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番外1043 ユイの通力

 冥府関連の出来事の報告等も終わり、明けて一日。

 今日はユイの通力について検証しようという事で予定を立てている。

 レイメイも通力については気になっているそうで、今日の検証に関しては頃合いになったら顔を見せると言っていた。

 検証に立ち会うのはメギアストラ女王とジオグランタ。そして鬼としての先達であるレイメイという事になる。


 リヴェイラは……友達の事だから気にはなるが、自分は戦えない上に魔界や鬼とは無関係であるから、通力について詳しい秘密を知ると迷惑になってしまうかも知れないと、今回の立ち会いは遠慮するとの事だ。


 リヴェイラは今後もちょくちょくと現世に遊びに来る予定があるしな。そういう点でも気を回してくれているのだろう。まあ、検証が終わったらモニター越しにのんびり会話できる時間も取れるのではないだろうか。


 そんなわけで朝食をとってから執務を進めていく。領地内の視察に関しては昨日リンドブルムと見て回ったから、今日は大丈夫だろう。まあ、視察という名目ではなかったけれど。


 執務室に移動し、纏めてある書類に目を通して内容を確認し、承認が必要なものには印鑑を押していく。


「良いね。丁寧に纏めてあるからすぐに終わりそうだ」

「テオドールが戻って来た時になるべく楽が出来るように、って考えていたからね」


 ステファニアがそう言って笑みを見せる。有難い話だ。それほど書類の量も多くないので順番に終わらせていけばそれほど時間もかかるまい。


『伯爵領の執務は……今日はこのぐらいでしょうか。こっちの仕事が終わったらお手伝いしますね』


 水晶板モニターの向こうでアシュレイが言う。ん。アシュレイは今回留守番していたし、シルン伯爵領についても日々しっかりと執務を行っているというのが分かるな。


「ん。ありがとう」


 そんなわけで程無くしてアシュレイもシルン伯爵領から戻ってきて、確認済みの書類を纏めて貰ったりしながら、昨日、今日と文官のみんなから上がってきた書類にも目を通し、確認を終えて執務も滞りなく終わる。


「よし……。これで一先ず執務の方も大丈夫かな」

「ふふ、ユイさんも楽しみにしていましたよ」


 グレイスが微笑むと、みんなも表情を綻ばせる。ユイの明るい反応を想像したのかも知れない。




 執務が終わった事を知らせて中庭に移動し、みんなやユイと共に検証の準備を進めていると、魔界やヒタカから立ち会いの面々がやってきた。今の季節と時間帯だとヒタカは暗くなった頃合いか。鬼であるレイメイにとっては活動に支障のない時間帯であろうか。


「無事に戻ってきて何よりだ」


 レイメイが俺達の顔を見ると笑顔になる。


「ありがとうございます。冥府に同行した面々も体調に変化がないか経過を見つつ異常を感じたら報告するように伝えていますが、特に問題はないようです」

「ふふ、今日の検証もそうだけど、そういう姿勢はみんなも安心でしょうね」

「まあ、やらずに後悔はしたくないからね」


 ジオグランタに少し苦笑を返す。では、検証を始めていこう。


「それじゃあ始めようか」

「うんっ」


 視線を向けるとユイが大きく頷く。そうして目を閉じて薙刀を両手で握り、真っ直ぐに立てるように構えて魔力を高めていく。


「こいつはまた……冥府に行って実戦を潜ったからか」


 レイメイが感心したように言う。ユイの魔力は冥府に赴く前と後とで、更に研ぎ澄まされた印象がある。ユイの肩に手を置き、循環錬気を行って魔力の動きを見ていく。

 身体から余剰魔力の火花を散らしながら、ユイが手を前方へと翳した。


「――開門」


 通力による空間干渉はスムーズなもので。空間に小さな黒点が生まれたかと思うと、みるみるバスケットボールの直径ぐらいの大きさに広がった。

 魔力の網を広げて空気の流れも感知していたが――。


「作り出した異空間に……空気は勝手に入らないようになっているのかな?」

「えっと。検証だから広げた段階そのままにしてる感じ、かな? この状態を維持するのにはその分の魔力が必要で……内部に入ろうとするもの、内部から出ようとするものを意識的に止めようとするなら、その力に応じて私の方でも魔力を使う必要があると思う」


 ユイに尋ねると、そんな返答がある。なるほど。通力の扱いはユイからしてみると感覚的だと言っていたが、結構意識してコントロールできる部分が多いようだ。

 ユイの魔力の動きをモニターしつつ、構築された異空間の様子を調べていく。制御しやすい範囲という事で内部の大きさも然程広げてはいないとの事だ。

 空間を覗き込んでみるが暗い空間に水に浮いた油のような波紋とうねりが生じているのが見て取れた。構築している魔力のうねり、かな。この波紋は。


「異空間の構築なのに驚く程安定しているかな。魔力の消費量も抑えられているあたりは、固有の通力だからかも知れない」

「俺の通力も似たようなところがあるな。相性の良い力が引き出されるから、とにかく効率がいい」


 俺がそう分析するとレイメイが首肯して、掌の中に小さな竜巻を作り出す。……あっさりと見せてくれたが、風の操作がレイメイの通力か。本気を出すと相当な大規模で風を操る事ができそうだが。


「鬼は精霊に近い所もありますし、ユイが迷宮生まれだから、というのは影響しているかも知れませんね」

「ああ、そりゃ確かに」


 となると迷宮ではその効果も寧ろ大きくなるかも知れない。魔界迷宮のアシストを受ける事も可能……だろうか。その辺も少し可能性を模索してみよう。その為に魔力の動きをモニターしているわけだしな。


 先ずは――そうだな。魔法の明かりを可能な限り同量の魔力消費で二つ作り出し、片方を異空間内部に進ませる。内外で魔法の明かりの状態や持続時間が変わるかどうかを確かめる事から始めていく。魔法の明かりについては――特に効果時間に影響はないようだ。


 続いて木材や石、泡等を内部に収納して状態の変化を探るといった検証。泡は内部に入ったところであっさりと破裂してしまったが……改めて異空間に空気を取り込んでからなら泡が形を維持する事ができた。


「空気を取り込まない状態だと真空になるってことかな。維持するのに力が必要になるはずだ」


 空気を取り込まない場合。更に空気を内部に取り込んだ場合で内部に収納する素材を入れ替えて影響を確かめ……調査用魔道具を異空間に入れて、環境魔力、空気の組成等に変化がないか確認していく。


 データを取ってから調査用魔道具を取り出した。詳しい事は後程迷宮核で解析するとして。一先ずの調査魔道具の観測結果は空気を内部に取り込んでいれば安全、という答えを返してくる。


 因みに内部に物品を収納した場合、重力も正常に働いていないのか、どこかに落ちていく事もなく、その場にふわふわと浮遊しているのが見える。


「何というか……興味深い光景ね」


 ローズマリーも興味津々といった様子だ。

 更には……内部に物がある状態で通力を解除するとどうなるのか。鬼門の入り口に物が挟まれるとどうなるのかといった点の確認もしておく必要があるだろう。


 循環錬気で魔力の動きを見て、異常や制御失敗が起こらないように補助をしながら、検証の内容を伝えていく。内容を吟味してからユイは頷いた。


「うん。多分問題なく進められる、と思う。危険そうだったらその場で中止するね」

「ああ。魔力の状態はしっかり見ておくから、こっちから見ても危険そうだったら伝える」


 魂に根差した能力だけに、危険かどうかはある程度感覚で分かるようではあるが、さて。

 状態確認用の資材の中から次の検証用の資材を異空間の中に入れて実験を進めていく。


 入口を開いた状態で空間を閉じていくと、押し出されるように内部から外に資材が放り出される。ここまでは予想通り。今度は中に物がある状態且つ入口を閉じた状態での空間閉鎖。これについてはどうなるかと思ったが、物品が転移してくるように光に包まれて現れ、放り出される。


 鬼門の入り口を狭めて物品が挟まれた場合。物品を切断可能かどうかが疑問であったが、これについては普通に閉じようとしても木材すら切断できないようだ。水のような不定形なものならば問題なく分断可能。


「んっ……!」


 鬼門の入り口に挟む形で木材を無理矢理切断しようと、ユイが翳した掌を閉じるように力を込めれば魔力が火花となって散る。

 無理矢理閉じようとした場合は――ユイが魔力を込める必要があるようだ。木材を切る事はできたが……どうにも割に合わない魔力を消耗してしまうようで。


「門を使っての切断……には流石に使えないか。専用の術式を組めばいけそうな気もするけど、それでも効率は良くなさそうだね」

「でも、逆に安心して使える気がするかも」

「それは確かにな」


 俺の言葉に答えるユイに、メギアストラ女王も頷いていた。

 要するに……ユイが魔力枯渇等で通力を維持できなくなっても異空間外に弾き出されるし、無理矢理魔力を込めない限り閉ざされる入り口に挟まれて切断されるという事もない。

 便利さが目立つが能力それ自体は安全性が高い、というのは……ユイの通力らしくて良いのかも知れないな。アーキタイプやマスティエル本体との戦いで使ったような方法も有効だし、もう少し特性を調べたら新しい使い方も見つけられそうだ。

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