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番外1040 迷宮都市の近況

 リンドブルムに循環錬気。城を出たらまずはスピードを楽しむように高度を落とし、湖の上、水面すれすれを低空飛行していく。

 地面からの高度が低いとよりスピード感が増すわけだな。フォレスタニアでは湖中にも人がいるので、一時的な五感リンクを形成し、ライフディテクションで生命反応を見て、誰もいないところを選んで飛翔する。


 頬で風を切る感覚。流れる景色。俺が笑えばリンドブルムも楽しそうに声を上げた。

 身体を錐揉み状に一回転させながら城と街とを繋ぐ橋げたの間をすり抜けたところで、急角度で上空へ向かって飛ぶ。


 俺とリンドブルムがしてもらいたい動き、したい動きを思い描けばそれが循環錬気と五感リンクで互いに伝わって、言葉や動作に出して指示せずとも即座に実行に移せるわけだ。

 戦闘中であれば意思統一する必要があるから主導権を貰ったりするが、今は遊びなのでお互いの提案に同意や承諾の感覚を返す事で、思い描いた通りの機動と軌道で飛び回る事ができる。このへんの一体感と飛翔感はやはり楽しいな。


 俺達が飛んでいるのを見かけたマーメイド、魚人族、マギアペンギンといった面々が湖畔から顔を出して手やフリッパーを振ってくる。逆さまに飛びながら俺とリンドブルムがそれぞれ手と尾を振って応じると、湖畔から挨拶してきた面々も笑顔を見せたり、声を上げていた。


 そうして思う存分スピード感を楽しんだところで、段々と緩やかな速度にしながら大きな弧を描き、フォレスタニアの街の上空へと侵入する。

 街の人々も、俺の姿に気付くと手を振ってきたりして。俺とリンドブルムはやはり手を振ってそれに応じる。


 そうしていると、リンドブルムが五感リンクを使って知り合いを発見したと知らせてくる。リンドブルムの視界で状況を確認してそちらへ向かうと、向こうも気付いてこちらを見上げてきた。


 冒険者ギルドの手前でヘザー、ベリーネとフォレストバードの面々が話をしているところであったようだ。

 そのまま緩やかな速度で下降して地面に降り立つ。


「ああ。これはテオドール公」

「おはようございます」

「ええ、おはようございます」


 居並ぶ面々と朝の挨拶を交わす。


「先程タームウィルズから降りて来たところで、丁度フォレストバードの皆さんとお会いしたのです」


 と、ヘザーが教えてくれる。

 なるほど。通勤してきてこれから仕事というところで、見回りのフォレストバードの面々と顔を合わせたわけだ。


「僕は昨日問題が解決したので帰ってきたところです。今日は骨休めや挨拶がてら、あちこちリンドブルムと見て回ろうかと」

「ギルド長から事情も伺っていますが……本当に、ご無事で何よりです」


 ベリーネは真面目な表情を浮かべると、丁寧に一礼してくる。ベリーネは策士という印象があって言葉の虚実が分かりにくいが、アウリアの話によるとこういう雰囲気の時は本音で話をするらしい。

 冒険者ギルドの面々からも、祈りの力は届いていたしな。


「ありがとうございます。冒険者ギルドの皆さんの力も届いていましたよ」

「個人では微力ではありますが……そうであったのなら嬉しいですね」


 真剣な表情で静かに頷くベリーネである。顔を上げた時には平常通りに戻っていたが。


「本当に。テオドール様達がご無事で俺達も安心しました」

「今回は出かけた先が出かけた先でしたからねぇ……」


 ロビンが言うと、ルシアンもしみじみと同意していた。往来なので具体的にどこに出かけたとは言わないが、情報共有はしているからこれで通じる。


「みんなもその辺心配だったみたいだから、今回は安心したって声が多いね。ゲオルグからはフォレスタニアも異常はないって聞いてるけど、留守中はどうだった?」

「街は確かに平常通りです。俺達の視点で言うなら、冒険者達もいつも通り元気が良い印象ですね」

「ヘリアンサス号の航海の事もあって、夜桜横丁で東国由来の武器や防具が手に入るという情報が人伝に広まっているようですから。遠方からも冒険者や商人の来訪が増えているみたいですね」

「刀や手裏剣の使い方もギルドで指導してくれてるしな」


 フィッツとモニカがそう言って頷き合う。夜桜横丁で手に入る武器の使い方についてはヒタカから人員を派遣してもらって、ギルドを借りて広めたりしてるわけだ。

 ヘリアンサス号……東国との貿易についても商人達に話がいっているからな。それで更に夜桜横丁が注目を集めているのだろう。

 夜桜横丁に関しては俺の影響で迷宮に形成された事に間違いはないが、実際のところは迷宮に集積されていた東国の情報が、俺の影響をきっかけにして表出した、という感じがする。日本の情報よりもヒタカのそれが反映されているように見えるし。


 ともあれ、夜桜横丁についてはヒタカにも伝わっている。ヨウキ帝としては、そうして迷宮から手に入る土壌があるのならヒタカに馴れ親しんでもらう意味でも武器の使い方などを指導できる人員を派遣すれば結果として交易も盛り上がる、と考えているようだ。


 夜桜横丁で手に入る武器や防具も悪いものではないが、流石にヒタカの職人が作った一級品には及ばないしな。交易では実際にその辺の品が扱われるので、夜桜横丁で手に入る武器防具は間口としてよく機能してくれると思う。


「指導に関しても中々評判がいいんですよ。話が分かりやすい上に、直剣の使い方も調べた上で、違いも解説してくれますから」


 と、ヘザーが笑みを見せる。


「ヨウキ陛下も良い人材を派遣してくれたようですね」


 絡繰り仕掛けの忍者が持っていた道具も確保できるのでイチエモンと繋がりのある人物を派遣してくれたようだし、情報伝達も得意分野なのだろう。




 冒険者ギルドフォレスタニア支部の前でそんな風に世間話をしてからフォレストバード達やベリーネ、ヘザーと別れ、またリンドブルムに乗って移動する。神殿の様子、運動公園、幻影劇場の様子を見てからタームウィルズの――迷宮入口へと移動した。


 飛竜に乗って迷宮入口に出現したので多少注目は集めたが、居合わせた冒険者の面々も俺だと気付くと会釈してくれた。まだ結構早い時間帯だが、何組かの冒険者グループが探索を始めようとしているところで……朝からしっかり迷宮探索に臨もうとしているからか、気合の入っている面々が多いようだ。タームウィルズも活気があるようで何よりである。

 そんな冒険者達を横目に眺めつつ、そのままリンドブルムに乗って縦穴を上昇し、月神殿へと出る。


 と、俺の姿を認めた月神殿の巫女が挨拶をしてくる。今日はタームウィルズのあちこちに挨拶回りに行く予定だ、と連絡を回してあるのだ。

 ペネロープとアウリアが神殿で待っているとの事で、俺が顔を見せたら会いに来て欲しいとの事であった。リンドブルムの鞍に付けた荷の中に、水晶板モニターを入れてあるから、それも持っていくとしよう。


「少し話をしてくるよ。リンドブルムは建物の中で待ってる? それとも外で待つ?」


 尋ねると、リンドブルムが声を上げる。翻訳の魔道具によると俺を待っているとの事で。神殿奥に続く通路の脇で静かに腰かける。


「良い子ですね。見習いの巫女に飛竜を好きな子がいるのですが……撫でたりしても大丈夫ですか?」

「そうですね。僕以外は乗せたがらないので、背中に乗ろうとさえしなければ問題ないと思います」


 俺がそう言うとリンドブルムはこくんと頷いていた。うむ。

 そんなわけで月神殿の一角に、巫女に案内してもらって向かうと、そこにはペネロープとアウリアが待っていた。


「おはようございます、テオドール公」

「おお、テオドール……!」


 と、二人が笑顔で俺を迎えてくれる。


「おはようございます。お二方とも元気そうで何よりです」

「ふっふ。此度の旅は有意義なものになったようだの」


 俺の言葉にアウリアが笑ってそう答える。そうだな。母さんやエルリッヒ達の一件もあるし。

 アウリアの言葉に笑みを見せて頷き、俺も腰を落ち着けると、巫女がお茶を淹れてくれるのであった。

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