、手荷物を部屋に置いて身軽に動けるようにという事で、貴賓室に案内された。俺達。ヴェルドガル王家、コートニー夫妻。それぞれの同行者や護衛が寝泊まりする部屋と、きっちりこちらの希望した通りに分けられている。各々の護衛達も警備をしやすい配置になるよう手筈を整えてくれている。
着替え等が入った手荷物を部屋に置いて廊下に出ると、パペティア族の女官が案内してくれた。貴賓室から廊下を通って進むと、そこは広々としたサロンになっていて……そこには魔界で出会った知り合い達が俺達を待ってくれていたらしい。
部屋に案内されるときに一旦別れたメギアストラ女王、ジオグランタ達。騎士団長のロギとボルケオールは勿論、他の面々も顔を揃えている。
色々な種類のキノコの姿をしたファンゴノイド達。ブルムウッドやヴェリト達ディアボロス族の面々。アルディベラとエルナータのベヒモス親子。図書館の司書であるカーラ。ミネラリアンのセワード、人化の術を使った竜達といった顔触れだ。
いやはや、魔界の面々は多彩というかやはりそれぞれの種族が個性的だな。一堂に会するとそれがよく分かる光景だ。しかもこうした知り合い以外にもまだ種族が色々いるという。
しかし、竜達も機会を合わせて遊びに来たか。メギアストラ女王によれば「招待はしているが気まぐれな連中だからどうなるか分からない」という事だったが、人数的にも魔界での決戦に参加した面々は全員来ているようだな。
「感覚的には遠路はるばるというわけではないが……遠方からの来訪を心から歓迎する。広間を交流しやすいように整備して開放してあるので、滞在中はゆるりと過ごして欲しい」
メギアストラ女王が言うと、拍手が響く。どうやら広間を交流しやすいようにサロン風に改装してくれたようだ。そうして楽士達が音色を奏で、サロンでの交流が始まる。お披露目に関しては明日、魔王城に一泊してからという事になるな。
まずは……そうだな。ルーンガルドと映像、音声の中継ができるようにしてしまおう。机の上に複数モニターを配置し、何体かのシーカーにも映像中継してもらう。これでルーンガルド各国や月、冥府と、魔界との間で双方向に映像や音声を届ける事ができるはずだ。
メルヴィン王やジョサイア王子、クェンティン達の所にも初対面の面々が挨拶に向かう。各国と中継されているモニターのところにもだ。メギアストラ女王とイグナード王はモニター越しに笑い合ったりしている様子で……気性として結構気が合ったりするのかも知れない。
そうして中継の為の作業を終えると、頃合いを見計らっていたのか、俺達のところにも続々と魔界の面々がやってくる。
「ご無沙汰しておりますな、皆様」
と、ファンゴノイドの1人が相好を崩して言う。
「皆さんもお元気そうで何よりです」
「ふふ。テオドール公のお陰で魔王城内部における行動の自由も増えておりますからな。皆喜んでおります」
なるほどな。魔王城の外にはあまり出ないそうだが、元々ファンゴノイド達は環境に適したキノコの里で暮らしていた種族だから、その辺はそれほど気にならないようではある。それでも身を隠さなければならない、という環境よりは気楽だろうし、他者との交流の場ができたのも良い事なのだろう。
「いらっしゃい……!」
「エルナータやオレリエッタも元気そうで良かった……!」
シオン達、カルセドネとシトリアもエルナータやオレリエッタと挨拶をしたり、和気藹々としているな。ユイも顔見知りになっていて、そこに混ざってにこにこと挨拶をしたり、オウギの事を紹介したりしている。年少組の面々はあれで安心だな。
「ん。ユイも魔界の人達と仲良くしていていい感じ」
「そうだね。今回の交流で友達が増えてくれるといいね」
その光景に頷くシーラの言葉を、俺も笑って首肯する。冥府の話題を振られて「リヴェイラちゃんが優しい子でね」と、みんなに紹介したい旨の話をしているユイである。うむ。
「冥府の調査ですか。また相当な激戦があったようですが」
オレリエッタの様子に穏やかな視線を向けてから、ブルムウッドが尋ねてくる。
「冥府の先王の因縁にも絡んだ……何というか、精霊とも魔法生物とも言えない存在が相手でしたね。こうして話ができるあたり、諸々解決しました」
この辺の細かな事情は後でみんなに幻影を交えて話をする事になるだろうと伝える。
「ふふ、テオドールの話は楽しみにしている」
「確かに」
と、アルディベラと笑って頷き合うブルムウッドである。
「魔界の皆も元気そうじゃな。最近の魔界はどうなっておるのかの?」
「魔王国の事情はよく分からんが、魔界そのもの……小さな魔物達の暮らしは大して変わってはおらんな」
ルベレンシアの言葉に竜が答える。
「魔王国に関して言うなら、今はお披露目の話題で持ち切りだな。王都も人が増えていて、連日ちょっとしたお祭り騒ぎとなっている。ベルムレクスとの決戦の地となったあの場所は――アンデッドが湧く事もなく、あの地域の蛮族達の活動も下火になっている」
なるほどな。ベルムレクスに囚われていた魂は昇天したから……その後の状況は落ち着いているようだ。
蛮族――つまり魔界のゴブリンやオークといった種族だが、連中はまあ生き残りがいるならばベルムレクスとの決戦を目にしているかも知れない。それで大人しくしているというのなら、しばらくはあの近辺も安心だろう。
「ベシュメルクも魔界も……平和になって良かったです」
「本当に……。大変な事情や時代を経ての平和ですからね」
アシュレイが胸のあたりに手を当てて言うと、エレナも嬉しそうな微笑みを見せた。
平和な時代、か。視線を向けるとコートニーの腕に抱かれたまま、嬉しそうに声を上げて手を伸ばすデイヴィッド王子の姿が見える。
どうやらファンゴノイド達が気に入ったようで、握手してきゃっきゃとはしゃいでいる様子だ。
「デイヴィッドが魔界の皆さんと仲良くしてくれるのは喜ばしい事です」
クェンティンもその光景に微笑ましそうに目を細めるのであった。