表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1819/2811

番外1045 黒き飛行船

 魔界迷宮のお披露目に合わせて飛行船も、という事で造船も進んでいる。

 黒を基調とした船には紫色の炎の意匠が組み込まれてルーンガルドではやや物々しい印象もあるが、パペティア族のカーラが魔界人の感覚で意匠を洗練してくれた。


「これで色が乗ったら格好良い」

「うん。私は、あの炎の意匠、好きかも」

「うむうむ」


 と、カルセドネとシトリアが船を見て言うと、ルベレンシアも腕組みしながら頷く。パペティア族のセンスはルーンガルド側でも魔界でも通じるという事かな。ルベレンシアも魔界の竜としての出自を持っているからか、カーラのデザインは気に入っているようだ。


 集めた素材を光球の中に溶かして船体を形成したのが先日の事。魔力変換装甲については元の色が白だから、染料、塗料を使って船体の色を変えるのもそう難しい事ではない。下塗りをしてから上塗りでムラが出ないように仕上げていくのだが、船体が形成された日に作業に取り掛かり、下塗りまでは済ませてある。


 魔力変換装甲の性能を底上げできるように、下塗りや上塗りの塗料そのものにも魔石粉末を混ぜ込んで術式を組み込んである。最終的には色を塗っても外観上、魔力変換時の波紋が広がるようになっているはずだ。


「じゃあ、これをよろしくね。基本的に外部観測部分と炎の意匠以外は、これで塗ってしまって大丈夫。炎の部分はこっちの塗料で。それと、失敗しても仕上げの時に干渉すれば問題はないからね」


 と、塗料が入った桶を受け取った改造ティアーズ達がこくんと頷いて飛んでいく。左手に桶、右手にローラーを持って、改造ティアーズ達総出で外装塗りをしているという光景である。


「ああ、ティアーズ達がこういう作業をしているのを見るのは好きだわ。何というか、平和を感じると言えばいいのかしら」

「確かに、少し不思議な感覚になります」


 そんな作業風景にクラウディアが微笑みを見せ、ヘルヴォルテが頷いていた。

 以前のクラウディアとヘルヴォルテにとっては……ティアーズ達はパラディンと共に迷宮中枢部に至る道を延々と警備している兵、という存在だっただろうしな。こうして日常の中で戦いと関係のない作業をしているというのは象徴的な光景なのかも知れない。


「確かにほのぼのしていて私も好きだわ」


 イルムヒルトが笑みを見せるとマルレーンもこくこくと頷く。マクスウェルやアルクス達も同意するように核やバイザーの奥を明滅させていた。

 とりあえず塗装についてはこのままティアーズ達に任せておいて大丈夫だろう。続いて船内に入り、アルバート達工房の面々と、ミスリル銀線の敷設作業や内装を進めていく。


「この作業も、何回かやってるから大分慣れたね」

「そうですね。俺としては自分の性格上、慣れた分だけ雑にならないようにしないと、と思っていたりするところはあるんですが」


 ミスリル銀線の敷設作業をしながらアルバートが言うと、少し離れた所で作業していたタルコットがそんな風に答える。


「うん。良い心構えだと思う。僕も肝に銘じないと」


 アルバートもタルコットの言葉に笑顔でそう返して作業を続ける。俺も……慣れからくるミスには気を付けないとな。


「タルコットは仕事が丁寧だけど、そういう心構えがあるからかな」

「いや、それは……。慢心から失敗した過去があるから、自分を信頼していないだけと言いますか」


 アルバートの言葉にタルコットが自嘲するように苦笑を見せる。それから、少し穏やかな表情になって呟くように続ける。


「ただ……作ろうとしているものがきちんとした形になっていくのは嬉しいですね」

「んー。アルの言うとおり、タルコットは結構職人気質だと思うよ」

「そう、なら嬉しいですね」


 俺の言葉に少し嬉しそうな表情で頷いて、タルコットは作業を続けていく。


 魔王国用の飛行船は、魔界の特性に合わせて変異点でも突入できるように結界を張れるようにしたりと、いくらか魔界に合わせた機能を組み込んである。基本的にはシリウス号に準じる性能で、これまでにも何隻か飛行船を作っており、それほど大きなマイナーチェンジはしていないので、内部の構築作業も先程の会話通り慣れたものだ。

 但し、ギガス族のように身体の大きな種族もいるので可能な部分は通路や扉を広めに取る設計になっていたりと、あちこち魔界ならではの仕様になっているが。


 内装に関しても同様に魔界仕様だ。とはいっても内部は居住スペースでもあるので、外見と違って威容を全面に出す必要がない。落ち着いて過ごせるように、物々しさよりも幻想的な印象のレリーフを基調としているが……外が炎の意匠なのに対して内側は地、水、風の意匠を組み込んだものにしたようで。四大元素を船の意匠として組み込んでいるわけだ。


「おお。良いではないか」


 もうそろそろ船が出来上がるということで、作業を見に来たメギアストラ女王が、内装を見て笑顔になって感想を口にした。


「軍船ですから外見は炎で。内側は過ごしやすさを考えて住環境に適した地、水、風といった意匠にしてみたのです」


 カーラが答えると、メギアストラ女王はボルケオールと共に感心したように頷いていた。内装デザインもカーラが進めてくれたわけだ。パペティア族の美的センスはルーンガルドでも美麗に感じるものを生み出してくれるな。


「それと……装飾に関してはテオドール様の発案で、急いで移動しても衣服や身体を引っ掛けたりしないように、滑らかな曲面で構成されています」

「確かに……。実用性と美観を兼ね備えているというわけですな」


 ボルケオールがレリーフを軽く撫でて納得したというような反応を見せる。そうこうしている内に敷設作業や外装の塗装作業も終わりを迎えた。みんなで艦橋に移動し、そこで伝声管や各所の空調設備等の確認を進めてもらう。


 その間に俺は操船用の水晶球に触れて、各所の術式が正しいかウィズと共に一つ一つ機能チェックしていく。各所の水晶板モニター。三連浮遊炉、主翼と後部の推進装置……。

 各々正常通りの反応を示している。諸々の確認を終えたところでメギアストラ女王に視線を送って頷く。


「機能に関しては問題無さそうですね。一旦みんなには下船して貰って試運転に移ろうかと思っています」

「ふむ。初飛行という事なら、同席させてもらいたいところだな」


 と、メギアストラ女王はそんな風に試運転に同席したいと言ってくる。ああ。確かに初飛行ではあるし……それも重要かも知れない。もし墜落してもドラゴンにとってはどうということもない、と。


「分かりました。では、一先ず安全第一で飛行していきましょう。その前に……飛行船について書面に色々と纏めておきましたので、それをお渡ししておきます。飛行船の安全な運用にも関わる内容ですね」


 俺の言葉を受けて、ローズマリーが魔法の鞄から本を取り出してメギアストラ女王に渡す。迷宮核で形成した本で、魔界の言語に翻訳して書かれている。

 水晶球での操船マニュアルと各種設備の使い方、メンテナンスの方法。それから飛行時のトラブルシューティングについて纏めたものだ。


 高速で空を飛んでいると自分の状態が分からなくなる空間識失調等、空を飛ぶ上で起こり得るトラブルについても書いてある。

 まあ……竜であるメギアストラ女王やディアボロス族、ドラゴニアンと、魔界には空を飛べる種族も多いので、飛行についての注意事項は彼らにしてみれば基本的な事かも知れないが。

 その辺の事を伝えると、メギアストラ女王は真剣な表情で応じる。


「いやいや。それは貴重なものだろう。我らにとっては常識であるからこそ、飛べない者が操船した時に注意が及ばない、という事もある」

「ファンゴノイド族やパペティア族にとっては常識ではない、という事になりますな」

「うむ。感謝せねばな。船に関わる皆で熟読させてもらうとしよう」


 ボルケオールとメギアストラ女王は、そう言って頷き合うのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ