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番外1041 過去と土産話

「リサか……! いや、久しいの! これは嬉しいものじゃな!」

『ご無沙汰しています、アウリア様』


 水晶板モニター越しにではあるが、アウリアと母さんが顔を合わせて笑顔で挨拶する。アウリアの性格もだが、母さんとは元々知り合いだったという事もあって二人とも明るい雰囲気だ。ペネロープもそんなやり取りを見て目を細めていた。


「ああ。そうじゃった。そなたに貰ったあの例の鎖付の杖じゃがな。割と使いこなせるようになったぞ」

『あれをですか……?』


 アウリアの言葉に、目を瞬かせる母さんである。


「うむうむ。風の精霊にちょいと照準を手伝ってもらうわけじゃな。後は打撃として命中させた時に、自分を巻き込まないような術を選んで発動させる方法もある」

『それはまた。アウリア様ならではの解決法と言いますか……。近接時で術を選んで使うのは確かに有効そうですね』

「まあ、やや汎用性に欠けて使い所を選ぶのは確かじゃがな。副装備として携行する分には有効な状況もあろう」


 と、二人はそんな会話をする。例の鎖付の杖、というのは……前にアウリアに見せてもらったモーニングスター型の杖の事だな。振り回しながら魔法を発動させる事で相手の意表をつく角度から魔法を撃ち込んだり、盾や遮蔽物の向こう側に魔法を叩き込んだりできる、というコンセプトで母さんが作った物らしい。

 モーニングスターの先端は骸骨の意匠になっているのが母さんらしいというか。


 まあ、結果として魔法が飛んでいく場所を制御しきれないので失敗作扱いであったそうだが、アウリアが面白がって母さんから譲ってもらったという話を聞いている。

 譲ってもらった以上は、という事なのか。しっかり使いこなせるようになっているアウリアであるが。


『ちなみに……あの武器はテオ達も?』

「一応、そなたとの思い出という事で見せたが……まずかったかの?」


 と、少し小声になってやり取りする母さんとアウリア。


『いえ、テオ達も大きくなっているのであの意匠で怖がられるという事もない、とは思うのですが。その、今にして思うと武器としてはちょっと先鋭的過ぎたかな、と……』

「ふっふ。作りは丁寧で頑丈な上に、術式の発動体としても上々ではあるな」

『ロゼッタも手甲に関してはそう言っていました』

「あの手甲に関しては、かなり大事に手入れしていると聞いているぞ」

『ああ。それは……嬉しいかも知れません』


 嬉しそうに微笑む母さんである。ロゼッタの場合、あの髑髏意匠の手甲に関しては切り札にしているようでもあるしな。


「ふふ、お二人とも仲が良さそうですね」


 ペネロープがその様子を見て楽しそうに言った。作戦室――というよりは通信室として継続利用しているその場所で、マルレーンがにこにこしながらペネロープの言葉に頷いている。


「そうですね。母の冒険者時代に面識があったそうで」

「リサ様やヘンリー様、ロゼッタ様には神殿からの依頼も受けて貰った事があるそうですよ」

「ああ。そんな事が?」

「はい。壊れてしまった祭具の修繕に、魔石の納品依頼を出したそうです。担当なさったのが厳格な方で冒険者に頼むのは不安があったそうですが……リサ様達にはかなり好印象を抱いていたようだと、話題になった事があるのです」


 なるほど。丁度出会った頃のケンネルのような感じかな。




「ありがとうございました。お話楽しかったですよ」

「だとしたのなら良かった。また同じような機会を設けられたら良いですね」


 そんな調子で、アウリアやペネロープとお茶を飲みながら昔の話に花を咲かせたりして……それから神殿を後にした。

 待たせていたリンドブルムはと言えば、飛竜が好きだという巫女や、見習い巫女達から撫でられたり果物を貰ったりしていたようだ。


「ありがとうございました。楽しかったです」

「そうだったのなら良かったです。リンドブルムも機嫌が良さそうですし」


 巫女達にお礼を言われてしまう。

 別れ際、手を振る見習い巫女達に首を巡らせて振り向きつつ、軽く尻尾を振り返すなどして応えているリンドブルムである。


 そうして月神殿から出て境界劇場の様子を見たり、冒険者ギルドに顔を出したりしてからリンドブルムに乗ってタームウィルズの街中を巡る。

 東区の別邸に足を運んで迷宮村の面々と話をしたり、植物園に飛んでいけば花妖精やノーブルリーフ達から帰還の歓迎を受けたりした。


 花妖精達は言葉を話さないが、にこにこと笑顔で飛び回り、ノーブルリーフ達と手と葉を繋いで、くるくると踊りを披露してくれた。

 帰還の喜びを示してくれていて、見ていて中々に楽しい。通信室のみんなも微笑ましそうにそれを見守り、イルムヒルトが即興でリュートを合わせる。


 それにますます花妖精達が喜んで……場の魔力が高まってノーブルリーフ達の魔力も充実しているのが分かる。


『ノーブルリーフ達も楽しそうで良いですね』


 アシュレイが微笑む。鉢植えのまま浮遊するハーベスタもこくこくと頷いていた。


「ん。挨拶回りに来て良かったな」


 それから更に造船所や孤児院等も巡って知り合いに顔を見せたりしてからセオレムへと向かう。

 工房の面々は後からフォレスタニア城に集まるとの事なので、その時にのんびり話をしたりすることにした。迷宮商会の店主であるミリアムは――相談事があって王城セオレムに出かけているようだ。このまま王城に向かう予定なので、ミリアムにも挨拶できそうだな。




 そうしてセオレムに到着する。リンドブルムは王城の竜舎に行って顔見知りの厩務員と飛竜達に挨拶をしてくるそうだ。俺は女官から迎賓館の一角に通された。

 そこにはジョサイア王子とその婚約者のフラヴィア嬢。それからミリアムもいて。


「ああ。これはジョサイア殿下にフラヴィア様。ミリアムさんも」

「こんにちは、境界公。先程まで商談……というよりは結婚式の際に入用になりそうな魔道具について、打ち合わせをしていたところでね」


 ジョサイア王子がそう言って、フラヴィアとミリアムも一礼してくる。なるほど。ジョサイア王子の結婚式に絡んだ話か。結婚式周りの演出を請け負った俺にも関係してくる話だから、来訪を聞いた時点で女官に自分達のところへ通すように伝えたのだろう。


「必要になりそうなものとその見積もりについてのお話をしていました。境界公にも、書面で纏めてからお渡ししますね」


 と、ミリアムが言う。ん。俺も冥府の件で少し離れていたから助かる。


「ありがとうございます。今回は――旅先の物品をお土産にできなかったのはやや申し訳なくありますが」


 半霊体の品々では現世に持ち帰っても消失してしまうからな。冥精の武器のように、精霊と結びついている品ならば現世に持ち込んでも大丈夫なようだが。


「いやいや、お土産というのならお話だけでも楽しそうです。行商をしていたからと言いますか、物珍しいお話には目がないので」


 ミリアムに礼を言うとにこやかな笑顔でそんな風に返された。

 そうだな。関係者を探して引き合わせてもらって、ベル女王達には感謝しているし、土産話に関してなら事欠かない。


 そこに女官が再びやってきて、メルヴィン王も執務が終わっているので散歩がてら迎賓館に顔を出すと伝えてきた。


「では……土産話は父上も交えてかな」


 ジョサイア王子が目を閉じて頷く。


「そうしましょうか。報告も兼ねて、という事になりますが」


 メルヴィン王も冥府にいるエステル王妃と話をしているし、冥府に向かってからの経緯も伝えているが、戦いの状況等、詳しい話となるとまた印象も違ってくるだろうし。

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