番外1047 魔界の式典に向けて
魔界迷宮とオブシディア号のお披露目に向けての準備は整った。後は……俺達自身も列席する準備を進める。
魔界についてはルーンガルドとの交流を深めていく予定なので、各国首脳や冥府との中継ができるようにしていく。魔界迷宮にしても飛行船にしても、魔界の平穏に関する事なので関係の深いヴェルドガル王国とベシュメルク王国からもそれぞれお披露目に出席する事になっている。お互い迷宮と境界門で魔界とは繋がりがあるしな。
一先ずヴェルドガルからはメルヴィン王とジョサイア王子とフラヴィア、そして俺達と工房の面々。ベシュメルクからはパルテニアラとクェンティンとコートニー夫妻、デイヴィッド王子とガブリエラが出席予定だ。更に各国の護衛の面々という事になるので、ベシュメルクからはスティーヴン達もやってくる。魔界側に泊まるという事もあって、カルセドネとシトリアも喜んでいた。
当日の予定をボルケオールや関係者とすり合わせて予定を立て、各所に書面と共に通達していく。
「魔界は多種多様な種族が多いからね。現地の式典に出席するのは楽しみだ」
「ボルケオール様やカーラ様とはこの前ご挨拶しました。他にも様々な種族がいらっしゃると聞いているので楽しみです」
というのは、出席を伝えてきた際のジョサイア王子とフラヴィアの会話である。フラヴィアはおっとりとした雰囲気があるが、割と物怖じしない性格のようだ。タームウィルズのお陰もあって多種族には慣れているそうだが……そういう性格や考え方の人物だからジョサイア王子の婚約者として選ばれた、という背景もあるのだろう。
ともあれ式典中はシリウス号とオブシディア号はルーンガルドと魔界の親善の象徴という扱いにもなる。そのまま二隻並んで王都ジオヴェルムとその周辺を少し遊覧する予定も組んでいるので、魔界の風景や種族の様子等、安全を確保しながら色々見て回る事もできるはずだ。
そうして調整を進めつつ執務や領地巡回等をしながら日々が過ぎて行き……やがて魔界へ向かう予定日がやってくる。
まずはシリウス号、オブシディア号を迷宮内部の浮遊要塞へと移動させてから転移港で合流し魔界へ移動、という流れになる。
ウロボロスを掲げて召喚用魔道具と共にマジックサークルを展開すれば、大きな光の柱に包まれてまずシリウス号が。続いてオブシディア号が現れる。二隻の飛行船はそのまま待機させておく。後は……然るべき時に魔界側でもう一度召喚すれば良い。
「んー。魔界側に召喚するまで、少し待機して貰う事になるけど」
甲板から顔を出したアルファに軽く手を振りつつそう言うと、アルファはにやりと笑いつつ喉を鳴らして応じる。翻訳の魔道具によるとオブシディア号も含めて見守っておくから召喚まで安心して任せて欲しい、との事だ。
「アルクスも、よろしく頼むね」
「分かりました」
頷くのはアルクス本体である。アルクスは境界門の守護が任務だからな。スレイブユニットで同行して魔界の状況を見つつ、本体は浮遊要塞に詰めておくというわけだ。まあ、アルファとアルクス、ティアーズ達がいれば大抵の状況には対応できるだろう。
そんなわけで浮遊要塞での作業を終えて転移港へと移動する。グレイス達は大型フロートポッドに乗って転移港の中庭で待機していた。同行する面々も中庭でのんびりとしていた様子である。
俺が姿を見せるとみんなもフロートポッドの中から顔を覗かせる。
「ただいま。浮遊要塞の方は準備完了だね」
「はい。おかえりなさい」
と、笑顔でグレイスが応じてくれた。
そこに王城からヴェルドガル王家の家紋が入ったフロートポッドと護衛の面々が飛んでくる。俺達にも護衛を兼ねて同行者の面々がいるように、ヴェルドガル王家にも護衛がついているので、ここにベシュメルクの顔触れが加わると、結構な大所帯になるな。
「これはメルヴィン陛下、ジョサイア殿下」
「うむ。魔界に行けばあまり関係がなくなってしまうようだが、式典に相応しい、穏やかな日和であるな」
「確かに。爽やかな天気で気分が良いですね」
フロートポッドから顔を出したメルヴィン王と笑い合う。ジョサイア王子やフラヴィア、護衛の面々とも挨拶をしていると、ベシュメルクと繋がっている転移門からもクェンティン夫妻やガブリエラを始めとした面々が姿を見せる。
「ご無沙汰しております」
と、笑顔で挨拶してくるクェンティン夫妻である。デイヴィッド王子も俺達の事は覚えているのか、コートニーの腕の中で上機嫌そうに笑っていて、微笑ましい事だ。
デイヴィッド王子はまだ幼いが、いずれベシュメルクで王位を継承する事になるので、ルーンガルドと魔界の親善でもある今回のお披露目には是非立ち会わせてあげたいとの事である。
「こんにちは、エレナ様」
「はい。こんにちは、ガブリエラ様」
「二人とも、元気そうだな」
「うんっ」
「みんなも元気そう」
エレナとガブリエラ。スティーヴン達とカルセドネ、シトリアもそれぞれ挨拶をして再会を喜んでいる。
「ユイと言います。こっちの子はオウギです」
「ふふ。よろしくね」
ユイやオウギとは初対面になる顔触れも多く、丁寧に自己紹介して挨拶をし合っていた。嬉しそうに声を上げながら手を伸ばすデイヴィッド王子にオウギが「よろしくお願いします」と言いつつ握手で応じ、それにコートニーが表情を綻ばせていたりと、中々に微笑ましい光景だ。
「最近のベシュメルク国内の状況はどうですか?」
そう尋ねるとクェンティンは静かに頷いて応じる。
「そうですね。マルブランシュ殿やバルソロミュー殿と共に奔走しておりましたが、その甲斐あってか、最近は大分落ち着いていますよ。地方の有力貴族達も新体制や王位継承には賛同してくれていますし……何より兵士達や住民達が非常に好意的ですからね」
というクェンティンの言葉に、ガブリエラも微笑んで頷く。
ホウ国もそうだが、軍部と民衆からの支持が厚いというのはやはり安定感があるな。
今回コートニー夫妻が魔王国を訪問しているのでマルブランシュ達は留守を預かる事になっているが、もう少しすれば水晶板モニター越しに挨拶する機会もあるだろう。
というわけで魔王国に向かう面々と合流したので、早速移動を開始する。転移港と境界門の間は、専用の連絡通路で繋がっているので、皆で転移門を潜って魔界への移動を開始する。
フロートポッドも魔界に持ち込みだ。あると移動の時に便利だし、子供達の事を考えると俺としても安心である。
というわけで術式を用いて転移に巻き込んで連絡通路に持ち込む。連絡通路自体は広々としていてフロートポッドも自由に移動可能だ。
広い連絡通路の両脇をティアーズ達が固めており、俺達の姿を認めるとお辞儀をするように挨拶してくる。
そんなティアーズ達に護衛の面々が笑顔でお辞儀を返し、そうして通路を奥へと進んで行く。連絡通路の最後にはまた転移門があり境界門の間に続いているというわけだ。そうして境界門を通過すればそこは魔界の迷宮奥、ということになるな。こちらも他と隔離された通路を通り、魔王城地下の祭祀場へと移動できるようになっているわけだ。
そうして連絡通路を抜け……フェアリーライトの咲き誇る境界門の間へと到着する。
フロートポッドに関しては一旦境界門の間に残しておき、門を越えた後に広い場所で魔界側に召喚術式で呼び込めばいい。
そんなわけでフロートポッドから降りて、一人一人境界門の向こう側へと移動する。
「おお。来たようだな」
揺らぐ境界門の向こうにはメギアストラ女王と共にボルケオールと魔王国の騎士団長ロギが待ってくれていた。
「お待たせしました」
「何。余も今来たところでな」
と俺の言葉にメギアストラ女王も笑うのであった。さてさて。いよいよ魔界でのお披露目と式典だな。まだシリウス号やオブシディア号を召喚したりといった仕事は残っているが今回はどちらかというと客側の立場なので楽しませてもらうとしよう。