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番外1044 鬼娘と魔王と

 ユイの通力に関しては結構安全性が高い。調査用魔道具のデータ上は空気を取り込めば内部に人も立ち入れる事が分かったが……実証については一度迷宮の魔物で試してみれば分かるだろう。


 ここまでは門の入り口を作って単純な袋小路を構築した場合だ。出口や内部空間を操作する事で、ユイの能力使用の幅は大きく広がる。


「こうやって、こう、かな……!」


 ユイが薙刀を横長に展開した鬼門に向かって振り抜けば――離れた位置に立てておいた木の的が真っ二つに切断された。おお、という歓声が立ち会いの面々から漏れて拍手が送られると、ユイははにかむような反応を見せる。鬼門の入り口から変形させた薙刀で攻撃。鬼門の出入り口を利用して展開。斬撃を離れた位置に直接届ける、というわけだ。


「うん。鬼門の内部を変形させるよりは消耗が大分少ないね。慣れればいい手札になると思う」


 作り出した異空間を後から大きく変形、歪曲させた場合はユイも魔力を消費するが、そこを極力変えずに薙刀の変形と体術で補う事で魔力の消費を抑えながら、攻撃や防御の補助に利用できるというわけだ。


「鬼門を最初に作る時の構築の仕方で色々できそう。こんな感じ、とか」


 ユイは鬼門を構築すると、そこに軽い魔力弾を何発か撃ち込む。と、的に向かって小さな魔力弾が四方八方から撃ち込まれた。


 最初に門の出入り口と通路の形を形成し、それをそのまま攻撃として利用するわけだ。魔力消費量は多くなるにせよ、後から異空間の形を変えたり、時間差での放出もできるので、相手から異空間に撃ち込まれた攻撃を逆用できる、というのはアーキタイプとの戦いで見せた通りだ。


「しかし空間に干渉か。想像していた以上に強力な通力に目覚めたようだな」


 メギアストラ女王が感心したように言った。


「これ以上の使い方は、迷宮核で分析して安全性を確保した上で、でしょうか。その上で専用の術式を組んでやればもっと色々できそうな気もしますね。性質上、きちんとした修業も必要だと思いますが」

「うんっ。ちゃんと修業する」


 ユイは手にした薙刀に魔力を込めて気合を入れているようだ。


「鬼に何たらって諺もあるが、そいつを地でいってるな」


 レイメイも顎に手をやり、にやりと笑っていた。


「こうなってくると、ヴィンクルの術も開発したいところですね。竜の魔力だとまた変わった術も構築できそうですから」


 俺が言うとヴィンクルも嬉しそうに声を上げて応じてくれる。うむ。その辺は迷宮核でシミュレーションを行って考えてみよう。

 ともあれ、今日の所はこんなものだろう。ユイの能力の安全性は高いし汎用性や応用力にも優れているが、空間干渉という特性上、ある程度のリミッターが必要なのも間違いない。接戦や苦戦を想定するなら、余裕が無くなるから尚の事だ。


 まあ、ヴィンクルにしてもユイにしても、ラストガーディアンという役職から考えた理想を言うなら、いわゆる初見殺しで何もさせずに敵を倒す事、だろう。術式開発もその辺を念頭に置くのが良い。


 色々考えを巡らせつつ、検証に使った資料を回収する。これらと調査用魔道具は迷宮核に持ち込んで解析にかけておこう。


「先に資料を……そうですね。魔界側で解析作業にかけてきます」

「そうね。では、本体側で待っているわ」


 ジオグランタが頷いた。


「すぐに戻ってきますので、お茶でも飲みながら歓談というのは如何でしょうか?」

「うむ。ここの所、魔界迷宮の準備で色々と動いていたから、のんびりとさせてもらおう。そなたの母君とも話をしてみたい」

「ああ。それは母さんも喜ぶと思います」


 メギアストラ女王ともそんなやり取りを交わす。では、まずは魔界側の迷宮核まで行ってくるか。




 資料と調査用魔道具、それからユイの通力使用時の魔力の動きもウィズが記録している。それらのデータも迷宮核に入力して解析にかけておく。これについては後で術式やリミッターの開発に繋げていく事になるか。迷宮核での作業を終えてから、ジオグランタに送ってもらい、ルーンガルド側へと戻る。


「それじゃ、またお城で」

「ああ。また後で」


 と、ジオグランタと境界門越しに挨拶を言って、フォレスタニアへと移動した。


「戻って来たわね」

「おかえりなさい、テオ」

「ん。おかえり」

「うん。ただいま」


 フォレスタニア城の通信室にて顔を合わせると、スレイブユニットのジオグランタが楽しそうに目を細め、みんなも笑顔で迎えてくれる。

 ふむ。ラストガーディアンの任務もあるし、行く行くはヴィンクルやユイのスレイブユニットも構築しないといけないな。


 通信室では母さんとメギアストラ女王、レイメイも話をしていたようで、俺の姿を認めると、笑顔を向けてくる。


「――というわけで、我らも御子息には随分と世話になった。いずれ顔を合わせて挨拶をしたいところだな」

「俺達もだな。ヒタカでの戦いもそうだが、ホウ国での戦いは随分と助けてもらった。いずれゲンライと共に挨拶をしたいところだ」

『ええ。是非。東国もですが、冥精が魔界に足を運べた前例もあるようですから楽しみです』


 母さんが言うと、デュラハンとガシャドクロもこくこくと首を縦に振る。

 と、そこに水晶板モニターの向こうでブラックドッグのマデリネが顔を出した。


『ああ、リサ様。杖の意匠が大体纏まりましたので確認して頂いても良いですか?』

『ありがとうございます、マデリネさん』


 母さんはマデリネから杖の模型を受け取っていた。保全部隊の面々が作った即席の杖ではなく、ブラックドッグや天使達が鍛えた杖が母さんに贈られる事になったらしい。良いものを贈りたいと冥精達も大分気合を入れているとか。

 杖の先端部は天使の翼をあしらったような意匠が施されていて、全体的には壮麗な杖、という印象だ。


『ああ、これは……。意匠も良いですし、長さも丁度良くて使いやすそうです』


 立ち上がり、杖を軽く振るって頷く母さんである。

 何だか、石突の部分に小さな骸骨の意匠があしらってあるようだが……あれは母さんからの発案だろうか。冥精達が母さんの嗜好を聞いて気を利かせた結果かも知れないが。

 ともあれ、母さんとしては杖のデザインも含めて気に入ったようではある。マデリネも母さんの言葉を受けて『では、そのお言葉は伝えておきます』と応じて、俺達にもお辞儀をしてから尻尾を振りながら退出していった。


「専用の杖ですか。出来上がりが楽しみですね」

『ふふ。そうね』


 グレイスと母さんがモニターの向こうで微笑み合い、みんなも表情を柔和なものにしていた。

 そうして少し腰を落ち着けて、ティーカップを傾けながらメギアストラ女王とも今後の話をする。


「お披露目の日程は決まったから、後は……城外に入り口になる部分の構築ですね」

「ふむ。その作業については任せても良いのだったな」

「はい。基本的な形はタームウィルズのものを踏襲しつつ、利便性と警備しやすい形で構築しようと考えています」


 ウィズの記憶してる情報から模型のデータを引き出してきて、メギアストラ女王に土魔法の模型を見せて確認してもらう。


 デザインとしては、タームウィルズの迷宮入口の構造に合わせた。縦穴は一本道になるから警備しやすい。縦穴上部に結界を張れば有事の立ち入りや逃亡を制限する事も可能だし。


 後は、タームウィルズ側で月神殿と一体になっている代わりに精霊殿を構築したり、管理施設を併設する形で構築すれば利便性は良くなるだろう。お披露目の前段階で魔界側に移動し、少しばかり迷宮制御を手伝う事になるかな。

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