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番外1039 境界公と休日と

 冥府からフォレスタニアに帰ってきて、みんなに挨拶をした後、魔法の鞄から余計な荷物や旅支度を取り出して片付けたら完全にオフという事でみんなと共に休ませてもらう。

 何だかんだと冥府では気を張り詰めている場面が多かったし、余計な事を考えず肩の力を抜いていられる時間も必要だろう。


 フォレスタニア城にある船着き場の……陽当たりの良い場所に敷布を敷いて、寝転がってのんびりと日向ぼっこだ。

 近くに机も持ってきてそこに水晶板モニターを配置して各所と話をできるようにしつつお茶を飲んだり、みんなと一緒に骨休めだ。


 フォレスタニアは迷宮内部にある都市なので、その環境は人工的だ。

 ドーム外周の遠景は映し出されているもので、気温、湿度、天候などが管理されているので、晩や冬にかけても暖かい。

 昼夜のある環境も人工のものではあるのだが年間を通して暑すぎず寒すぎず、今の季節も寝転がって昼寝をするにはいい塩梅の暖かさだと思う。


 というわけで、心地の良い水の音を聞きながら日向に寝転がって、羽根を伸ばさせてもらう。

 船着き場で寝転がっているとリンドブルムもやってきて、寝転がっている俺の近くに顔を寄せてくる。


「ただいま、リンドブルム」


 そう言いながらリンドブルムの顎の下や頬を撫でると、リンドブルムも心地良さそうに目を細める。傍らでカドケウスが脇腹の上に顎を乗せてきたりして、それを撫でているとネメアやカペラが顔を出し、バロールも頬……というか胴体を寄せるようにやってくるといった具合だ。ウィズも傍らで心地良さそうに日光浴をしている。


「みんな嬉しそうですね」


 そんなやり取りを見て、微笑ましそうに和んでいる様子のグレイスである。みんなも日向に寝転がって一緒に日向ぼっこという流れになっているが。


「うん。カドケウス達には色々働いてもらったからね。リンドブルムには留守番をさせちゃったけれど……そうだな。明日あちこちに回るから、リンドブルムと一緒に出掛けようかな」


 そう言うと、リンドブルムは嬉しそうに喉を鳴らし、尻尾の先を振ってビタビタと船着き場の石畳を叩く。うん。では決まりだな。明日はリンドブルムと共にフォレスタニアとタームウィルズの挨拶回りという事で。


 俺達が帰ってきた事を聞きつけてマギアペンギン達も船着き場にやってきて、寝転がっている俺にフリッパーを振って湖に飛び込んだり、雛達やカーバンクルが挨拶に来たりして。

 寝転がったまま軽く撫でたりしていると、そっと頬ずりをしてきたりと、何ともこそばゆい事だ。


 壁に背中を付けて一緒に仲良く座っているコルリスとアンバーがぽりぽりと鉱石を食べている。視線が合うと揃って手を振ってきて、その光景に表情が緩んだりしてしまうが。

 和やかな光景と暖かな日差しに目を閉じて。そうして心地のよい軽い眠気に身を任せるのであった。




 船着き場で軽く昼寝をして目を覚ました後はサロンで本を読んだり、早めに風呂に入り、寝室で夫婦水入らずの時間を過ごさせてもらう。

 循環錬気も行っていくが……ロゼッタの言っていたように母子ともに健康というのが確認できて、生命力の補強もできたので俺としても安心である。


「この前循環錬気をした時より、生命反応も強くなってるね」


 寝台の上で寝転びながら手を繋いで隣にいるステファニアに言うと、表情を綻ばせる。


「テオドールも先生達も、見解が一致しているから安心できるわね」

「そう感じてもらっているなら、俺としても嬉しいな」


 身体的な負担、心理的な不安やストレスの軽減になっているなら俺としても言う事はない。

 万事通常通りに進むのが一番だと思うので、子供達については必要以上に干渉しないよう生命力の増強に留めているけれど、それでも伝わってくる事はある。必要な情報はルシールやロゼッタ、それに迷宮村の住民とも共有して相談もしたりして、経過を診て貰っているという状態だ。


 イルムヒルトについてはラミアなので……迷宮村の住民の意見はロゼッタ達としても参考にしているそうだ。

 グレイスの場合……ダンピーラの子については更にレアケースではあるのだが、ベシュメルクにも事例が残っているのでクェンティンやパルテニアラに資料や文献を提供して貰ったりしているという状態である。


 当時の魔界にあった変異点にてヴァンパイアに変異したのは、メイナードだけではなかったようだしな。傭兵を含む、調査隊の何名かが変異してしまったそうだ。

 その中でも……やはりメイナードの力は突出していたらしい。変異点で大きな力を受け止められるだけの器だったか、或いは変異点との相性、ヴァンパイアとしての適性を持っていたのがメイナードなのだろうとパルテニアラは推測している。


 当人は、魔界から戻る前に血玉を残して消えてしまったが……そうした大きな力があったからこそ、後世に力を残す事を危惧したのだろう。吸血衝動も……理性と良識から苦悩したりするし。


 ヴァンパイアに変異した者達のその後、子孫についてはメイナードの事もあってベシュメルクは功労者として支援しようとしたようで。変異者全員のその後までは資料が見つかっていないものの、人と交わって血を薄れさせ、段々と特性を失っていったというケースは発見されている。


 それによると……吸血衝動は食欲や愛情に起因しているから、自我、自意識の発達にも関係があるそうだ。従って、ある程度物心つくまでは吸血衝動は大きな問題にならないと、そんな内容で実際の事例と共に纏められていた。要するに出産においては大きな違いはない、という事だな。

 その上で生まれてくる子供のために新たに特性封印の呪具を準備しているので、準備は万端と言えよう。


 子供達の事を心配し出したら他にも色々と気になってしまうのだが……まあ、今のところは循環錬気でも問診でも順調なので、後は準備を進めつつ、日々を穏やかに過ごして経過を注視していくしかないな。


「循環錬気や問診もだけど、何よりテオドールが一緒だから安心」

「そうですね。確かに」


 シーラの言葉にアシュレイが微笑みを浮かべ、みんなもうんうんと首を縦に振っていた。


「ん……。それは俺もかも」


 そう答えると嬉しそうなマルレーンから抱きしめられたりして。みんなとの循環錬気で俺自身の生命力や魔力も増強されるのを感じつつ、ゆったりとした時間が過ぎていくのであった。




 そうして一夜が明ける。朝食をとってからモニターで挨拶。城の面々にも朝の挨拶と共に、日々の仕事を労い、留守中はどうだったか尋ねてみる。


「フォレスタニアもタームウィルズも平和なものでした。みんな、城内の仕事や買い出し、お使い等にも慣れてきた感がありますね」

「私も皆に留守中の事を聞いてみましたが、新しい暮らしに馴染んできている様子ですな。迷宮村の方々も親身になって相談に乗ってくれたり、経験を話してくれたりするそうで」


 と、セシリアやオズグリーヴが教えてくれる。迷宮村の住人達と、隠れ里の住人達の生活と目標については平穏ながらも順調なようだ。

 読み書き計算といった勉強や職業訓練を段階的に進めたりしているが、迷宮村の住人達が元魔人達の面々に手を貸してくれているようで、有難い話である。


 続いて城勤めの文官や武官といった面々からも話を聞いてみるが……こちらも概ね平和なようだ。報告書については纏めてあるそうなので、帰ってきたら目を通してみるとしよう。


 さてさて。そんなわけで城勤めの面々と言葉を交わしたら街中に出かける事となった。


「それじゃちょっと行ってくるね」

「はい。テオの事、よろしくお願いしますね」


 グレイスが俺の言葉に頷いて微笑みを向けると、リンドブルムもこくんと首を縦に振って応じる。そうしてリンドブルムの背に跨ると、一声上げて一気に空へと舞い上がる。上空から中庭のみんなと手を振り合って。そうして街を目指して飛ぶのであった。

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